第38話、未練のかたまり、結局未だ捨てられず
SIDE:ラル
始まりのきっかけは。
ラル自身はそれなりだろう思い込んでいるのが何よりたちが悪いくらいにはやんごとなき生まれであった彼女が、当たり前のように禁じられていた夜の物見遊山という名の冒険と、趣味が高じた一日勧善懲悪のために、その正体を隠すための魔法道具を、そもそもラルが故郷から逃げ出す羽目になった人物にもらったところから始まっていた。
何せ、夜でなくともラルは目立つ。
そんな、生きづらく身動きの取りづらい不自由なラルを慮って、プレゼント(ちなみに手作り)してくれたのが……この、声だけでなく見た目に認識すらずらしてくれる、仮面であった。
しかし、そもそも多少認識をずらしたり声を変えたくらいでは隠しきれない、人々に注目されるために生まれてきたような彼女がそれを身に付けることで。
【ラブ・ファントム・マスク】などと名付けられ、誰もが知る有名なマジックアイテムになってしまった事実をラル自身が知らないのは、いいやら悪いやら、ではあるが。
それは、ご多分に漏れずこの世界でも同じで。
ラルがしっかりそれを装着していても、滲み出る存在感が凄すぎて全然正体を隠せてはいなかったわけだが。
そんな彼女が改めて気づかされたのは。
自身を終わらせた存在からできるだけ遠くに逃げたと思っていても。
本当のところは、未だに女々しい(ラルはそう言われるのを何より嫌がる)未練が立ちきれていない、という事実で。
「……取り乱してしまいました。すみません。とにかく、彼に色々と聞かなくてはならないこともありそうですし、探しましょう」
そう思うのならば。
そんな未練を仮面ごとさっさと投げ捨ててしまえばよかったのに。
それを捨てるのはとんでもないと心が叫んでいたから。
姫の忠実なる従僕といった、心地よくて都合のいい自分を取り繕うとするラル。
当然、仮面をつけたままどころか、話し方すら戻してしまったラルに、アイだけでなく出会ったばかりのノアレですら不満があるようだったが。
ラルはその事も気づかないふりをして、相変わらずの恥ずかしさを誤魔化すように。
いっそのことすべてをあの男……サーロのせいにしてしまえ、とばかりに。
改めて生けとし生けるものにある魔力の検知を強化し、そう遠くないところにサーロがいるのを発見すると。
実に軽い身のこなしで、それ以上突っ込まれないうちにと来た道を引き返してゆく。
結果的に見れば。
あれだけ渋っていたのにも関わらず、ラルから率先してサーロの元へ向かわんとしていることに。
気が付くこともなく……。
SIDEOUT
※ ※ ※
SIDE:サーロ
今度は驚かしたりなんかしちゃって、どこかへいってしまわないようにと。
戦略的撤退をもって故郷の救世主な一族の十八番でもある、結構高等な瞬間移動の魔法を使ったわけだけど。
何故だかどうしてか、ついつい魔が差したことによるお茶目な嘘が、白日のもとに晒されてしまっていた件。
一体全体、なんでこんなことに!?
……などと嘆くヒマもあらばこそ、現在進行形で俺は。
5人の多種多様魅力それぞれな5人の美少女たちに囲まれるようにして、正座なんぞしつつ懺悔の機会を頂いている次第であります。
みんなでなんだか楽しそうだからといった理由でもっていっしょに参加しているらしいアイちゃんと。
いつの間にやらラルさまと愉快な……もとい、可愛い仲間たちに加わってしまっているノアレさんと名乗った魔導人形の少女はともかくとして。
もはやすっかり諦め、悟りの境地に陥っていた俺は。
元気いっぱいな感じで何よりなイゼリちゃんと。
受付嬢のお仕事はどうしたのか、何故ここにいるのかもよく分かっていないリーヴァさんに脇を固められる形で。
ちょうど正面に相対するラルちゃんにいつでも土下座できますよ、的なスタンスを保ちつつ、そのお言葉を待っている状況にあった。
ちなみにその沙汰を待つ場所は、グレアムさんのお屋敷にお邪魔する前に、言われずともこんなこともあろうかとなんだかんだ言ってとっていた宿の一室である(一応、二部屋はおさえておいた)。
「……」
「……」
相変わらず仮面をつけたまんまのラルちゃんは。
しかし仮面越しに俺を睨みつけてくる(多分)ばかりで。
それでもなんだか、すっごい圧があって。
その場には、今すぐにでも儚くなってしまいそうな緊張感が漂っていた。
この、いよいよ追い詰められた現状は。
一時撤退を余儀なくされた俺が、それでも律儀な性格が災い? して、『健康診断』の結果だけでも知りたいなぁと。
わざわざグレアムさんの元へ魔法により跳んだ結果でもある。
どうしてそんな事態になっていたのか。
きっと恐らく、グレアムさんの悪ぶった行動理念に原因があったのだろうが。
そこでは何故か、メイド長なタナカさんを筆頭に。
イゼリちゃんやリーヴァさんがよってたかってグレアムさんに集中攻撃……とどめを刺さんとする光景が広がっていて……。
(第39話につづく)
次回は、2月1日更新予定です。