第14話、あからさまに忌避して逃げ出すくらい悪い奴じゃないなんて、買いかぶりです
「その様子だと、通りすがりの赤の他人ですか?」
「うん。洞窟で初めてあったの」
「成る程。それなのにアイさまだけわざわざ送ると言い出したのですか。私としては怪しい事この上ないので今のうちに二人で立ち去る、と言うのはどうでしょう?」
アイとともにいた理由を分かった上での、そんなラルの言葉。
すると、どこかに笑いのツボでもあったのか、楽しげにアイは笑ってみせて。
「だいじょーぶだよ。サロにぃ、いーひとだよ。それにめがみさまに会いたいっていってたよ。どうしてもお話したいって、お願いされたもの」
自分がダシにされていた事は、どうも分かっていたらしい。
そう言って、幼いながらもどこか上品にカップに口をつけるアイに、見た目の幼さとは裏腹な大人っぽさを感じたラルであったが。
「……あちらの事情など知りませんね。それより、その呼び方どうにかなりませんか? どうもくすぐったくていけません。できれば名前で呼んでもらうと嬉しいのですが」
こちらの都合だって考えて欲しい。
口調こそ芝居がかってかしこまっていたが、お互いの間を取り持つ形となったアイとしてみれば、会いたくないとだだをこねているようなに見えてしまって。
見た目の子供らしくない、暖かく見守るような笑みが浮かんでいたが……。
そんなアイがどうしようかなと口を開くよりも早く。
ギルド入口の扉を開け放ち、ラル達の元へと迷いなく向かってくる人物がいた。
「……っ」
「あれ?」
ラルだけでなく、アイもそれがサーロだと疑っていなかった。
実際ラルは精霊体である事の特徴を生かし、飛んで透けて逃げようと腰を浮かせていたくらいなのだ。
しかし、そこにいたのはサーロではなく、ひとりの少女であった。
蜂蜜色の髪を後ろでくくった、溌剌快活といった言葉が似合う少女は。
その大きな翠緑の瞳に楽しげな笑みをたたえ、二人に近づいてくる。
「イゼリねぇ? 新しい依頼、うけにいったんじゃ」
「いやぁ、昨日ぶりだね、アイちゃん。それにええと、ラル様だよね。どもどもっ、こんにちは。そー思ったんだけどさ、サーロ君が一人じゃ危ないだろうからって。道も途中まで一緒だし、アイちゃん送ってくのにボクもついていくことになったんだよ~」
ほんの一瞬だけ、懐かしい魔力の気配……ラルにとっての故郷の匂いがした気がしたが。
ぎこちなくこんにちわと返している間にそれは霧散していた。
かわりに、彼女がアイとともに(閉じ込められていた部屋は別ではあったが)『犬狼の牙』に捕えられていた女性達の一人であったことに気付かされる。
事の顛末はアイから聞いていたが、自分の都合を優先して、それこそ他の事をないがしろにしていた。
ラルが逃げた間、今までの面倒事を片付けたのは誰だった?
恐らく、あのサーロと呼ばれる男だったのだろう。
『自身を終わらせた』懐かしさを纏う男だからこそ、確信を持ってそう思えて。
勝手な行動を謝罪すべきであるのか、ラルは迷った。
その事で、終わったことを思い出してしまうかもしれない。
だが、何もしていないに等しいラルがあの男の手柄を浚うような真似はもっといただけない。
サーロという男本人ならばいろいろ言えたのだろうが。
ラルは最初の挨拶をしたきり、仮面の下でおろおろする事しかできなかった。
そんなラルにアイは気づいたのだろう。
帰路を共にする事について二つ返事と笑顔で了承してみせた後、ラル共々気になっていた事を口にする。
「さっき、サロにぃが用事あるって飛び出しちゃってんだけど、会わなかった?」
「うん? うん、会ったよ~。なんかね、急に指名依頼が入っちゃったんだって。アイちゃんたちの事もあるから、ごねたみたいだけどダメだったみたい。行く先も逆みたいでね、だからボクが頼まれたんだ。故郷に帰るのにちょうどよかったし」
「そうなんだぁ。いっしょに行きたかったけど、それじゃしょうがないね」
どうやらあの男はここに来ないらしい。
その事に安堵したところで、ぱっちりとしたイゼリの翠緑の瞳が、再びラルを捉える。
「それに、ラル様がサーロ君と会いたくなさそうなの、気づいてたみたい。初対面だとは言ってたけど、だったら無理に会う事もないだろうって言ってたよ。なになに? サーロ君、ラル様に何かしたの? おねーさんきになるなー」
そして、興味津々な表情を浮かべ、迫り来る勢いでそう聞いてくる。
どう見ても妹系な彼女であるからして、姉らしさはほぼないに等しかったが。
避けている理由を知りたかったのはアイも一緒で、いっぺんに二人に見つめられて。
仮面がなければ、それこそラルは逃げだしていたかもしれない。
しかし、よくよく考えてみればサーロ自身に避けなくてはならない理由など一つもないのだ。
ある意味、とばっちりを受けているとも言える。
ラルは、見かけだけ深く思案する仕草を見せつつ、その重い口を開いた。
「条件反射みたいなものなんです。……私は人より人の中に棲まう魔力について多くを感じ取る事ができるのです。彼の魔力の波長が、正直会いたくない人を、ふるさとを思わせたのです。故あって夜逃げ中でしてね。すわ追っ手かと大げさに反応してしまいました。今では反省しています」
その、仮面の従僕姿には、肝心なところをぼかしつつ本音を語るのに向いている。
何故会いたくないのか、あまりつついて欲しくない事だと察してくれたのだろう。
なるほど分かったよと、気を取り直すようにイゼリは頷いてみせて。
「うん、そう言う事なら仕方ないよね。それじゃ、ボクたちだけで気ままな旅って事で」
どこか朗らかに、そうまとめたのだった……。
SIDEOUT
(第15話につづく)
次回は、11月29日更新予定です。




