第八話 ~渡る世間は碌でもない~ その三
お久しぶりです!
――――――望月千代女。
甲賀流忍者を構成する【甲賀五十三家】、その筆頭上忍の家柄【甲賀望月氏】の出身。
甲賀望月氏の本家に当たる信濃豪族の望月氏当主であり、史実では【武田信玄】の甥に当たる【望月信頼】(武田信繁の長男)に嫁入りした【くノ一】である。
のち夫が【第四次川中島合戦】で討ち死にし、未亡人となるも彼女が持つくノ一の技能を活かしたいと考えた信玄が、甲斐・信濃の巫女の統帥【甲斐信濃二国巫女頭領】と任じ【歩き巫女】の養成を行うため、信州小県郡祢津村(現長野県東御市祢津)の古御館に【甲斐信濃巫女道】の修練道場を開いた。
戦乱の世で、孤児や捨て子となった少女達数百人(200 - 300人)を集めて呪術や祈祷から忍術、護身術の他、相手が男性だった時の為に色香(性技等)で男を惑わし情報収集する方法などを教え、諸国を往来できるよう巫女としての修行も積ませた。
一人前となった巫女達は全国各地に送りこまれ、彼女達から知り得た情報を集めて信玄に伝えたと言われており、武田家の情報収集に大きな役割を果した。
目の前にいる女の子がそうなんだって(ゲーム機参照)。
…色々とまぁ、どーしょう…(ゲリラ汗)。
確か望月氏って、今信濃で【反武田】を掲げている国人衆一派の中核で、父上にとっては文字通り目の上のたんこぶのような存在だった筈で…。
史実なら主家の【海野家】がお爺様の【武田信虎】と【村上義清】、【諏訪頼重】の連合軍に攻め滅ぼされた上に近隣諸侯からの外圧を受け衰退していた所を、1542年に【真田幸隆】の仲介を経て武田家に服従した筈なのだが、この世界では未だに独立勢力として北信濃において一定の影響力があり他の国人衆(旧海野家家臣団)をまとめている為、統治も調略も上手くは進まないらしい。
昼寝していたら侍女風の女の子がオレを気にかけて起こしてくれたのは嬉しいんだけども、この躑躅ヶ﨑館でそんな風に接してくれる人は一部の人しか居ないんだよね…、これ結構悲しい。
皆父上の目を気にしてるから、本当に事務的な会話しか出来ない…。
こっちから話しかけても良いんだけど、それで父上や他の家臣、侍女たちから裏で睨まれたりしたら申し訳なさすぎて話しかける気も萎えて出来ない。
そんな環境故に、オレに優しさで話しかけてくれる人は初めてこの城に仕えに来てくれた者か、同じく初めてこの城にやってきた余所者であるか、の二択になる。
加えてオレにはこの右手に収まるゲーム機があるから、この人誰だっけ?と思えば直ぐに所属・主義・経歴などを調べる事が出来るし、他人に騙されたり拐かされる心配はない…んだけどなぁ~。
「何故私の事に気付いた?」
自室で今その女の子に小太刀を首に突き付けられてます。
…くの一なのは知ってたけどさ、まさか時代劇で視たことあるこんな状況をオレ自身が体験するとは…、人生って分かんないよね♪って言ってる場合じゃねぇ!!!
死ぬ!マジ死ぬ!!一歩、じゃなくて一言でも選択を間違えたら死ぬ!!!あああ生まれつき病弱で寝たきりだったこの身体が憎い。
確かに筋トレを始めてまだ4か月だけど同い年、若しくは少し年上の女の子に間接を固められたとは言え、上から抑え込まれて身動き出来ないなんて!?
…三郎冷静になれ、まだオレは生きてるっ!考えろ、こっちにはチートゲーム機もあるし未来だって知っている、彼女の存在だって既に入手済みなんだ。
「…一応まだ病み上がりみたいな身体なんだ、手荒な行為は止して欲しいんだが…?」
「黙れ、私の質問以外に言葉を話すな」
首に掛かっている圧力が増しました。
…えええ、間違った!?いや首を切り落とされていないからまだ大丈夫、な筈…。
彼女を観察しろ、目が少し血走ってる、額に若干の汗、小声ながらその声質には焦りが見え隠れしている。
…そうか、彼女も現状の整理が出来ていない…のかもしれない。
なら『ならば彼女らを俺の手駒にしてやる』
※※※※※※
「…海野家の再興だと?」
元服もまだの少年からの突然の話に、私は面を食らった。
いやこの少年は最初から何かが変だった。
私が主家の敵である武田氏の本拠地【躑躅ヶ﨑館】に侍女見習いとして潜入したのは、武田が上田原でもう一つの怨敵【村上義清】を打ち破る1か月前の事である。
侍女見習いとして務めはじめるとまず、先輩の侍女から「離れには近づくな」と言われた。
なんでも、【武田晴信】の病弱な三男がそこで療養しているのだが、その三男は父親に嫌われていて、そんな子供の相手をしていたら家中から睨まれ疎まれるのだとか…。
ついでに少年を邪険に扱っている所為で、正室の【三条の方】との関係もギクシャクしているらしい。
そして少年と離れの世話は、少年の母付きの侍女が行っている。
なんとも信濃で武田と言えば侵略者の代名詞、野獣の如きなどと揶揄され恐れられているのに蓋を開けてみれば家中に問題を抱えているではないか。
そこを少し付けば武田も敵ではないな、と思いその少年と接触を試みてみたものの周りの囲い振りは異様だった。
警護はもちろん、食事、衣服、傅役、教師、少年と関わる全てが一級品なのだ。
甲州透波が影から彼に四六時中張り付いているのだ、それも常時三人かそれ以上の時もある。
食事と衣服は正室付きの侍女たちが一から十まで調べ上げてから少年に与えられている。
毒見用の犬に金魚、襟首、裾、腰巻、褌を丁寧に探り疑わしい場合は一度解いて彼女たちがもう一度改めて針を入れ直していた時もあった。
傅役には武田晴信の直臣で奴の代わりに外交をこなし家中にもある程度の影響力を持つと言われる有力者の【駒井高白斎】。
少年の教師はあの若くして名僧と名高き【快川紹喜】である。
まるでこの少年が武田の次期当主であらんと言っているような、そんな対応だ。
ただ武田晴信に嫌われているが故に家中では誰も気づいていないのかもしれないが…。
まぁそんな事はまだいい、おかしいのはこれからだ。
ある日、珍しく武田晴信が少年の住む離れに腹心の甘利虎泰と二人の護衛(1人は隻眼で妖しい風貌の男、もう一人は八尺三寸の偉丈夫…困惑した顔をしていたが…)を連れて向かっていった。
あとを追ったのだが表も裏もしっかりと人払いをされていた所為で近寄る事も出来ず、離れの中で何があったのかは分からないが離れから出てきた武田晴信の顔はどこか晴れやかだった。
そして武田と村上が上田原で戦い、村上は大敗して信濃での領地を全て捨てて越後へと逃げ去りその代わりに武田が勢力を伸ばしたのだが、私は武田の勝利にはあの少年が関わっているのではないかと思った。
その後少年は離れから母屋へと移され、これまで少年を護っていた者達から引き離された。
普通の病弱の少年なら、誰も味方のいない状況なら身体でなく心の病で倒れてもおかしくないのに少年は平然と生活を続けていた。
私は少年が人の目から避けた時を見計らって接触を試みたのだが、少年は一目で私の正体を見抜いたのだ。
驚きを隠せない私は、少年の誘いに応じて彼の部屋に入ると未だに細い身体を組み伏せ隠し持っていた小太刀を首筋に突き付けたが、少年は顔色を変えず私に一つの提案をしてきたのだ。
我々の主家、今は亡き海野家の再興を…。
「たとえば今ここでオレを殺せば望月氏は武田に滅ぼされるだろう、そしてここで何もせずにいてもお前は殺されるさ、気付かないのかこの部屋を囲む透波の気配を」
そう少年に言われて気付く。…いる、外に五人、屋根裏に三人…。
「分かるか?お前はオレの提案を受けるしかここで生き残る方法はない、まぁ囲んでいる奴らがオレごとお前を消そうと思えばこの提案は無駄になるんだが、どうかな【山本勘助】軍師殿?」
少年が私でなくその向こう側に挑戦的な笑みを浮かべてそう語りかけた。
※※※※※※
某が御館様からご子息の一人、三郎様を見張るよう言われたのは上田原へと赴く前に会見したあの後の事で、御館様は三郎様をとても危険視されていたが、今この時その意味が理解できた。
あの時の三郎様は聡明さは見えるものの、まだ成熟していない子供らしさがあったように見えた。
「どうした?この提案をお前と望月家が出した事にしてやれば、あの父上も無碍にはしないだろう」
だがこの不敵な笑みは、この提案は、…御年6歳の子息が出来るものではない。
「何故に某が此処にやって来ると気付かれたのですか?」
化け物は不敵な笑みを消して、少し考えるような仕草を見せた。
「ここでそれを聞くのか、いや流石は父上の軍配者と言うべきか…」
まぁいい、そう呟くとまたあの不敵な笑みを浮かべた。
「簡単な事だろう、此処の所父上は信濃の領国統治が思った以上にきな臭い所為で何かと忙しくされておられるようだし、本来の監視役の高白斎も同様にオレよりも仕事が忙しいみたいだしな、じゃあ誰がオレを監視するのかというと外で見ている彼らの親玉のお前くらいだろ?」
と言い切ってみせた。
「越後へ逃げた村上義清の蠢動、関東管領上州の上杉憲政と信濃国主を謳う小笠原長時が仲良し小好し、おまけに旧海野・諏訪家の家臣団までもがこそこそと、…大変だなぁ~(笑)」
話しながら化け物の口端がどんどんと吊り上っていく。
「さてここで質問です、この窮地を覆し遂せる策を、嫌われてるオレが…って伝えられる相手が居ない訳だし、さっきも言った様に高白斎は領地内を右往左往してるから根回しが出来ないし、何よりもアイツはこう言った策に対して疎いだろう?だから…」
「だから、某と?」
お前も骨子くらいは考えていたんだろう?と化け物が愉快そうに笑っていた。
※※※※※※
目を覚ますと真っ黒な世界が広がっていた。
何だここ?周囲を見回しても真っ黒、何も見えない、自分の身体以外。
なんか視界がとか身体の感覚が可笑しい…、あれ?この身体は転生?する前の身体だ。
『どうした芳輝?間抜けな顔を晒して』
「いや久しぶりの身体に戸惑ってまs…って三郎だ!マジチョーイケメンじゃねぇ!?」
『おいおい、驚く所それかよ(笑)』
目の前に三郎が現れた。
ゲームで作ったグラフィック顔とはいえ、まさかここまでイケメンになるとは!!!これは【顔】というより【貌】って感じだな。
―…待てよ、オレもあの貌を持っている訳だよな…―
オレやっぱイケメンになれてた!やったぜ!なら早くここから…。
「って此処は、何処だぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
『お前情緒不安定すぎじゃね?(笑)』
ようやく更新出来ました(笑)
ブックマーク並びにお気に入り登録、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。【心よりの定型文から引用】
次回は突如現れたあの三郎くんについて、と備中殿の弓術教室です。
…いい加減次の章に移れるようにしないとなぁ~~~。