帰り方
「あのー、勇者の方々……」
みんながびっくりし、注意が巫女のほうに向いた。
ラッキー、これで俺のことを一瞬だけ忘れてくれれば、逃げるチャンスがまた生まれる。
「勇者?!」
巫女は慣れたようにすらすら答える。
「はい、あなた方はザーク神に召喚されました勇者です」
何人か自分たちの置かれた状況に気付いて、青くなっている者もいる。
「召喚?!勇者?!」
全く理解してないやつもいるけどね。
「つまりここはファンタジーな世界。何か使命を果たさなきゃ帰れないってこと」
みんなの冷たい視線を浴びながらでも、頭の回転が遅いやつらに状況を教えなきゃいけない。
これはクラスメートとしてではなく、人間として当然のこと。
「そういうことでしょ」
俺は巫女殿に話を振る。
「はい、あなた方には七人の魔王を倒していただきます。そして、来たる魔神との戦いに備えていただきたいのです。そして無事魔神を……」
「「「エエーーーーッッ」」」
神殿にみんなの叫び声が響いた。
そりゃそうだ。
普通の高校生ならびびる。
俺みたいなオタクじゃないと異世界の知識は豊富じゃないし、戦い方も知らない。
こういうときにゲームやっといてよかったって思うんだよな。
みんなが発狂してるな中で、俺だけがただ一人冷静だった。
「帰れないかもしれないってこと?」
誰かが聞く。
「復活魔法というものが存在していますが――」
みんなが安堵する。
「が……」
俺は巫女の最後の語尾を聞き逃さなかった。
「ですが、神級の魔法ですのでまだ呪文が見つかっておりません」
ほらクラスが崩壊し始めた。
「まだ死にたくないよ」
「家に帰りたい」
「お母さん」
何人かが泣き出している。
みっともないやつらだ。
「さっさと帰りたいなら、さっさと魔王を倒して魔神を殺す、それだけじゃないのかい」
俺はクラスのやつらにそう言ってやった。
その言葉が結果としてウソになると知らずに。
自分より雑魚いと思ってる俺が言うことで自分のみじめさを知ればいい。
「そうだよ、みんな」
ひーろー勇馬が言い放つ。
「みんな聞いて。早く帰りたいなら、早く魔王と魔神を倒せばいいじないか」
全員がぽかんとした目で勇馬を見る。
「安全に生き延びたい。それなら安全な方法で強くなればいい。そして強くなって元の世界に帰ればいい
じゃないか」
「そりゃそうだけど……」
何人かがつぶやく。
「今ここにおいて、生き残るためには襲い掛かってくる災難より強くならなきゃいけない」
そこで、勇馬は言葉を切る。
「そのためにはみんなで魔王と魔神を倒して元の世界に戻ろうよ」
「そっか」
「そうだね」
「よし、みんなで帰るぞ!!」
「「「「「オオッーー」」」」
吐きそうなくらいなテンプレなのでかなりビビる。
特に勇馬、勉強、スポーツ、性格、どれもが完璧なやつにとっては、これも神が自分を試しているんだと思っているのかもしれないな。
このテンプレ少年はうざいけど、ここまでを地でするのは称賛に値すると思う。
そんなわけで案外簡単にクラスの動揺が収まった。
収まったところで巫女さんが俺らを案内して大広間と呼ばれる場所に連れてきた。
「ここがお食事の場となります」
たった25人なのに広すぎやしないか?
「ここは平民の方々への食堂としての役割を果たしておりますので、広くなっております。
勇者様と平民は分けますのでご安心ください」
別に分けなくてもいいけど?
そう思ったが口には出さないでおいた。
非難はさっきのだけで十分だ。
次に連れて行かれたのは聖堂と呼ばれる場所だった。
学校の体育館と同じくらいの広さだ。
ここでは日曜日の午前中に神に祈るらしい。
水晶球が机に1つ乗せてある。
「本日はここで皆さんのステータスを確認させていただきます。この水晶球に触れていただくだけでよい
ので並んでください」
地獄が始まった。