第100話、内なる世界の兄さまが、脱兎のごとくで奥へ奥へと
SIDE:ローサ
タイミングがいいのか悪かったのか。
金属めいた、大分ロマン溢れるモンスターたちをかきわけ、たまに素材などをいただきつつ。
ラルさまを除いたお買い物班のみなさんと合流して。
ラルさまの元へ集った時分には、『地』の魔精霊も、獣人の子供たちも、
彼らをとらえつつ連れ去ろうとしていた闇の一族のみなさんですら、敬虔なる信者のごとく、すっかり虜にしていて。
やんやの喝采で取り囲まれて、おろおろしているラルさまがそこにいました。
「うぅ~。失敗したぁ」
仮面をつけているはずなのに。
思わず素が出てしまうくらい何かラル様的にはやらかしてしまったようで。
意図せずに、敵味方構わず多くの信者を生み出してしまったこと(その辺りのことをお話した時、初めはラルさまらしく謙遜してそんなはずないとおっしゃっていましたが。
言葉の並びが、ラル様にしてみれば悪くなかったらしく、結果的には満更でもなさそうなのが印象的でした)かなと思いきや、少し離れたところに、人の寄り付かない空間があって、時折ラルさまがそちらを気にしているのが見て取れて。
「うわっ、ちょっ、なにっ!?」
「ほうほう、これはコレで。興味深いデス」
「こらっ、あんまり見るでない!」
「そんな事言ってレミの方が興味津津じゃない」
「あ、みんな! ごめん、ちょっと失敗しちゃって」
そんなラルさまが救い上げてくれる神様を見つけたような目で、皆と言いつつもわたくしを見てくるので。
そんな期待に応えない訳にはいきません。
「むぅ。そうか、ローサ嬢は男であると言い張っているからね」
「ご愁傷さまです」
「あのひと、なんではだかんぼでつるつるなの?」
「きっと間違いなく、神罰が下ったのでしょう」
我らが女神を邪な目で見たらどうなってしまうのかこれで分かりますよね、とでも言いたげに。
リーヴァさんがこちらを見てくるのを華麗にスルーして。
一つ息を吐き、使い古しで雑巾か何かにでもしようと思っていた古びたマントを取り出し、着ていた黒いローブどころか、たぶんきっと同じ色をしていたであろう髪の毛ごとなくなってしまっている男へとかけ、いろいろ見えてしまっている部分を隠します。
「これまた随分と派手にやってしまいましたね。ラルさま」
「う~、うん。はじめはフードをかぶっていたから、分からなかったんだけど、この人この世界ではそんなにいない黒色髪一辺倒だったから、思わず動揺しちゃって。力の加減、間違えちゃったんだ」
力加減を間違って、何とか五体満足ですんでいるのだから、いろいろな意味でさすがのラルさまですが。
ある意味、結果的にではありますが、ここまで辱めなくてはならないくらいに、黒髪が嫌いといいますか、サーロ兄様が持ちし(ちなみに今のわたくし、ローサは黒色よりの、紫色がかった髪色です)髪色を見ただけで動揺してしまうくらいには、未だラルさまの心に何かしら深い傷として残っているのでしょう。
これは、まずます戻るわけにはいかなくなりましたね。
わたくしも、ツルピカのはだかになるのは遠慮したいところですし。
……わたくしは、そんな事を考えつつ、意識失ったままの男を、またしても取り出したるロープにて縛り上げて。
仮に目を覚ますことがあっても動けぬようにしてから、たくさんの人がごちゃまぜに居合わせて混乱が起きかかっているのを鑑みて、機械仕掛けの魔物さんたちが、集まってくる前にと。
リーヴァさんと頷き合いつつも、少しばかりズル……と言うわけでもないですけれど。
【風】の魔法のひとつである、『ヴァ・エコー(拡声)』の魔法を使ってから声を張り上げます。
「みなさん、落ち着いてくださーい! ここにおわすお方をどなたと心得ます!【火】の根源に届きうる存在にして、【闇】にも篤く、此度は水の国の未曾有の危機を、【水】との友誼のもと、救い上げし救世主、ラルさまですのよ! ……この地下深くでひれ伏しなさい、とは言いません。まずは外に出ることにいたしましょう。ラルさまの忠実なる配下であるわたくしたちが、露払いいたしますから!」
根源から救世主云々のくだりで、案の定ぽかんとしてから驚きの声を上げるラルさま。
救世主であることの自覚のなさはとりあえず置いていおいて。
ラルさまが(正確には故郷の本体が)世界を構成せしむ12の根源、【火】の一子であるというのは、全くのデタラメ、というわけではありません。
第一に、故郷において他の属性の根源を名乗るものが顕現しても、今の今まで【火】の根源だけは、見たことがなかった……
こんな風に、火の女神さまと讃えられても、【水】さまの時のように(これはまぁ、お芝居ではありましたが)、ご本人が文句を言いに姿をお見せになることもなかった、というのもありますが。
ラルさまの故郷の、わたくしのお兄さまが言うには、これだけ圧倒的にラルさまの存在が際立っていて、
それよりもっと上の存在がいるだなんてありえない、とのことでした。
まぁ、わたくし個人としましては、上位の魔精霊であっても他の魔精霊や人族と契りをかわし子をなし、
世界を繋いでいくとのことなので、ラルさまは【火】の根源の直系ではないのかと愚考しています。
その辺りのことをよく分かっていないようなのは、きっとラルさまご本人ばかりで。
ラルさまは、謙遜すぎること甚だしく。
いつものように、否定なさりかけましたが。
衆目も多く、状況がよろしくないことはラルさまも分かっているのでしょう。
仮面越しながらもぷんすこと、やっぱりリーヴァさんのおっしゃる通り、私をそのいち仕草で萌えつき天に導かんとされつつも、後でね、とばかりにラルさま御自ら口を開かれます。
「皆さん、一旦地上に出ましょう! 獣人族の皆さんは、周りのお姉さんたちについてきてください。【地】の魔精霊のみなさんは、【金】の魔物さん、魔精霊さんたちと仲直り……仲良くしてくださいっ。そして、闇の一族の皆さんには、聞きたいことがあります」
だから今は、大人しくついてきてもらえますか。
それはもう、ほとんど言霊にも近くて。
獣人族の子供たちや、【地】の魔精霊さんたちはもちろん、そうは言っても少しづち増え始めていた、【金】属性の魔物、魔精霊さんたちにも効果覿面で。
当然のごとく闇の一族……お揃いの黒ローブをまとっていた彼らの魂にも響いたようで。
どこか、熱に浮かされた幽鬼のごとき雰囲気を醸し出しつつ。
(実際はきっと、ラルさまの圧倒的な存在感に惚けているだけなのでしょう)
特に抵抗する素振りすらなく、大人しくみんなの後についてきてくれて……。
(第101話につづく)




