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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』

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第27話、大事なことだから天丼してでもとっちめたい




「……うお。何て言うか、思ってたより広いですね」


興味本意で、促されるままずっと気になっていた地下に降りていくと。


煌々と白黄色の珍しい魔法灯がフロア全体を照らしていて。

地下の実験場などといった名前の通りの陰屈さはほろんどなかった。


目の前に広がる光景を見ていると、やっぱりグレアムさんの奥さんって異世界人、なのだろうって気はする。

恐らくは、俺やラルちゃんと……厳密に言えば同じ世界ではないのかもしれないが。

体重計や身長計、背筋を測るものからマットらしきものまで敷かれている。


何より凄いというか、とにかく目立っていたのは。

上階にも起き上がり立ち上がった状態でひとつだけあった、長い間冷凍保存でもできそうな、いわゆるフタの部分がガラス張りになっている棺のようなものだろう。

中にはベッドが敷いてあって、くるくる回転し、魔法めいた光を浴びたかと思うと、もっと大きな……真ん中がくり抜かれた建物に入っていったりしていて。



「あれは……随分と大きいですね。人が何人も入れそうだ」

「おお、早速アレに目をつけるとはな。あれは……完結に説明すればサーロ殿の想像通り、中に入ってヒトの体内に潜む魔や呪いの類を見つけ出すことができるのだよ」



どうやら、最初に感づいていた、たくさんの人がほとんど動かなかったり寝ているような気配は。

魔導人形などの気配ではなく、今まさに目の前に広がるもの中に入ったり参加しているからのようであった。

青や紫色の、同じツナギのようなものを身にまとった人たちが、興味深げに……だけど思っていたより真剣にそれらを体験しているのが分かる。


大掛かりなハコモノのマジックアイテムというか装置は、グレアムさんの言う『健康診断』の締めにあたるらしい。

タナカさんが言うように、先発組は一通り診断が終わったらしく。

一塊になって雑談しながら、本当の最後の締め……グレアムさんのまとめの診断、これまでの所見が語られるのを待っている、とのことで。



「ふむ。今日の第一陣の結果が出たようだ。友よ、私は総評を、アドバイスを行う任がある。その間に、せっかくであるし、体験していくかね?」

「あーっと、そうですねぇ。こっちに来てから自分の健康なんて気にしてなかったし、お言葉に甘えることにします」


なんとはなしに思い出したここへ来た理由も、予想外な展開ながらも解決したようなものだし、言われてみれば中々できない経験であるからして、俺も『健康診断』なるものに参加してみることにする。



「……かしこまりました。ではまず、こちらに」

「あ、お願いします」


それでも何て言えばいいのか。

他に考えることがあるというか、嫌な予感は消えてはいなかったのだが。

やはり興味が勝った、と言うべきなのだろう。


先程までのホラーめいた追いかけっこなどもう忘れ去ったとでも言わんばかりの、完全に看護師役をこなしきっているタナカさんに案内されて。

俺はある意味未知なる体験を、堪能することにしたのだった……。


SIDEOUT




            ※      ※      ※




SIDE:ラル


 

一方、その頃のラルたちは。

サーロがそんなことになっているなど露知らず。

新たに村……町の代表という役職について、もれなく町の活性化を促したという有能な領主、グレアムの館の入り口にまでやってきていた。



「……っ。確かにあの……彼はここにいるようですが、本当に会いに行くのですか? 正直なところ私は遠慮したい所なのですが」


皮肉にもサーロと同じように流されるままにここまできてしまったラル。

小さくそうぼやくも、どうにも受け入れられる空気ではなかった。



いつの間にやら外にいたイゼリが連れてきたのは。

アイもお世話になったという『ラスヴィン』の冒険者ギルドの受付嬢、リーヴァ・リヴァであった。

初めは、ヴォトケン……賞金首や野盗たちに攫われた女性たちをラルが助け出したことによるその後始末において、サーロに任せっきりでその場から逃げ出してしまったラルのことを咎めている風であったのに。

いつの間にやら彼女はすっかりラルの味方というか肩を持つようになっていて。


あろうことか、サーロを捕まえてとっちめよう、なんて展開になってしまっていた。

どうやら、姿形が一回り小さくなってしまっただけでなく、今やオプション……分身とも言うべきラルは、色々な意味でポンコツと化してしまっているらしい。

 

何故、とっちめなくてはならないのか。

ここに来てもその理由に気づけないでいるようだ。


顔を合わせたばかりの、共犯のはずのイゼリはそもそも隠す気ゼロであったし、いい加減気づきそうなものなのに。

もし今の今まで一緒にいたことにラルが気づいてしまったのならば、羞恥や怒りでどうにかなってしまうということを、もしかしたら本能でラルは理解していたのかもしれなくて。


故に、アイもリーヴァもどストレートに、それを口にすることを躊躇われてしまったのだ。

一緒にお風呂に入ったり、同衾したり、などといったことは。

さしものサーロも罪悪感があったのか、避けていたのはせめてもの救いではあるが。


ラルは全てではないにせよ、サーロを避ける理由も含めて。

この世界に来る前のこと、来た理由も、あろうことか一番話したくない人に話してしまった事実は消えてくれない。


結果、すり合わせをしたイゼリを含めて。

サーロ本人が愚かにも事実を口にしない限りは、黙っていようという算段になったわけだが。


それによるもどかしい気持ちは消えそうもない。

つまるところ、半ば強引にサーロをとっちめにいくことになったのは。

八つ当たりにも等しいものなのかもしれなくて……。



        (第28話につづく)








次回は、12月29日更新予定です。

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