表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4 出発

 晴天、風なし、見通し良し。流れ星も落ち着いた。大きく開いた倉庫のドアから夜空を眺め、ミトが言う。その声にかぶせるようにして、トーマが呼びかける。


「ねえ、そろそろいいんじゃない、出発しても」 


 コクピットが前方、指令室が後方、荷物入れのトランクが一番後ろ。出来立ての船はもう今にも飛び出したくて仕方がないみたいにトーマには見える。


「まだだ、レーダーのチェックが済んでいない。こいつに何か引っかかったら今日の出発は中止だ」

「えー、せっかくこんなにいい天気なのに。ほら、早くしないと夜が明けちゃうよ」

「うるさいな、静かにしてろよ。…よし、いいぞ、半径200キロ圏内異常なし。エンジン点火!」

「了解!」


 ばあん!、という爆発のような音の後、地鳴りのようなエンジン音が響き渡る。


「ちょっとミト、この音何とかならなかったの。これじゃミトの指示が聞こえないよ」

  驚いたトーマは叫ぶ。


「燃料がちょっと良くないんだ、そこまで資金が回らなかった。飛行には問題ないさ。船内無線を使おう。コクピットの中にマイクとヘッドフォンがあるぞ」


 ミトは指令室の中の無線機を準備して、コクピットと繋いだ。すぐさまトーマの声がする。


「あーあー、ハローハロー、本日は晴天なり。こちらトーマ。マイクの調子はどう、ミト。そっちに声は聞こえますか、どうぞ」

「こちらミト。下らない真似をするんじゃない。声は聞こえている。感度良好、以上」

「もう、無粋だなあ、せっかくこの無線の初舞台だってのに、もっと華々しくできないの」

「別に無線だけじゃないぞ、今日はすべてにおいてハレの日だ。俺たちにとっての、な」


 トーマは少し驚いて、モニターの中のミトを見る。なんとまあ、あのミトも少しは浮かれているらしい。ハレの日、だってさ。それはどこの星の言い回しだっけ。


「ふふふ、そうだねミト、さて僕はこれから何をしたらいいの?」

「目の前のハンドルを握って、足元の右のペダルを踏め。そうすれば前に進む。左のペダルを踏むと止まるし、ハンドルを動かせば方向を変えられるぞ。少し周りの野原で慣らすか」

「必要ないよ。もう他に操作に必要なことはない?」

「そうだな、操縦席の左のレバーを引くと緊急脱出用のパラシュートが出てくる。それだけ覚えておけ、あとの操縦は体で覚えろ。一緒に作った船だ、大体わかるだろ。気圧や温度、空気の調整はこっちでする」


「了解。では出発だね。準備はいいかい」

「万端だ、待ちくたびれたよ」



 モニター越しに二人は笑いあう。ペダルを踏むと、船はゆっくり動き出した。


 いよいよ、始まる。高揚した気分を引き締めようと、トーマはぐっと背筋を伸ばして脇を締め、ハンドルを胸に引き寄せる。


「ねえミト、そういえばこの船って、どうやって…」


とぶの?



 肝心の一言を言い終わらないうちに、機体は上昇し始めた。


「ああ、言い忘れていたが、そのハンドルは手前に引っ張ると飛ぶぞ」

「はは、もう遅いよ!」


 トーマが笑った瞬間、後方からバキバキと大きな音がした。


「ちょっと尻が倉庫の屋根にぶつかったみたいだ。まあ、問題ないだろう。そんな《《やわ》》な造りじゃない」


 思いのほか冷静な声で、ミトが解説する。


「随分な言いようじゃないか、自分の作った船が可愛くないのかい?」

「ほとんどはどこかの星の先人の仕事だ。俺たちは少し、お前に操作しやすいように手を加えただけさ」

「そうか、そうだったね。それじゃあ遠慮なく行くよ。操縦は任せて、ナビゲーターよろしく」

「ああ、まずは1時の方向へ上昇しつつ160キロ、成層圏を出たら、N17星の方向へ直進。そんなにかからないはずだ」

「目的地はN17星に近いの」

「あの星は燃えているからな、そんなに近くへはいけないさ。星を中心に回っている、真ん中から四番目の惑星だ。とりあえずN17星を目指して進もう」

「了解。警備軍隊に鉢合わせたらどうする」

「表面にステルス加工がしてある。それに軍とはいえお役人だ。戦争中でもないのにそんな仕事熱心に敵探しをしていないよ。まず見つからないさ」


 ミトは山の端が白く染まり始めた空を見上げた。晴天、風なし、見通し良し。二人の出発を祝うように飛び交っていた流れ星も、もうすっかり落ち着いた。今はきっと、とても平和な空なのだ。


「なんだ、すごい銃とか搭載してると思ったのにな」

「孤児二人が仮にも国家直轄の軍隊にかなうわけないだろ、もういいから前を見ろ。あとちょっとで成層圏突入だ」



 二人の少年を乗せた白い翼は、濃紺の夜空を切り裂いて轟音とともに銀河を飛んでいく。旅が始まった。計画は、まったく完璧だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ