第102話、自分らしくありつつも、その存在が消えないように頑張ってみる
SIDE:ローサ
「ラルさま。良いものをいただきましてありがとうございます。初めて見る動物さんですがとっても可愛いです。大切にしますね」
「右に同じです。わざわざ私のために選んでくださったのでしょう? これ、掘り出し物だったのでは? よく見つけましたね」
「えっ……あ、うん。そうなんだ。リーヴァさんにもローサさんにも可愛くて似合うだろうなって思ったんだ。そうしたらほら。やっぱり二人にとっても良く似合ってるよ」
「うふふ。ラルさまにそうおっしゃられると嬉しいですね」
「くぅっ、何という余裕ぶりっ。羞恥に悶えていた自分が恥ずかしいよッ」
「……っ」
リーヴァさんが、少々照れつつも嬉しそうに。
予想していた展開にならなくて言葉通り身悶え肩落としているルキアさんと。
そんな彼女を引き続き撫で回しているウルルさん。
そんな中わたくしは、初めて見る生き物だけれどとっても可愛いひまわり色耳と尻尾を賞賛しつつも。
ラルさまの戸惑ったような、それこそルキアさんが言っていたように思っていた答えが得られずに残念がっている様子のラル様を目の当たりにして。
遅まきなが気づかされたといいますか、はっきりと自覚したのです。
それは、わたくしと兄さま……サーロの種族についてのこと。
半分だけ、【風】の名を冠するその一族は。
故郷では(といってもわたくしが覚醒したのはこの世界に兄さまが来てからですので、ラルさまたちの故郷が生まれという感覚はあまりありませんが)、魂の入れ替わりし種族と言われていました。
ひとつの身体に複数の人格を棲まわせていて、此度のように一方が拒絶され、あるいはもう一方が求められれば、入れ替わることのできる種族です。
これは兄さまも知らないことであると思われますが。
ラルさまの故郷における大元の主人格は、好きが高じて調子に乗ってやらかしてしまい、ラルさまに嫌われてしまったようで。
それでも相手を攻めたり怒ったりしないラルさまは、そのどうしようもない不肖の長兄を避けるようにしてこの世界へとやってきたのでしょう。
それなのにも関わらず、姿かたちだけならそれなりに長兄に似通っているサーロのお目汚しは、
かなりラルさまにしてみれば負担を強いられていたことでしょう。
故に、こうして求められるがままに今現在、見た目だけなら結構違うローサとしてここにいるわけですが。
せっかくのいただきものに対してのリアクションを、わたくしとしたことが失敗してしまったようです。
兄さまの情報によれば、一見するとそんな雰囲気を微塵も感じさせないラルさまは、
むしろ同性とのスキンシップが苦手だったようなのです。
何でも、代々ラルさまの一族には、無垢なる乙女でなければかなわない、唯一無二のお役目があったらしく。
それこそ世界を救い守るに等しいお役目の重圧に心痛めた結果。
純朴なる少年に……ラルさまの言い方を借りれば、『オレは男だ』と言ってしまう呪いのようなものにかかっていたようで。
心と身体の剥離。
そう言ったことをあまり気にしない質の男性達とはある程度うまく付き合えていた(と言っても、愚考するに周りの男性方も相当気を使っていたのでしょうが)、とのことですが。
女性の方はそううまくはいかなかったらしく。
今この瞬間、仮面越しながらのラルさまの苦笑。
取り繕う言葉に、壁を感じてしまったのは事実でした。
わたくしが、兄さま……サーロではなく、ローサという個人であると自覚してしまった以上、それを変えることはもうできませんが。
恐らくラルさまは、みゃんぴょうなる可愛くも未知なるマスコットの耳と尻尾を装備して欲しいと言われて。
ルキアさんのように、羞恥に悶え転がる兄、サーロを想像し、待っていたのに違いありません。
兄、サーロの面白いリアクションが、ご所望だというならば。
先ほどのルキアさまを参考にしつつ地べたを這うがごとき体勢を取るべきなのでしょうと、早速動こうとして。
「ローサねぇどうしたの? だいじょうぶ? もうラルさまたち、イゼリねぇについていっちゃったよ?」
「……はっ。ごめんなさい、アイさま。少しばかり考えごとをしていました。もう大丈夫ですので、向かいましょう」
「うんっ」
もしかしたら、自失していたわたくしめを任されお願いされていたのかもしれません。
自然と手を差し出してくるアイさまの、むくむくの小さな手を握り返しつつ。
イゼリさんのお宅へと向かうことにします。
楽しげに、手を振り上げる勢いのアイさま。
ご機嫌何は大変よろしいことですが。
思い返してみれば、一国のお姫様であるからして、そう教育されてきたのか、兄サーロの時にはなさらなかった行動です。
きっと間違いなく、ラルさまにも気づかれていたでしょうから、ある程度は予想してはいましたが。
どうやらアイさまも今現在、兄サーロが大分奥まで引っ込んでいて、私がほとんど主導権を握っていることにもお気づきのようで。
「ローサねぇさま、ですか。やっぱりアイさまにも分かりましたか? わたくしが、ローサであることが」
「? ローサねぇはローサねぇでしょう?」
「ええ、ええ。そうですわね。ラルさまが気分を害さなければ良いのですが」
「なに言ってるの? ローサねぇ。ラルさまならだいじょうぶだよ。ずっとやさしいよぉ」
「はい。わたくしの気の迷いでしたわ。早くみなさまと合流いたしましょう」
「うん!」
上辺の……仮面のラルさまではなく。
その向こう側に寄り添いたいというのは我が儘でしょうか。
どんなに拒絶されようとも、兄サーロにはそれができていたのですから、代わりを求められつとめている以上、出来うる限りのことはしなくてはなりません。
わたくしは、兄サーロをしっかり思い出すみたいに。
むしろ呼び起こす勢いで。
恥ずかしがってアイさまが手をお離しになるくらいにはなりきってしまおうと。
その時その瞬間、誓ったのでした……。
SIDEOUT
(第103話につづく)




