入学式
春風が髪を靡かせ、そして可憐に咲いた淡い桃色の花弁を儚く散らせる。
周りは私と同じように新しく始まる高校生活に胸を躍らせている様子の高校生たちが溢れていた。それは私”櫻町さとみ”も同じであり、中学を卒業してから何度この日を夢見たことだろうか。春休みに新しく買った可愛らしい制服に身を包み、馴染んでおらずまだ硬い革のローファで地面を踏みしめる。
校門には多くの人だかりができており、門の横には「山吹高等学校 入学式」と達筆で書かれた看板が置いてあった。
そう!今日は誰もが胸を弾ませて止まない高校の入学式!
なのに、なのに......!!
「なんで今日は雨なの!!!!!!!!!!!」
ドラマや漫画、アニメどれを見ても高校の入学式では満開の桜のトンネルを潜り、晴れやかにこの日を迎えていた。なのに!なんで私の入学式は雨なの!?
ジメジメした不快な湿気、まだ新しい制服を濡らす雨、そして雨によって散ってしまい地面に張り付いている桜の花弁。
これほど入学式にふさわしくない日はあるだろうか?いやない。こんな天気だから入学式は中止され、明日に変更するべきである。なんてこんなに心の中で駄々を捏ねたところで何も変わらないのはわかっているが、認めたくない私がいた。
ああ、生まれ変わるのならば次の高校の入学式は雲ひとつない快晴でなければ元が取れないはず。
というかこんな日に高校生活を迎えさせた神を私は絶対許さない。もうお正月であろうが、万札入れてやらないし、それどころか祈りすら捧げてやらない。
そんなどうしようもない天気に恨みを抱えながら校門を潜った。
なんだかんだ雨に苛つきを感じていたが、こう校門を潜ってみると新しい生活が始まるのだなぁと嫌でも胸が踊る。まあ、今は踊るどころか揺れることすらできないような胸だが、きっと高校生活を終える頃には、豊満に実ったものが付いているだろう。
校門を潜った私をはじめに迎えてくれたのは、部活の勧誘であった。
「野球部どうですか!?」
「漫画、イラスト研どうですか?」
「誰か入ってください!なんでもしますので!!」
と元気に新入生たちを勧誘する先輩たち。中では自転車競技部がローラーの上で自転車のペダルを漕ぎ、そして両手を離してこちらに手を振ってくる強者もいた。何あれ、凄っ!!
そして水泳部の男子の先輩。こんな雨降ってまだ冬の寒さが残る中、海パン一丁で一年生を勧誘しているよ。見ている私まで寒くなってきた。
私といえば、中学時代は部活に所属しておらず、ただ塾と学校を往復していた人生だった。しかし!もう憧れだった高校には入学する事が出来た!だから私は高校では絶対部活に入って青春をするんだ!と決意していた。
どうやらこの学校は色々な部活があるようで、なんでこんな部活あるのだろうと疑問に思ってしまうような部活さえあった。
こちらにパンフレットを手渡そうとこちらに先輩が歩いてきた。
道着姿で左手には身長以上の大きさの弓を手にしていた。星空を思わせる美しい黒髪を白い紐で一つに結んでおり、その大きく丸々とした瞳、透き通る白い肌に雨の水滴が滴り、別にはだけているわけでもないのに、艶かしいと思ってしまった。
「あ、あの弓道部で......きゃっ!」
目の前で足元を滑らせてしまい、転けてしまった。
「あ、あの大丈夫ですか......?」
私はその先輩に手を差し出す。すると相手は恥ずかしそうに顔を熟したトマトのように染め、私の手を握って立ち上がった。
「あ、ありがとう、ございます......」
あまりの恥ずかしさで目を合わせれないようで下を俯く先輩。
はっと何か思い出したかのような動作をして、こちらに部活のパンフレットを差し出した。
「キュ、弓道部です。もしよければ来てください!」
とこちらに差し出し、私が受け取るとすぐさま走り去ってしまった。
ちょ、また走ると転けてしまうのじゃないの......?と心配しながら見守るとまた小さくきゃっ!と悲鳴が聞こえ、転けていた。白かった道着は今では雨に濡れ、汚れてしまっていた。
か、可愛すぎる......!あの先輩可愛すぎる!!!
1回目に転けてしまい少し汚れてしまったパンフレットの文句さえ忘れる可愛さに私の心は弓道部に惹かれつつあった。
もうすぐ入学式の時間だ。急がねば。
私は新入生の波に乗りつつ、入学式が行われる体育館へと急いだ。
それにしてもあの弓道部の先輩可愛かったな〜。
私の入学式も雨が降っていたなぁ