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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
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第2話、火の星の人は、いつだってどこまでもやさしい



落ちた先にあったもの。

ラルは、それを知っていた。

ラルの望み通り敗者の自分を知る者は少ないだろう、異なる世界に飛ばされた事も。




「……」


覚醒したラルの目の前には、てっぺんまで視線向ければひっくり返ってしまいそうなくらいに高い大きな樹があった。


その樹を中心にぽっかりと空間ができているのは、この場に他を寄せ付けぬ程の【ピアドリーム】の萌芽色の魔力が満ちているからなのだろう。


となると、この樹がこの森らしき場所の主なのだろうか。

成る程、異界のものを誘う場所には相応しい存在感がそこにあるなと、ラルは感心していたが。



ラルは、その樹をぼぅっと見上げたまま、しばらく動かなかった。

一言で表すなら、何につけてもやる気の出ない状態だったからだ。



実の所、ラルにとって故郷から異世界へと飛ばされるのは初めての事ではなかった。

ただ、かつてはやらなくてはいけない明確な目的があり、前のめりでせかせかしていたのを覚えている。


しかし今は、目的どころか生きる意味すら失っていて。


なるようになるさ。

このまま朽ち果てても構わない。

なんて気分でやさぐれていたからなのか。



「いだっ」


ゴン! と頭上への首が沈むほどの衝撃。

星が飛び涙出る視界に転がるのは、拳大の赤色の実。


どうやらそれが、ラルめがけて落ちてきたらしい。

しかも、それはきっと偶然なんかじゃなくて。


憮然としつつ実を拾うと、甘く強い香りがラルを包んだ。

瞬間、きゅぅと鳴るお腹の虫。


そう言えば、一体いつからものを食べていなかったのかと、気づかされたのはその瞬間で。


小さくても。

かりそめの体でも。

意味を奪われても。

生きることをやめない体に、溢れる幽かな笑み。



「……いただきます」


甘酸っぱい、得られなかったものに等しい幸せな味。

一宿一飯の恩義ではないけれど。

ラルがこの世界にやってきた理由はきっとどこかにあるはずで。




「ごちそうさま……っと」


僅かな芯だけを残し完食したラルは、手のひらから芯を軽く放り投げたかと思うと、ぼっと音立てて小さな炎を生み出す。


一瞬で灰となった芯を握り締め、炎ごと消し去ると。

ラルは一つ礼を述べてくるりと大樹に背を向ける。

そして、おもむろに……あてもなく歩き出した。





世界の礎となるはずだったラルへの、小さな救済措置。

それは、好きに……自由に生きていけるということでもあって。

ならば好き勝手に気の赴くままにこの世界を満喫しよう。



まだ、完全に過去の自分を振り切ったわけじゃなかったけれど。


そんなラルの表情には、今度こそはっきり分かる好奇心に彩られた笑顔が浮かんでいた事だろう。

通りすがりのあらゆる存在、十人中十二人が振り向き呆け見惚れるだろうと他称される……そんな笑みを。








適当に歩き出しつつラルがまずしたことは、意思疎通出来る存在を探す事だった。

元々魔力を……あらゆるものに内在している色付きのその力を観る事を得意としていたラルであるが。

この小さな身体に変わり、かつ異世界でどれだけ自分の力を引き出しコントロールできるのか、確かめたかったからだ。



「……【フレア・ミラージュ】っ」


十八番と言うより、日々気づけば使ってしまっていた【カムラル】の魔法。

見た目は炎だが、熱はほとんど感じられず。

自由自在に姿を変え、ラルの身代わりを作ったり、目くらましをしたり。

究極的には勝手に動き出し、歌って踊れたりするとんでも魔法である。



瞬間。

意識して低くしても甘さから逃れる事叶わない声色とともにラルの身体が、赤橙の暖色に染められし粒子に包まれる。

ラルの全身の覆うほどに集まってきたそれは、彼女の胸元へと収束し、再びラルの身体から離れていって……。



光が収まる頃には。

炎をそのまま固めて作ったかのような生き物らしきものが三体、ラルに付き従うように宙に浮いていた。



一体は、鷹にも似た大きな鳥。

上空の偵察を任され、天を舞う。


一体は、地の中を徘徊する土竜。

地底の可能性を目指して大地へと消えて。


残りの一体。

ラルの一番好きな魔精霊(魔力によって構成されし、人族の良き隣人)、『リカバースライム』と呼ばれる種族を模したものがそこにいる。


つぶらな瞳に、取って付けた鼻と口。

まんじゅうのような形に無造作に生えたぷにぷにの触手。

火の星の人とあだ名がつけてしまうくらい、大好きなラルの相棒である。



今回は、偵察に出た二体との連絡役を担っている。

つぶらな瞳でラルの事を見守りながら、ラルの周りを意味もなくぐるぐると回っていて。



「よし、出発だ」

「……」


いつもなら、そうやって意気込むラルに対して、小粋なトークを返してくるのだが。

その記録された声は、今のラルにとって『怖いもの』だったから。


心情を汲んだ彼もしくは彼女は何も語らない。

ただただ、ラルの事を見守っている。


そんな優しい気遣いに、ぶり返してくる世界の終わり。


その事に申し訳ない気分になりながらも。

ラルはそれを振り払うようにして触手の一つを手に取る。



「案内、たのむよ」

「……ッ」



任せろとばかりにほのかな生成り色した触手の一つが上がって。


ちょっとだけほっこりしながら。

ラルは再び歩き出すのだった……。


     

        (第3話につづく)







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