第105話、救世ちゅの居ぬ間に面倒くさくて男臭い世界へ
SIDE:ローサ
ラル様の元に集いし乙女たち。
ギルドのチーム名もそんな感じでしたから。
どう見たとしても、ラル様が中心であり、リーダーであることに疑いはなかったわけですが。
驚くべきことに、思い返してみればラル様にはっきりとそう言っていたわけではなかったという事実に今更ながら気づかされたのは、ごくごく最近のことでした。
完全無欠のやんごとなきお姫様(どうやらこれも自覚がないようで)でありながらも。
ありとあらゆる世界の酸いも甘いも経験しているというのに。
リーダーとして持ち上げられ褒めそやされる、過分に報奨をいただくことを良しとしない時点て気づくべきだったのかもしれません。
きっと、ラル様自身の価値、評価というか、凄さを当の本人が一番理解していないというところを含めて。
そんな数多の世界で様々な困難、苦労をしてきたのでしょう。
救世主や勇者などと呼ばれながらも、世界をすくい上げたその後の悲劇を知っていたからこその思考、行動原理とも言えて。
なんにせよ、水の都……『ブラシュ』を救い上げた時も、そんなしがらみを嫌ってか、一度帰りかけた……あるいは、ほかの世界を救い上げに行ってしまいそうであった事実を重く受け止め、気をつけつつラルさまを見守るべきなのでしょう。
そんなわけでいつの間にかクエスト達成扱いになっていたことにより受け取ることとなった大金は。
ラル様がどうしても遠慮したそうな顔をしていたので、一度攫われかけた獣人族の子供たちのケア、
そんな子供たちを育て守っている各教会の子供たち為に使ってもらえるように、リーヴァさんと根回しすることとなって。
『フーデ』の国でやりたかったこと……待望のもふもふは。
そんな子供たちが救世主さまとのふれあいと称して行うこととなりました。
獣王様は、たてがみをもふっても良いとはおっしゃってくださいましたが。
イゼリさんの手前もあって、流石に自重して。
私たちは、いよいよもって『闇の一族』が棲まうと言われる『ボクージュ』なる国へと向かうための最終準備を行っていたわけですが。
獣人族の子供たちを攫おうとした、『闇の一族』に連なるものたちから何かしら情報を入手できないものかと言うことで。
ラル様が、この国でもう一つやりたかったこと。
アイさんやウルルさん、ノアレさんやセラノさん、レミラさんにイゼリさんを連れて【金】の魔精霊の皆さんと触れ合っているうちに。
リーヴァさんと、興味本位でついてきたがったルキアさんとともに、『闇の一族』に連なるものが収監されている、所謂牢獄、牢屋と呼ばれる地下へとやってきました。
「ふぅん。自由奔放なお国柄にしては随分しっかりとした造りの牢屋のようだね。壁も地面も単純な岩や土造りじゃぁなさそうだ」
「えぇ。このフーデの街には土や岩なら容易く掘り進められる爪をお持ちの方もいらっしゃいますからね」
それに、ラルさまが特段興味をお持ちになられなかったので今までは向かうことはありませんでしたが。
この施設はフーデ名物であるコロシアムの出場選手が普段過ごしている建物なのだそうで。
その旨をイゼリさんから聞いたことをルキアさんやリーヴァさんにも説明します。
「つまり、この街で捕まった人が闘士として出場することで恩赦……償いの意味合いもあるわけだな」
「ふふ。ローサ嬢ってばまた少年役に戻ってしまったのかい?」
「……あ、ええと。ころころ変わってしまってすみません。でも、ルキアさん。ウルルさんと一緒にいなくても良かったのですか? それこそここにはむさ苦しい殿方の世界しか広がっていないかもだけれど」
「いやぁ。耳や尻尾を外さない流れがちょっとしんどくてねぇ。お二人はもうすっかり慣れているようだけれど? 付けているのも忘れているくらいに」
「? せっかくラルさまからいただいた装備を外す必要が?」
「……まぁ、実際の所見た目が気にならなければとても有用なアイテムですしね。できればギルドの仲間には見せたくないとは少し思いますけれど」
どうやら、ひとりでついてきたルキアさんは、未だ耳と尻尾装備が恥ずかしいご様子。
ラルさまの手前と言うよりも、それでウルルさんの距離がいつも以上に近くなっているのがむずむずして、しんどいとのことで。
一方のリーヴァさんはそんな言葉ほどにはそれほど気にしていないようではありますが。
受付嬢としての頃のイメージとは大分かけ離れているようで。
同僚に会う時は流石に外させてもらうかもしれませんね、とのこと。
ちなみに私は……いえ、お兄さまならどのようなリアクションをするのでしょう。
できるのならば真似したいところですが、実は私自身そう言った他種族特徴、耳と尻尾が好きで。
せっかくラルさまからいただいたわけですし、すり切れるまでというか、
イゼリさんのように当たり前になるくらい馴染ませてはいきたいですね。
……なんて、少しばかり道の逸れたやりとりをしつつ。
闘士と面会するための受付をリーヴァさんがささっと終えてくださったので、そのまま闘士の皆さんがいるフロアへと向かいます。
(女性ばかりで大丈夫ですかと、ここを管理するクマ耳の獣人さんに聞かれましたが。そこにいるだけで誘拐犯を捕まえてしまった救世主さまの取り巻きですとお話すると、問題なく通してもらえたそうです)
「ええと、『闇の一族』の皆さんは……って。これは、ちょっと」
「ほっ。流石に服は着ているみたいだけど」
「今思えば不思議ですね。ラルさまがフレンドリーファイアするとも思えませんが、どうしてみなさん髪の毛と服だけなくなってしまったんでしょう?」
「あぁ、恐らく女神さま……ラル嬢は黒髪の男性が苦手なんじゃないかな。ローサ嬢とともに理想の男性像を追い求めているとは聞いていたけれど」
「うっ」
そんな、抹消してしまうくらいに黒髪が嫌だとは。
わたくしの内なる世界にいるお兄さまがびくくぅっとなって。
更に奥へ奥へと引っ込んでしまうのが分かります。
ラルさまの、救世主の一撃(もしかしたらラルさまは魔力を開放した程度の認識なのかもしれませんが)を受けた『闇の一族』のみなさんは、つるつるの頭を特段気にした様子もなく、おしゃべりをしたり屈伸運動をしたり、何やら絵姿に向かって祈りを捧げていたり……と言いますか、降り立った場所は、『闇の一族』のみなさんだけでなく、闘士の皆さんの共同のスペースらしく、各々がこれからの戦いの前に自由に行動しているように見えました。
コロシアムの闘士にありがちな枷のようなものをつけられている人もいないようで。
逃げようと思えば逃げられそうにも見えるのですが大丈夫なのでしょうかと思っていると。
そんな何だか場違いでとっても目立ってしまっているわたくしたちに気づいたようで。
つるつる頭のままの、炎色の道着らしきものを纏った集まりのうちのひとり。
『闇の一族』のリーダーであったハーゲンさんが。
少々慌てた様子でこちらへとやってくるのが分かって……。
(第106話につづく)