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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
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第19話、悪戯っぽい猫のような彼女のままなら、好奇心も生き残れるか



SIDE:サーロ



新しい村……町の名代となった、領主の住むといういかにもなお屋敷。

正面から堂々と入る事も一瞬考えたが、街の人……おそらくお屋敷に通う人々の、イゼリちゃんの注目っぷりを見るに、一度捕らえられ、かつ逃げ出している可能性があったから、なるべくこっそりお邪魔するつもりだった。


最初はどんな悪どい事をして稼ごうが、村が町になるくらい潤ってるなら正義ヅラして顔を突っ込む事のないかなって思ってたけど。

イゼリちゃんが何か関わっているなら話は別だし、村の繁栄の秘訣を知りたくなってしまったのは確かで。



そんなわけで早速裏手に開放されていた勝手口を見つけると、お邪魔しますと一言おいて屋敷の中へと侵入する。

すると、中央の一際大きな魔力に変化はなかったものの、何らかの方法で侵入者の存在に気づくことができたのか、しっかり敵意を持った紅点が三つほど近づいてくるのがわかった。

隠蔽や隠れ蓑などの魔法を使ってやり過ごす事も考えたが、屋敷内の人間の反応も見たかったので、そのまま勝手口で待つ事にする。



現れたのは執事風の男と、外作業服……庭師っぽい男と、給仕長というか、年かさのメイド長らしき女性だった。

その三人は一様に無表情を張り付かせていて、すわいきなりバトルかと身構えたが、イゼリちゃんの姿をとっていたのが功を奏したのかもしれない。


ふっと、三人の敵意があからさまに消えて。

メイド長のおばさんが、変わった瞬間さえ見てなければごくごく自然に見える笑顔を浮かべて、言った。



「まぁまぁ、イゼリさん自分から戻ってきてくれたのね。ご主人様が心配しているから、とにかく顔を見せてあげてちょうだい」


言葉尻は優しげで、強要するものでもなかったが。

無言で男ふたりが囲み、逃げられないようにしているのを見るに、選択肢は限られていた。

このまま従い、なんやかや企んでいそうなこの屋敷の主の顔を拝みにいくか。

今の言葉でイゼリちゃんがここにいない事が分かったので、さっさと帰るかのどっちかである。


当初の予定と方針であるならば、触らぬ神に祟りなしなのだが。

屋敷を包む結構な魔力(人の気配)に動きがないのが気になったので、俺は我が儘に任せてどっちの選択肢も選ばない事にした。



「【ヴァレス・ウィング】」

「……っ」


小さな呟きとともに満ちる【ヴァーレスト】の魔力。

再び表情を失くし、掴みかかってこようとする彼らを嘲笑うように一歩踏み出した後、跳躍。

くるりと一回転する形で、彼らの頭上を飛び越え、囲みを突破する。




「マチナサイッ!!」


なんていうか、繕う気持ちは一瞬だけだったらしい。

追いすがる声が、人らしくないというか、やはり何者かの傀儡と化しているんだろうか。


あるいは、人のようだけど人ならざるものなのか。

エクゼリオ】の魔法などで、生き物を操る魔法が存在するが、この屋敷の主にでもかけられたのかもしれない。


メイド長のおばさんは、金属めいた叫びで。

男達は物言わず追いかけてくるのを見るに、その可能性は高そうだった。

ただ、その魔法は意思疎通のできないモノに本来使うもので、意思と意識がしっかりしている人間にはちょっと問題があるわけで。

 


(……んー。この様子だと主サマは人ならざるもの、かもな)


別に人間至上主義というわけでもないので、ならば即成敗というわけでもないが、その正体に気づいてしまえば面倒な事になるのは確かだろう。


とはいえ、いつだってタチが悪いのは。

その面倒事に対しどこか楽しんでいる節のある俺の方なのかもしれない。

なんて内心で苦笑しつつも。

索敵マップを駆使し、ダッシュで目的地へと向かう事にする。



そうして辿り着いたのは。

初めは避けるつもりだった、屋敷中央、一番大きな魔力のある所だった。

向こうもきっと同じように、こちらに気づいているんだろう。


それでも動かずどっしり構えているのは、俺の目的がそのほぼ真下の主の部屋らしき場所を経由しなくては、通れなそうな地下にあるからに他ならない。

屋敷の中、主の部屋以外では逃げた俺を捕まえようと奔走しているのがよくわかるのに。

地下の、30人はいるだろう人の気配は、全く動く様子を見せなかった。



まるで、みんなしてキレイに並んで眠っているかのよう。

そんな様子を思い浮かべ、ぞっとしない気持ちを抱きつつ、俺は意を決して主の部屋、ダンスフロアでもあるのかといったくらいに広い部屋へと足を踏み入れる。



「むっ。これ、ノックくらいしなさい。……おお、よく見ればイゼリ殿ではないか。わざわざ戻ってきてくれたということは、キミのその身に秘めし力を貸してくれるってことでいいのかね?」


確かに、偉い人の部屋にノックもなしに入ったと、失礼なことをしてしまったと、気づかされたのはその瞬間で。


俺が何言うよりも早く、どこか喜悦のこもった口調で語りかけてきたのは、案の定人間の形をした、

だけど人ではない何者か、で……。



       (第20話につづく)








次回は、12月9日更新予定です。

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