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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
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第12話、ふとその身に感じた危険と郷愁は、きっと間違いなく



SIDE:ラル



世界を終わらせた音から逃げるために、異世界へと逃げ落ちてきたはずなのに。

ラルの前に現れたのは、終わらせたものと全く同じに見える存在だった。


その声も、髪の色も、纏う魔力……魔精霊たちの愛され方も。

別人とは思えないくらい同じすぎて。

無意識にラルの目前へとかかる涙色のブラインド。


仮面の従者であった事などすっかり忘れて。

気ままにこの異世界の人々との交流をする……その目的を見失って。

幼き【ウルガヴ】に愛されし少女との、半ば一方的に交わした契約、約束すらすっぽかしてしまった。



気が付けばこの世界で使えるかどうか確証もないままに。

上級に食い込むであろう瞬間移動の合成魔法を行使してしまっていた。


中級に属するが、比較的使い慣れ、失敗が少ないと思われた【フレア・ミラージュ】とは訳が違い、逃げ出した故郷と魔法を扱う理が少しでもずれていたら、何が起こってもおかしくなかっただろう。 

 



「……」


丸く見える異世界を見下ろす遥か上空にて。

ヴァーレスト】の力借りて、さかしまに佇みながら。

ラルは深く自己嫌悪する。

いくらお役目から開放され、自由の身になったと言えど、余りにも自分本位にすぎると。




「……よく考えたら、いないわけないんだよなぁ」


ラルの呟きは、木の葉のようにたゆたい、落ちる事のない風の波に飲まれ、誰にも届かない。

ラルは、まさしく人にありえない状況のまま、思索にふける。



先にも述べた通りに。

ラルの短い生涯において、こうして異世界へと導かれ、冒険の憂き目に遭うのは初めてではない。

それこそ、その冒険の目的がラルを終わらせた存在……かのものを追い求める事だってあったくらいだ。



かつては、それが当たり前で、ラル自身で求めていたから気づきもしなかったが。

数多の異世界への旅路、その中途には必ずかのもの、その存在があった気がする。



ラルがかつての自分と同一ではないように。

この世界にいる彼も同一人物ではないのだろうが。


ラルがこの世界に来た意味が。

遣わされた理由があるとするなら、きっと間違いなくラルに関わってくるのだろう。

それは正しく、世界を救うと言う宿命にも似た、逃れられないもののように思えて。



「……だったら抗ってやる」


宿命から解き放たれ、彼と自分の物語は既に終わっている。

付き合う理由など何一つもない。



「……千変の顔を持ちしアーヴァインよ。その力を我が身に投げ写せっ。【チャージ・ムーイング】っ!」



普段は慣れと効率のため、あまり使う事のない詠唱。

たちまち中空をまばらに漂い見守っていた、生成り色した【アーヴァイン】の魔力の一つ一つがラルを覆い包み隠していく。


すぐに、ラルの小さな身体を完全に覆い尽くし、それを気まぐれ風が吹き散らすと。

そこには儚くも残酷なほど美しい少女の姿はなくなっていて。


その場に在るのは。

赤と橙に透き通った真ん丸の顔に、胡乱な瞳をくっつけた、無数の触手持ちし……お馴染みの火の星の使者の姿で。



(よし。まずはアイちゃんに会いに行こう)


いざとなったら、これで大丈夫とばかりに。

ふわふわと降下を始めていって……。




                       ※




日付が変わって。

ラルはこの異世界において、初めての街へと降り立っていた。

アイの、澄んだ水の魔精霊従えし気配は。

その街の一際大きな建物、主に冒険者、探索者風の人々が多く出入りしている場所にあった。


恐らく、ラルの故郷で言う冒険者のための施設、『教会』に近しい建物なのだろう。

ラルはふわふわ風に揺られながら、その赤い瓦の屋根に張り付き、様子を伺う。



あの後、『彼が』うまくやったのか。

アイの湛える水の魔力は、会った時よりも瑞々しく安定していて。

元気そうなのは一安心なのだが。

ラルが、アイにすぐさま会いに行かない、行けないのには理由があった。



正しくもラルが契約の元、義理立ててアイに会いに来る事を予測していたのだろう。

捕らわれの者達が、あれほどいたのにも関わらず。

同郷らしきその少年は、アイの保護者であるかのようにアイの傍から離れなかった。


実際に二人が知り合いで、そう言った立場である可能性もあっただろうが。

思い込みと言うか、少しばかり視野が狭くなっていたラルは。

自分のやりたい事を……この世界における物語の進行を妨げる『悪い奴』だと認識し始めていた。


小さい娘に付きまとい悪戯をする、旧友の一人に口を酸っぱくして近づいてはいけない人種だと諭された『ロリコン』なる人種ではないのかと。


サーロにしてみれば全くもって事実無根な、ひどい話である。

最も、付き合いが広い割に、付き合っているような特定の人物もいないため、そう言う噂が少なからず街で広がっている事など、当の本人は知る由もないわけだが。



ラルがそんな考えに至った結果。

当然思うのは、アイの身の危険である。

いかにして『悪者』の手から彼女を救い出すか。

いざとなったら、火の星の人のまま強行突破も辞さない。


そう言う意味では、結局時魔法を使うところが見られなかった、【エクゼリオ】魔法使いのヴォトケンの方がよっぽどだったのだが。

どこかラルは無意識の所で感じ取っていたのかもしれない。


敵として相対するのならば。

ヴォトケンよりもサーロの方がよっぽど厄介であると。



……と。

そんな時だった。


風の魔力を中心に満遍なく十二色を纏っている、その特徴的な少年……サーロが。

突然アイを置いて移動を開始したのは。


サーロは躊躇いのない歩みでアイやラルのいる建物を出て、止まる事なく街の通りへ向かってゆく。

やがて、他の気配に紛れ、どこに行ってしまったのか判別が難しくなった頃。

ラルは、はっと我に返る。



(アイちゃんのとこ、行かなくちゃ)


ラルの目的は、あの同郷の気配のする男の排除ではなく、アイとの約束を果たす事なのだ。

一度そう決めたら、行動は早かった。

ふわへろへろと人のいないギルドの裏手に降り立った後。


ぽふんと気の抜ける音とともに白煙待って元の姿に戻ったラルは。

いそいそとマントを羽織り、仮面をつけて、さっさと建物へと入ってゆく……。



       (第13話につづく)








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