第16話、捻りきった紙縒りのように、だんだん追い詰められていることに目を背けて
「失礼、イゼリさん。馬車の道行きのことなんですが、これは直接『フーデ』とやらに向かうのですか?」
「ううん。さすがに距離があるからね、ずっと乗せてもらうのもなんだし、とりあえずは日が暮れるまでに『ウエンピ』の街まで行くって事になってるんだ」
辻馬車などを引っ掛ける努力はしただろうが。
徒歩だったのなら少なくとも一度や二度は野宿する羽目になっていただろう。
俺自身前世の影響もあって、なるべく避けたい(しかも今は変身してるし)ところだったし。
親切な旅商人の人が偶然通りかかってくれて、本当に良かったと思う。
素の俺一人なら、そんな都合よくいくものかよ、なんて思っていただろう。
げに素晴らしきはイゼリちゃんの存在諸々、だろうか。
まぁ、実際の所払うものは払っているのだ。
普通に美味しい荷物だと言えるだろう。
稼いだ金に任せて地味に余計に払ってるし、いざという時は戦力になりますよって話をつけてあるのだから、これくらい楽してもバチは当たるまい。
……なんて事はカッコつけたい自分的には口にはできなかったけど。
野宿だけは避けられそうだといった話になった時。
アイちゃんだけでなくラルちゃんまで、野宿でも別に構わないよニュアンスを発していたのは正直以外だった。
救世主さまなのだから、そりゃ世界中を旅して色々あったんだろうけど。
仮面をしてても隠しきれない儚さからは、野宿のイメージがわかなかったからだ。
できればそんな展開にはなりたくないなぁ。
何せ今化けちゃってる状態なわけだし、バレたらなんて言われるか……って言うか、今更だけどエライ危ない橋渡ってるよな。
なんとかうまいことネタばらしする方法を考えないと。
いろいろやばいんじゃなかろうかって予感がヒシヒシとするぜ。
そんな風に戦々恐々な態度が滲み出たのかそうでないのか。
何だか聞くのを迷ってる風(仮面越しでも分かるものなんだな、うん)のラルちゃんが目に入る。
心内はともかくとして。
馬上の暇つぶしになんでも聞いてよ、わかる事なら答えるよってアピールすると。
しばらく沈黙があった後、ラルちゃんは意を決したように顔を上げて。
「……たいへん聞きにくいのですが、あの、サーロと言う男とはどういった関係なんです?」
よりにもよってそんなど直球な事を聞いてきたではないか。
途中からほとんど聞き役に徹していたアイちゃんが、喜色を浮かべて前のめりになるくらいには、どうしようもない質問である。
関係もなにも本人ですが何か?
なんて言えたらどんなに楽だったろう。
一見すると、気になる男の事を少しでも知りたい女心のようにも見えるが、実際の所はもちろん違う。
会いたくない敵性の事を今後の為に少しでも知っておきたい、そんな魂胆なのかもしれない。
「別に関係って呼べるほど親しいわけじゃないよ。冒険者ギルドで臨時パーティを組んで一緒に仕事を請け負う機会が何度かあっただけだよ」
「ええ~? そうなの?」
つまんなーい、とでも言いたげなアイちゃんの合いの手。
そうさ。二人が喜ぶような話のネタなんかあるわけないじゃないか。
確かにこっちとしては、二回も三回も一緒に仕事をすればお近づきになりたーい、と思っても当然の流れであるけれども。
可愛い子を見ればふらふらしちゃう俺の事、知ってるだろうからな。
元より脈などあろうはずもないのだ。
「そうですか……ふむ」
だから、そんな密な関係じゃない事を知って安堵の吐息を漏らす、なんて事も勿論ないのである……きっと。
※ ※ ※
アイちゃんを家まで送る、その道すがら。
街と街を結ぶ一般的なルートを通っているからして、相乗りをすることとなった旅商人の辻馬車は。
魔物や賊などに襲われる事もなく、護衛の仕事もあってないようなもので。
しばらくは荷物と一緒に荷物と化す、そんな落ち着いた時間が続いた。
その間にうまくネタばらしをするための案を考えようとするも。
相談相手になってくれそうなアイちゃんはラルちゃんと常に一緒にいるのでそれもままならない。
加えて、ラルちゃん自身が異世界からやってきたこと、この世界の事をよく知らないって事を十分自覚しているのか、うまいこと雑談しつつこの世界の常識について聞いてくるものだから、思考が横道に逸れる暇もなかった。
俺もこの世界に来て一年足らずであるからして、十全とは言い難かったが。
その辺りは見た目の年齢よりは色々と物知りなアイちゃんのフォローもあって、何とかよどみなく解説出来たと思う。
基本であるお金の価値、世界の地理、どんな国があって宗教があるのか。
お金の価値はともかくとして、それ以外のものは俺達の故郷とそれほど変わらなかったりするので、ラルちゃんも受け入れやすいだろう。
そんな中、段々と会話もこなれ、より深く個人の……俺の知らないイゼリちゃんのプライベートな話題に差し掛かってきて。
下手に誤魔化すと後で本人に会ってしまった時に齟齬が出そうで困るなと思っていると。
にっちもさっちもいかなくなってる俺に気づいたのか、あるいはずっと聞きたかったのか。
身を乗り出し挙手する勢いでアイちゃんが質問してくる。
「はい。わたし、女神さま……ラルさまの事ききたいです。ラルさまは、どうして仮面をつけたままなの? あんなにきれいでかわいいのに」
「……そ、それはっ」
ああ、そうか。
アイちゃんはラルちゃんの素顔見てるんだっけか。
かくいう俺は、彼女の救世主っぷり……国の至宝とまで言われていた噂は耳にするも、まともに見た事ないんだよな。
それは当然イゼリちゃんも同じで、折角だから便乗することにする。
「実はずっと気になってたんだよね。理由とか聞いちゃっても大丈夫だったりする?」
「……ええと。別に大それた理由があるわけじゃないのですけど」
アイちゃんに聞かれた時は、可愛いって言われたのもあったからか、随分と動揺していたけど。
一言置いてすぅっと演技に入るような、そんな切り替えっぷりで語りだす。
演じてるのは俺も一緒だけど、俺の場合人称が違うくらいでほとんど素だからな。
大した理由はないって前置きしてるけど。
そうしなくちゃならない理由が気になるのは確かで……。
(第17話につづく)
次回は、12月3日更新予定です。




