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始まり




 体が、見たことがないほど神聖な光に包まれ、俺は目を閉じた。


 次に目を開けた時、初めて感じたのは太陽の、目を突き刺すような白光だった。

 痛みに耐えながら、目を開け周りを見渡した俺はその異常さに気づき、パニック状態に陥ってしまった。


 だが、それは十分前の話。


 俺はただひたすら、周りの状況を分析し、情報を収集していた。

 そして今、俺、幕楽高校2年菅谷健人はため息をつく。


 今どういう現状か?


 簡単に言うと、どっかの馬鹿が理科室にある装置をぽちっと作動させてしまったのだ。


 その結果、神殿らしき場所にクラスごと移動してしまった。

 

 造りからして、ヨーロッパにでもやってきたのだろうかと錯覚してしまいそうになる。

 

 白い大理石のような床にはクモの糸のように張り巡らされたラインが引かれている。

 それが、一体何かは全くわからないが、一定の規則を持っているように思えた。

 壁には様々な壁画が飾ってあり、そこにいる人物は皆、武器を持ち、見たことのないような化け物と戦っていた。

 今までに見たことのある教会とは一線を画しており、その差が先ほど俺を混乱させたのだ。


 さらに言うならば、転移装置が実在していた、という事実を認めるということを脳が拒否したとも考えられる。


 そう、今起きているのは普通ではありえないことなのだ。


 桜子先生がジェスチャーをがんばっているのを見ればわかるが、言葉は通じない。


 さらに、電子機器系統は使えるものの、電話、メール、インターネットなどの通信系統は残念ながら断絶している。


 要するに、どこかわからない土地に言葉が通じない状態で放り込まれたわけだ。


 そんな状況の中でも、俺は今平然としていた。


 明るさでいえば、雷ほどの光が、理科室を襲ったのだ。

 まあ、今頃学校はその光のせいで、マスコミが騒がしいことをしているのだろう。


 1週間したら救助でも来るか。


 俺は現在の状況を維持することに関しては楽観的に考えていた。


 だが、そこで、俺は一端考えを止める。


 まさか、いや確定だ。


 そして、軽くガッツポーズを決めた。


 ヨーロッパ観光ができる。


 前々からずっと行きたいと思っていたので、その事実は俺に最上級の喜びをもたらした。


「全く唯斗があの装置のボタンを押さなけりゃ、今週末は海に行けてたのにな」


 もちろん海など行く予定すらなかったが、観光気分で余裕を取り戻した俺は、そうやって装置を作動させた張本人に軽口を叩く。


 恐怖か、心配か、それか緊張か。青くなってブルブル震えてる友達を少し緩ませたかったのだが……。


「ごめん、この状況から脱出できたらちゃんと埋め合わせするから」


 帰ってきたのはまじめすぎる言葉だった。

 仕方ないか。学校でも有名な秀才だからな。

 少しでも笑ってほしくて、俺はにやりとした。


「わかってる、期待させてもらうよ」


 意図せず、それは失言となってしまう。

 言葉を発した直後、クラスの大多数から視線が突き刺さるのを感じた。


 この状況でクラス2のイケメンを責めるなんて許さない。


 あかり以外の女子の目はそう言っている。


 あかりはいつも通り優しいまなざしだ。


 いったい何があったか知らないが、俺が痴漢にボコされた後からことあるごとに視線が合う。


 ただし、クラス1の美少女の視線に男子たちは気づいているのだ。

 ことあるごとに睨み付けられるから、あかりのその視線は本当に勘弁してほしい。


 男子たちの目、特に朱莉ファンの目はオタクがクラス1の美少女に近づくなって叫んでる。


 こっちだってそんな気はないのにね。


 まあ仕方ないからいつも適当に受け流してるけど、邪魔なのは確かだ。


 さてと、嫌な雰囲気になってきたな。

 こういう時は消えるのがいい。


「ちょっとトイレ探してくる」


 唯斗にそういうと俺は丸く引かれたラインの外に出た。


 その瞬間、一生懸命に桜子先生と会話していた巫女がこちらを向き、ほっとしたような感じで走ってきた。


 みんなの視線が再び俺に集中する。


「いったいなんだよ」


 通じるわけないから軽く悪態をつく。


 巫女が急に止まった。


 そしてその場に崩れ落ち、泣き出したのである。


 やばっ。そう思ったができることはほとんどない。

 せいぜいが通じるはずのない声をかけてやるくらいだった。


「なんか気に障ること言った?」


 まさか通じるわけないよねと思いながら巫女に近づく。


「ごめんなさい、勇者様」


 巫女の声は理解できた。

 だけど、勇者?

 うん、きっと空耳だよね。


「急に謝られる覚えはないんだけど」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


 いくら、謝るのをやめさせようとしても、その巫女は俺に頭を下げたままだった。

 やっぱ通じてないのかな。

 

「泣くのやめて」

「はい、勇者様」


 泣き止むの早すぎでしょう。

 そう突っ込みたくもなったが、その前に聞きたいことがあった。

 通じてたんだ。

 でもだとすると……。


「勇者様って何?」


 もしかして……。


「勇者様は……こちらの世界にザーク神によって召喚されたのです」


 マジすか。

 これって……いわゆる異世界転移ってやつだよね。


「じゃあ、この世界って魔法があったりするの?」

「はい、「っっっしゃー!!」?」


 やばっ。


 オタク魂が叫んでしまった


 巫女さん、そんな純粋な目で不思議そうに見ないで。


 後ろを振り返るとひいたような目をしたクラスメートが……。


 いや、完璧ひいてるよね。


 首をかしげて巫女は続けた。


「……魔法学園もありま「夢の魔法学園ライフっ!!!」」



 しまった。

 またオタク魂が……。


 ゴホンッ。


 咳払いをして冷静になる。


 ここまで来たのなら必ず聞いておかないといけないことがある。



「――獣人とかいるの?」


「もちろんウサギ、猫、「ケットシーッ!」」


 あまりの感動に倒れてしまう。

 まさか、本当にラノベに書いてあることが起こりうるなんて……

 オタクにとっては夢の世界。


 ああ神様。

 あなたは寛大です。


 俺は神様に感謝の言葉をささげながら感動で意識を手放した。

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