第25話、追い詰められし状況も知らずに男二人、気楽なもので
SIDE:サーロ
俺から見ても、かなりの魔力をその身に秘めた、新しき代表を名乗る吸血鬼族の男。
名を、グレアム・エクゼリオと言うらしい。
カイゼル髭と豪奢な赤マントスーツが特徴的なその男は。
村のものを、あるいは冒険者を多く自らの実験場と呼ぶ広大な地下に招き入れ、夜な夜な非人道的な行いを繰り返してきた……のかもしれなかったから。
俺は、それを白日の下に晒すためにと。
一人で彼の塒に侵入し、変化を解くとともに真意を問う形になったわけだが。
「すげーっ。錬金術やべえ」
「そうだろう。そうだろう。若いのにぬしは中々に博学と見える。こんなに熱い議論を交わすのは久しぶりよ」
この世界に来て一年あまり。
そんなオレから見て5本の指に入るだろう豪の者。
別に正義の味方というわけではないのだが、こりゃ結構厄介なことになるだろうなと。
イゼリちゃんの変化を解き、自分を取り戻してから覚悟を決めていた俺だったんだけど。
バチバチやり合う展開になりかけたのは初めの一合くらいであった。
何もかも決めつけて、いきなり仕掛けた俺の方に間違いなく否があると確信してしまえるような、
実に殊勝な態度で、つれあい、子供達の命だけはと両手を上げたからだ。
あまりに予想外な腰の引けた様子に、おそらく40代だろう目上の人に対する失礼さに申し訳なくなって、気が付けばお互いに頭を下げ合う始末。
案の定よくよく話を聞いてみると。
彼はどうやら、人間族の奥さんと、遠方の学園に通う娘が一人いる働き盛りのお父さんのようで。
この街には単身赴任で領主のような仕事の傍ら、趣味の錬金術から派生する、健やかなる人間生活を研究している研究者であるらしく。
その研究とやらが自由意思……人間のように生きられるホムンクルス、あるいは魔導人形の創造、とのことで。
たった今その集大成である一体を見せてもらっているところだった。
「モデルをどうしようかと悩んだのだがな、我がつれあいに快く許可をもらっての。彼女の若い頃の理想体をイメージしておるのだ。中々にむちむちでダイナマイトであろう?」
「いやあ、確かにすごいっす。目のやり場に困るっすね」
円形の窓のついた柩のようなもの。
頭がある部分が少し上がっていて、グレアムさんが得意げになるのもよくわかる、
ピンクゴールドの長い髪の、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるかなりの美少女が薄い桃色のネグリジェのようなものを着て、横たわっていた。
スケスケの夜着のせいで流石の俺も直視はできなかったが。
魔力と言う視点で見ると、その桃色髪の美少女……グレアムさんが言うには、ホムンクルス(人造人間)らしいその少女は、確かに魔力を宿していた。
それこそ、魔力だけなら普通の人間と同じように12色、色とりどりに混ざり合ったそれだ。
まぁ、よくよく見れば金の魔力の割合が多いので、錬金魔法で創ったと言うのは納得できる所ではある。
「……となると、この下にもホムンクルス的な人たちがたくさんいる感じですか?」
今いるのは、グレアムさんのいた玉座っぽい椅子のあるただっ広いフロア(グレアムさん曰く、玉座ではなく受付らしいけれど)ではなく。
人らしきたくさんの魔力の気配があった……地下との中間地点の如き場所である。
研究室兼、診察室だと言うこの場所に案内されたかと思ったら、コールドスリープの寝台めいた中に桃色髪の彼女がいたわけで。
同じように地下にもホムンクルスの素体がたくさんあるのかと問いかけてみると。
ほう、気づいていたのかとばかりにグレアムさんは頷いて。
「うむ。この私の娘にも等しい『エクレゥ』ほどにすべてが奇跡的な確率でうまくいったわけではないがな。魂……魔精霊を素体に取り込む事に成功したものが10体ほどはあるか」
特にもったいぶる事もなく。
グレアムさんは素直に答えてくれる。
しかし、俺が察知した数とそれでは合わない。
その事を疑問に思い、それを聞いてもいいものかどうか迷っていると。
今度は上から降りてくる人の気配。
何故かグレアムさん本人と顔を見合わせていると。
現れたのはイゼリさんに化けていた状態で、ずっと追いかけられていたメイド長さんが、あまり表情を変えぬままこちらに近づいてくるのが分かる。
何だかそれが怖かったので、思わず身構えていると。
そんな必要はない、とばかりに。
何だかとても気さくと言うか。
ぞんざいにも見える態度でグレアムさんがメイド長さんに声をかけるとともに手を上げていて……。
(第26話につづく)
次回は、12月23日更新予定です。




