第37話、今更もう、仮面つけて役になりきっても無駄なのである
SIDE:ラル
正しくも、魔導人形が世界に顕現、維持されるための鍵、あるいは楔であるように。
ある意味物語のあらすじの確たるものとも言えなくもない、『キス』をする機会は。
ラルにとってみれば、初めてのことではなかった。
色々な世界を渡り歩き、その全てに存在を示し留めてきた彼女は、経験豊富なのである。
……とは言っても、なけなしのプライドと矜持をもって付け加えれば。
異性との経験は皆無である。
同性ならば構わない、と言う訳では当然なく、必要に迫られた場合がほとんどで。
しかしだからと言ってそれに慣れてしまうなんてことは全くなく。
ラルは、ここまできた目的も、それまであった感情も。
どこかへ飛んでいってしまうくらいには激しく動揺しテンパっていた。
自らで課した仮面の設定……姫に仕えし忠実なる従者であることすら忘れ、言わなくていい過去の黒歴史すら口にしてしまうほどで。
故にすぐには気づけなかった。
『魔法機械』に備え付けてある棺桶めいた場所で、死んだように眠っていたはずのサーロが。
煙巻いて跡形もなく、忽然と姿を消してしまったことに。
「……あれ? おにいちゃん、消えちゃった!?」
「えっ? あっ……いない! な、なんでっ」
その事実に初めに気づいたのは、ここに来てから大人しく隠れたまま、だけどずっとサーロのことを注視していたアイであった。
言われるがままに棺桶めいたベッドを再度見やると、確かにその棺桶はもぬけの殻になっていて。
ラルは素のまま声を上げ、すかさずノアレと名乗った魔導人形の少女へ詰め寄っていく。
「あっ、あいつは? どこにっ!?」
「……? いえ、存じませン。ワタシがナニかしたわけではありませんヨ、ご主人サマ。そもそも、この魔導機械は、中に入った人物の健康状態を知るモノですし」
一瞬、カッとなりかけたラルであったが。
そう言って首を傾げるノアレには、本当に心当たりがないようで。
このような大掛かりな『魔法機械』には、それこそ世界を一瞬にして行き来できる【虹の泉】のような効果を持つものがあってもおかしくはないが。
ノアレの言葉を信じる限り、その線もないのだろう。
……そうなってくると。
「あ、わかった! ラルさまが前につかってた、『しゅんかんいどう』の魔法じゃないのかなぁ。たぶん、おにいちゃん、あのままねたふりしてたら怒られると思って、どこかへ行っちゃったんだよ」
忽然と消えた方法と理由は何か。
その答えは、至極あっさりとアイが導き出してくれた。
そんなサーロのそもそもの大失敗は、先だって述べた通りに。
アイが狸寝入りに気づき、かつこっそり使った魔法すら看破してしまうといった……溢れる才能を持つことを知り得なかった事に尽きる。
ある意味で、皆が皆ラルのことばかり注目していることへの弊害が生んだ結果とも言えて。
「ああ、そう言えばワタシも分かってはいましたヨ? カレの寝たフリは」
「だっ……だったらなんで、あんなことっ」
「必要に迫られてイマシタので仕方なく。しかし、となるとこれは、ご主人サマに助けられたカタチになりマスかね?」
サーロは知る由もないというか、知る機会すら与えられなかったが。
リーヴァに続き、ノアレの分……あったかもしれない『フラグ』的なものを、べきばきに折られてしまった、まさにその瞬間である。
それらは全て、生きとし生ける物をたらしかねない、ラルの強すぎる存在感のせいであるとも言えて。
「やっぱり……なんてひでぇやつだっ。とっちめてやる!」
自らを曝け出しその本性をごく近くで目の当たりにしてしまったから、恥ずかしいだろうと。
サーロのそんな余計な気遣いには、当然のごとく気づくことはなく。
あるいは都合よく忘れて、自分のことのように憤懣やるかたない様子で膨れてみせるラル。
それもこれも、サーロの自業自得というか、とっちめられても仕方がないのは……確かに彼の行動結果ではあるのだが。
それをあまりに不憫だと思ったかどうかはともかくとして。
「ラルさま、いまのラルさまがほんとのラルさま? かっこよくて、かわいいねぇ」
「そうデスネ。【水】に愛されし彼女に大いに賛成いたしマス。正に自然体、というべきでショウか」
「あっ」
今更ながら、正体と本性を隠すためにというか、何にでもなれて何でもできそうな気がするからと、役に入るためにつけていた仮面が、すっかり意味合いがなさなくなってきていることに気づかされるラル。
矢継ぎ早に二人にそう言われて、結局穴があったら隠れたいくらい恥ずかしさがこみ上げてくる始末。
それは。
そう言えばどうしてオレ、仮面なんかつけてキャラ付け……役づくりしていたんだっけかと自問自答するほどで……。
(第38話につづく)
次回は、1月29日更新予定です。




