第39話、ブレイクするのはじゅもんじゃないって分かっていたのに
SIDE:サーロ
正にそこしかない、といったタイミングでちょうど真っ只中に飛び込んでしまった俺。
何だかよく状況がわからないのだけれど、彼は悪ぶっていても悪気はないの、誤解ですと。
割って入ってしまったのが運の尽き。
格好良く庇う形になったところまではよかったのに、何故かそのまま理不尽な矛先が俺の方に向きだしてしまって。
それでも、グレアムさんと一蓮托生……一緒になって逃げ回っているうちに(基本的に反撃をしないところがミソ)。
ついにはそこへ、ラルちゃんたちも追いついてきて……。
その流れで大人しく連行された次第であります、はい。
ちなみに、グレアムさんにこれといった落ち度はないはずであるからお咎めなしというか、むしろギルドに託した依頼をドタキャンしたこちら(イゼリちゃん)の方に問題があったため、また日を改めまして、侘びのひとつも入れにお邪魔する、というところまで纏まったのがせめてもの救いではあって。
後は、俺がこの自業自得にすぎる、のっぴきならない事態をどう乗り切るか、であろう。
イゼリちゃんの振りをしてつきまとってました、とか。
その際、聞いてはまずかったであろうガールズトークに、調子にのって花を咲かせてしまいました、とか。
添え膳キッスを今か今かと狸寝入りしつつ待ちわびていました、とか。
正直にゲロってしまって。
タコ殴り、あるいはとっちめられ成敗されてすむのならば話は早いのだけど……
などと思い立ち、いざそれを口にせんとする正にそのタイミングで。
遮るように重い口を開いたのは、ラルちゃんの方であった。
「色々聞きたい事、言いたい事はありますが。……まずは、ごめんなさい。あの時は気が動転していて、あなたに全てを押し付ける形になってしまいました」
「……っ」
ある意味予想外というか。
だけど、これがラルちゃんなんだなぁ、なんて。
納得過ぎるくらいに納得させられてしまう、そんな言葉。
なんて言えばいいのかな。
純粋で良い子というか、そりゃぁ救世主だなんて呼ばれてますわ。
そんな風に感心すらしていた俺以上に。
イゼリちゃんやリーヴァさんの方が驚き言葉を失っているくらいで。
「いやいやっ、それはこっちの台詞だって! ラルち……きみの置かれている状況も知らずに焦ってた俺の方がどうしたって悪いでしょう。……ほんとに、すまなかった」
反射的にそんな言葉を返しながらも。
はっきりと、まっすぐにそう言われて、思い出したことがある。
彼女が訪れることとなったこの世界は。
宿命に追われ続けていた救世主の、本の束の間でも心安らげる、羽休めをするための場所であり機会である、ということを。
今の今までは、救世主な彼女をもてなすのは俺なのだと、躍起になっていたのは確かで。
そんな俺が近くにいれば、心安らぐ暇もないと言うのならば。
どこへでも姿を消してしまうべきなのだろう。
一応存在理由というか、こんな俺にも使命があるからして。
そうなった場合気づかれないくらい近くて遠い場所で見守るくらいはするのかもしれないけれど。
「……まさか、会えるだなんて思ってもみなかったものだからさ。調子に乗っちゃってたのは間違いないんだ。でも、もう大丈夫。なるべくは近づかないようにするよ。とは言っても、一応オシゴトが与えられてるから、こっそり見守らせていただくことになるとは思うけど……」
俺のオリジナル……俺のようでいて俺ではないけれど。
彼女がふるさとから逃げ出したくなるくらいのおイタをしでかしてしまったのだから。
本当はこっそり見守るだなんて、ストーカー甚だしい権利も資格もないわけだけど。
「……えっ? な、なんで? ちょっと待ってくれ。どうしてそんなことになるんだ。別にそんなつもりじゃっ」
「何でも何もないさ。自身の今までの行動を省みた結果さ。他人に成り代わってまでつけ回すだなんて、ありえないだろう?」
やさしいラルちゃんは、仮面で繕っていることもすぐに忘れて、動揺している。
彼女がそう言ってくれるだろうってことを、分かった上での言葉なんだから、本当に度し難いよな俺ってば。
本気で今すぐいなくなった方がいいような気がしてきたぞ。
「ひとになり変わる? えっと、それは……」
……あれ? もしかしなくても、この期に及んで気づいていなかったのかしら。
すげえ勢いで墓穴掘っちゃってる?
イゼリちゃんがこれ見よがしにあちゃあ、だなんて仕草をしているのを見るに、マジでバレていなかったのだろうか。ウッソだろ?
あ、でもこれで きっと間違いなく見切りをつけられるのだろう。
暴力などに訴える系ヒロインでないことは、既に百も承知だけれど。
蔑んだ目で見られるのは逆にご褒美……にはならないか。
俺の場合、こう見えてもめっちゃ心、メンタル弱いからね。
「あのその、えっと。ボクの姿借りるよってお願いされてたんだ、そのなんて言うか……ごめん」
「あう、わたしも知ってました。ごめんなさい、ラルさま」
何てことを考えている間に。
ついにはいたたまれなくなったのだろう。
やっぱり良い子な二人が、気まずそうに頭を下げてくるから。
諸悪の根源な俺としては、間に入る隙間もなくなってくるほどで。
もうこうなってくると。
どのような沙汰でも受けましょうと言わんばかりな。
それこそ悟りでも開いたかのごとき、境地に陥っていて……。
(第40話につづく)
次回は、2月4日更新予定です。




