ネコを被った令嬢が家に帰るまでの話。
n番煎じの物語です。
首を長くして感想、評価まってます!!
「クリス、お前との婚約を破棄するっ!!」
べべんっと、効果音でも付きそうな言動をするこの国の王子。
黙っていたらそこそこ見られる容姿を持った彼が此方をにらめつけている。その瞳は怒りに燃え周囲をどよめかせる。
傍らには可愛らしい少女。
ピンクのフリフリのドレスを着て異常なほど華奢である身体。そして瞳は潤み頬は薔薇のように赤く染まっている。
きらびやかな会場で行われる卒業パーティーでの婚約破棄。
これが俗に言う乙女ゲーム的場面なのだろうか、と冷静に考えようとしても巧くいかず動揺で瞳が揺れる。
手は震え、思わずからだの前でぎゅっと握りしめる。
だが分からない。
なんで自分がこんな目に??
時は遡り12年前、花が咲き乱れる王宮の庭園でクリスと王子ヴィンセントは出会った。本来の社交界デビューは6歳から。しかしクリスは当時4歳だった。だが両親同士が長い付き合いの友人であったため国王、そして王子に出会えたのだった。
今思えばそれが悪夢の始まりだったのだが。
クリスは王子のことをやけにキラキラしい髪の毛をしている子だと思った。
王子はクリスのことをなんて可愛らしい女の子なんだと思った。
それから2年間二人の交遊関係は続いたが別の学校に進学することとなりそれは途絶えた。
そして9年後二人は高等部で再会する。
現在。高校3年生の卒業パーティーの最中にこの珍事は起こる。
卒業パーティーとはいえ他国の大使や使者が訪れるこの舞台で王子は何を始めるのかと皆はざわめく。いくら王子であろうとこの場での失態はそのまま廃嫡へと繋がる。
「一体どういうことでしょうか王子。」
深呼吸をし暴れる心臓を抑さえながら言う。
意味が分からないと思うと同時に怒りがわき起こってくる。
「しらばっくれるんじゃない。お前がアリスに対して嫌がらせをしていたことは既に掴んでいる。」
はぁー。思わずため息がでそうになる。
なにを言っているんだこのバカ王子は。
どうしてここまでヒドイ勘違いを出来るのやら。
「アリスとは其処にいらっしゃるご令嬢のことでしょうか。だとしたら私は彼女に会ったのは今日が初めてですからそれは勘違いということになります。」
あまりにも馬鹿馬鹿しくて一気に捲し立ててしまう。
あぁ、こんなんじゃご令嬢失格だ。せっかく今まで上手くやってきたのに。案の定お母様も冷ややかな目で此方を見ている。
ここはさっさと退場するしかない。
「ということで私はもうよろしいでしょうか??」
そこまで言ってゆっくりと可憐に見えるようにお辞儀をする。
せっかくのパーティーだったがしょうがない。
最後のお披露目だから気合いいれてきたのに。
もうこの格好をする必要が無いと思うとせいせいするけど。
学園に親しい者は居ないしこのあと家で友人と茶会をする予定だからもう良いだろう。
「では皆さま方ごきげんよ「待てっ!!」」
「………なんでしょうか王子。」
人の言葉を遮るなんて品のない。
不快に歪んだ口元を隠すように扇を持つ。
「もう証言はあがっているのだ。ハロウド!!」
宰相の息子のハロウドを呼び嘲笑うかのように此方を見る。
「はい、王子。まずアリスを卑下する言葉を何度も発しています。これについては多くのものが知っている通りです。また教科書を池に捨て、制服を切り裂いたこともそうです。どの場所においてもあなたの緑色のドレスを着ている人物が目撃されています。」
クイッとメガネの淵を指で押し上げ言い終える。
うざい。
「そうだぜっ、いくらアリスが可愛いからって嫉妬してんじゃねぇよ、このクソ女が!!」
騎士団長の息子、ジェームス。
うざい。
「いくら王子の婚約者だったからって僕のアリスをいじめないでよねー。」
「アリス…………いじめちゃ…………めっ。」
「こいつは俺様のものなんだからな。」
以下取り巻きども。
うざい。
「そして昨日、お前はアリスのことを階段から突き落とした!!俺が受けとめたから良いものの下手すれば大怪我をしていた!!」
「よってお前が王家には相応しくないとみなし俺との婚約を破棄する!!」
うざい。
めまいがする。ふつふつと怒りが身を焼き今すぐ王子を突き飛ばしたい衝動にかられる。ばかじゃないの!!と叫んでやりたくなる。
「王子。先程も言った通り私とアリスさん?は初対面です。会ったこともない人物の悪口を誰がいえるでしょうか。それに「やめてください!!クリスさん、もうそれ以上罪を重ねないで!!」」
先程から王子の腕に包まれている少女がカタカタと震えながら、それでも決心したようにキッと此方を見ながら言う。
「私が悪いんです。クリスさんがいるとわかっていながら王子のことを愛してしまったから…。だからクリスさんが怒るのもしょうがないことです。」
大きな瞳に涙を浮かべながら勇気を振り絞って言ったようにみえる少女を王子はそっと抱きしめる。
「やさしい子だね、アリス。やっぱり俺には君だけだよ。」
「王子…。」
生温い空気が辺りに振り撒かれる。
ぶわっっっっとうぶ毛が逆立ったように感じた。
とんだ茶番劇だ。大体そんなことあり得ないのだ。
婚約破棄だとか緑色のドレスだとか。
「ご存知ないようですが!!」
ピンク色の空気を吹き飛ばすように言う。
もう頃合いだろう。母上のゴーサインもでている。
大根役者の舞台にいつまでも付き合っていられるほど此方も暇ではない。
「俺は男だ!!」
ドレスを脱ぎ捨て勢いよく言い放つ。
しーーーーーーん、と広い部屋を静寂が包む。
「は??」
バカ王子はアホみたいに間抜けなかおをして、彼の取り巻きや事を見守っていたギャラリーまで揃いも揃って口をポカーンと開けている。
今のうちに魔法で男性用の服を着て言う。
「家のしきたりで18になるまでは社交の場ではドレスを着る事になっているんです。昔は色々と絵面的にマズイ人もいたらしいですけど今は魔法でなんとかなりますからね。ということで俺は王子の婚約者でもないしそっちのご令嬢にちょっかいだす理由が1つも無いんですよ。」
「そ、それは、自分より優れた能力を持っている王子に嫉妬して…」
「言っておくけど俺、既に高校程度の学問は既に修めてるから。それに授業には出なくて良いって学園長直々に言われてるから普段王宮で仕事してて入学式とテストのとき以外ここに来たことないから。あと、普段は俺普通に男性用の洋服着てるから緑のドレスとかあり得ないんだよね。」
あー、めんどくさい。そりゃあ王子だって小さい頃は天才って言われて可愛がられてたけどさそれで慢心して勉強も何もしないなら只の一人間だから。隣に立ってるおつむの弱い女の子も多少は可愛らしいけどそれだけだから。学ばない人間は破滅する。そんなことも分からないのかな。
「そ、そんなはずは…。学園に設置しているカメラに確かに貴方の姿は映っているんですよ!!」
「そうだぜっ、適当なこと言ってるんじゃねぇよ。」
「追い込まれたって嘘ついても無駄なんだからねー。」
「みとめ…………て?」
「俺様の言うことが聞けないのか!!」
あぁ、五月蝿いな。
読んで字のごとく虫がプンプン飛び回っているかのような不快感。所詮只の能無しか。王はかなりの遣り手で賢王などと言われているが息子の教育は間違えたようだな。
「その映像を確認したのはどちらのかたですか?証人を用意して魔法が掛けられていないか確認した上でおっしゃって下さい。そちらのご令嬢には魅了の魔法と偽造の魔法の才能が有るらしいですからそれに騙されたんじゃないですか。」
「なっ、バカな!!アリスは治癒の魔法しか使えないはずでは!?」
「ち、違うんです王子。そんなのクリスさんが嘘をついてるに決まってるじゃ…。」
揉め合う声が聞こえるがそんなのもうどうだって良い。
俺は早く家に帰らなければ。
「それでは皆様、ごきげんよう。」
最期に優雅に笑って颯爽と会場を去った俺に黄色い声があげられたようだがいちいち相手にしてなんかいられない。
俺には早く帰って可愛い可愛い妹を可愛がるという崇高な使命があるからな。
ありがとうございました‼