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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
3/112

第3話、箱入り籠入りなので鉄格子の意味合いもピンとこない



どれくらい歩いたのか、陽射しも見えないこともあって曖昧になった頃。

ふいに『リカバースライム』……ラルが火の星の人と呼んでいる頼れる相棒が、二つの触手を使って丸を作り、どこへともなく了承のサインをする。



「おお、第一異世界人発見かな?」


ラルの言葉に、ちょっと考えふるふると首を振り、たくさんの触手を持ち上げる。


「え、ちがう? たくさん? 村でもあるのかな」



上がった触手の数は30を超える。

未だ森を抜ける気配はないが、森の中に集落があるのだろうか。

ラルの故郷も、そう言った種族がいないわけでもなかったので、そう言う事もあるだろうと偵察に出ていた二体を呼び戻す事にする。

戻ってきてと念じ、すぐに橙色の魔力の塊二つがラルに降り注ぐ。




「……洞窟?」


入口とは呼べない、僅かな隙間。

小動物なら通れるだろうそれ。

普通の人が通れる大きさには見えないので、きっとほかに入口があるのだろう。


……事実そうだったらしく。

ちゃんとした入口から入ろうとすれば、すぐにでも人に出会えたのだが。


普通でないくらい元から小さかったラルが、更に小さくなってしまった事で。

洞窟どころか穴ぐらレベルの入口に入り込むのに成功してしまった。


つるぺたすとーんな引っかかる所が皆無であったのが幸いしたのだろう。

邪魔にならないように髪を後ろに縛り、状況によっては明滅もできる『火の星の人』を明かり代わりにして。



「お邪魔しま~す」


不法侵入である事に全くもって自覚のないままに。

ラルはそんなのんきな声を上げていたが。




「あれ? 行き止まり?」


今まで通ってきた道は、文字通り獣道……小動物が掘ったものだったらしい。

すぐに行き止まりになったと思ったら、それは明らかに人の手によるもの、固く分厚そうな石でできていたが。

それでも来た甲斐があったと言うべきか、多くの人らしき魔力の気配がその向こうにあって。



こうなってくると流石のラルも悩まずにはいられない。

壊してまかり通るのは容易ではあるが、それはそれで家主の人が怒るだろう。


こつこつと軽く叩いてみるに、それなりの厚さがあり、防音はしっかりしているようだ。

お邪魔しますとアピールしても聞こえないかもしれない。



「……よし、ちょっとだけあけよう」


言わなきゃ気がつかないくらいのものを。

呟くや否や、ラルは人差し指に『カムラル』と『セザール』の魔力を集める。


実の所光の魔法は、苦手どころかそれこそ指先に光を灯すくらいしか使えないのだが。

それを火の魔力で誤魔化し、力押しながらも繊細な仕事で、光条レーザーを創り出し、僅かな音を立て石壁を削っていく。




「よし、抜けたっ」


しばらく地道な作業をしていると、貫通して空気の通る感覚。

覗き込むと、僅かながら向こう側の明かりが見えて。



「……【フレア・ミラージュ・セルフ】っ」



間髪を置かず、次の魔法を発動する。

それは先程、炎の分身を作り出したその進化系にして真骨頂。


ラル自らを炎の幻影と化す魔法だ。

彼女は簡単に扱ってみせたが、元の世界でさえ扱うもののほとんどいない、上級魔法の一つであった。


ラルがむしろその魔法を得意とするのは、溢れる魔力と資質のおかげでもあったが。

何より普段から義賊めいた趣味を行う際、いろいろな場所に飛び込み潜入していたが故だろう。

ようは慣れである。




変化は一瞬。

本来目に見えない魔力……大気と化したラルは、自らの作った穴に吸い込まれるようにして侵入を開始する。


ラルが両手を広げても足りないくらいの暑さの石壁。

普通の住居ではないと気づいた時には、反対側に出ていて。




(……っ)


最初に目に入ったのは、粗末な汗と泥に塗れた服を着た女性達だった。

現在のラルくらいの幼子から大人の女性まで年代種族様々で。

文字通り詰め込まれ、うずくまっている。

位置的に、ラルに背中を向けているものばかりであったが、彼女らの視線の先には鉄格子があった。



(牢屋……?)


実の所、ラルはそれをまともな用途で使われているのをあまり見た事がなかった。

何故か姉が寝床に使っていたのを思い出すくらいである。

だが、そんな姉とは違って、彼女らが望んでここにいる訳ではない事はよく分かって。



(よしっ)


ならば話を聞いてみよう。

いつもの癖で隠密状態であったのを解除し、姿を現そうとしたわけだが。



「……っ」

(……ん?)


蹲り、寄り集まった女性達の一角。

そこから少し離れた所に座る、今のラルより少しばかり年かさの、それでも幼く見える少女と目があった気がした。


まさか隠密が破れる……魔法の高い素養があるのかと。

視線を誘う意味で左右にふらふらしていると。

案の定追いかけてくる少女の視線。

闇の中でも分かる、澄んだ海色の瞳が興味深げに揺れていて。



(ふむ)


それを見て、ラルは一計を案じる事にした。

いきなり姿を現して驚かすよりは増しだろうとすっと近づいて。

口に出さず心で……【念話テレパス】の魔法で会話を試みんと、魔力を高めていく……。



   

        (第4話につづく)








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