過去
人を操る力を持つ人間"人操"。
国内で確認された数は、僅か7人。
発祥経路も、人操共通の特徴だってない。
けど、確かにその能力を持つ人間は存在していて
俺の幼なじみであり、俺の飼い主であり、俺の生きる理由でもある
相楽恭矢もそのひとり。
恭「静、来て、今すぐ」
いつも気紛れで呼ばれる。
呼ばれて、恭ちゃんの部屋に入ると必ずと言っていい程
いきなり唇が重なってきて、段々それが深くなっていって、
静「‥‥っん、ふ‥‥///」
恭「えっろ、何感じてんだよ」
感じてる訳じゃない。
ただ恭ちゃんみたいに女慣れしているどころか
恭ちゃん以外の人とキスしたことのない俺にとっては
この日がくる度、受け止めるのにただただ必死で。
恭「‥‥あーなんか萎えるわ、その反応」
静「‥‥、え、?」
恭「昔みたいに嫌がれよ。レイプみたいで興奮したのに」
静「‥‥だ、って‥‥恭ちゃんに逆らえる訳、「ねーよな」
静「! 分かってるなら、なんで‥‥」
恭「お前つまんね、飽きた」
そんなこと言われたら、俺の生きてる意味って‥‥
絶望にも似たその言葉を言われた俺は
自分が生まれた時のことを思い出していた。
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あれは7月の暑い日。
母は俺を自宅で出産した。
静そう名付けられたのは母が本当は女の子が欲しかったからで
俺が生まれて、母は毎日泣いて過ごしたらしい。
"女の子が良かった"
"男の子なんていらない"
父は言った、
"女の子でも男の子でもどっちも俺達の子供だろ"と。
今思えばすごい正論だし、良い父親だったんだなと思う。
けど、母は違った。
"女の子じゃなければいらない、静なんかいらない"と
父が仕事へ行った隙を見て俺を捨てた。
父も、母さえも知らない土地に。
それからは正直よく覚えてない。
まだ生後まもなかったし、
‥‥てか、ガキの頃の記憶なんて出来ればいらない。
いつ相楽家に拾われたのかも分からない。
物心ついた頃には、俺の中心は相楽家の一人息子である
"恭ちゃん"になってて、相楽家の旦那様は俺の実の父親じゃないと知って
それで、自分の可哀想な過去を旦那様に教えてもらって
動揺して、虚無感に駆られて、けど重いなんてないからすぐに忘れて
俺の生きる意味は"恭ちゃんに必要とされること"になった。
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