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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
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第10話、流石に顔を合わせただけで生理的に無理だとは信じたくない



SIDE:サーロ



俺が異世界に飛ばされる事となったそもそもの原因、理由であるといってもいい、同じく異世界転移してきた存在……救世主の少女。


彼女が何故この世界にやってきたのか。

彼女を支え守らねばならない責を負う俺は、その事をもっとよく考える必要があった。


彼女がこの世界にやって来たのは、肩書き通りにこの世界を救いに来たわけじゃない。

その重責を終え、自らを救ってくれる人を……あるいは何のしがらみもないこの世界に落ちてきただけなのだ。


たぶん彼女にとって俺は、避けてきたはずの柵そのもので。

その事に気を遣いつつ、慎重に事を運ばねばならなかったのに。



彼女を女神さまと呼ぶ、囚われし少女アイの訴えと。

A級賞金首であるヴォトケンの闇魔術【淫夢の法】の恐ろしさと。

現在進行形で盗賊達に捕らわれているように見えた、俺が思っていた以上に小さくか弱い彼女の姿を目の当たりにして、少なからず動揺していたのだろう。


まだ自己紹介すらしていないのに。

敵か味方かもはっきりしていないのに。

いきなり攻撃魔法を放ってしまったのは、失態以外の何でもなかった。


殺傷能力はそれほどでもないし、彼女に当てないつもりでいたなんて言い訳にもならない。

そもそも彼女はそれに気づいて尚、盗賊達を庇ったのだから。



ギルドで調べて来たので、俺が曲がりなりにも受けてきた依頼の盗賊達に間違いないのだろうが。

彼女には守るだけの理由があった、と言う事なのだろう。

全くもって迂闊である。


たった一度きりの初対面であったのに、弁明する間もなく逃げられてしまった。

しかも、俺がさっき使ったばかりの、【リィリ・スローディン】と呼ばれる高等合成魔法を目の当たりにできるというおまけつきだ。



……ん? 逃げるだと?

なんでだ、おい。

そもそもおかしいじゃないか。


俺自身も、彼女の事をよく知っていると言うわけではないが、彼女は俺の事を知らないはずなのに。

何故あんな変質者にばったり出会ってしまったかの如き態度をとられたのだ?


……なんて、自分で言って物凄く凹みつつも、彼女の纏う火の色濃い魔力の気配を覚えた事もあって。

逃げられてしまった事自体は、あまり重く考えてはいなかった。


この世界から出て行ってしまわない限り、探そうと思えば探せるし、彼女がここに来た理由を考えれば、彼女はいずれ『ここ』に戻ってくるであろう事に確信を持っていたからだ。





ふと顔を上げれば、森から街への道すがらいくつもの馬車が連なっているのが見える。

一つは、盗賊達と見るに堪えない姿で前後不覚に陥っていたヴォトケンが。

もう一つは、ヴォトケンに囚えられていた女性達が乗っている。

その周りには、ギルドから出る前に出会った冒険者達がいた。



本来、深澄の森の中にいるかもしれない盗賊団の調査を請け負っていた俺は。

目立ちたくない……身の丈にあった仕事しか受けないつもりであったため、

「盗賊を見つけたら捕まえるのを手伝ってくれ」とお願いしていたのだ。


抜かりなく、そのための連絡道具も渡していた。

俺が先行する形で盗賊のアジトらしき場所に乗り込んだ時は既に、冒険者達も街を出ていたというわけで。

本来なら、そこで少なからず戦闘となって、自分以外に手柄を押し付けるためにうまく立ち回るつもりだったのだが。


彼女と出会ったしまった事への衝撃か、盗賊達は憑き物が落ちたみたいに抵抗する素振りを見せなかったので、少しばかり面倒な展開になりそうな予感はあった。


……まぁ、囚えられていた女性達は、彼女の姿を見ていたから。

盗賊の捕縛、囚われし人々の救助、賞金首の撃退、それら全てが俺の手柄になる事はないだろうが……。



それはさておき。

先程口にした、彼女は戻ってくる、の件だが。

俺がそれを確信しているのは、囚われし女性達の中に、彼女と会話をしたという、『アイ』と呼ばれる少女がいたからに他ならない。


彼女の事を『女神さま』と呼んで憚らない少女によれば。

なんの前触れもなく現れた彼女は、何故か自分を気にかけてくれて、助けてあげると言ってくださった、とのこと。


そうなると、結果が分からないままどこかへ雲隠れなんて事、ありえないだろうと思ったわけだ。

つまるところ、探さずして彼女と再び相まみえるには、アイちゃんにくっついていればいい、というわけで。



何事もなくラスヴィンの街へと戻って来た俺達は。

ギルドへと盗賊やヴォトケン達を突き出すとともに。

捕えられ、親元から話されてしまったというアイちゃんを家まで送ってあげよう、と思い至った次第である。


ヴォトケンや盗賊達を捕縛した事のよる報奨は、自由な俺の責任逃れな意味も込めて、立役者の『彼女』に渡すと言う手前、受け取っておく。


まぁ、受付に何故かリーヴァさんがいなかったので、そんな風にかっこつける自分を見せられなかったのは残念と言えば残念ではあるが。



さて、ここまでお膳立てしたわけだから。

俺が出会う前から生理的に無理だとか、蛇蝎のごとく嫌われてなければ。

もれなく彼女は姿を見せてくれるはずなのだが……。




          (第11話につづく)







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