第三話
難産でした。ほんと難産でしたー。
GWとか…リア儒。
「三郎様、快川和尚がいらっしゃいました」
障子越しの近侍の声に、オレは深く深呼吸をしてから居住まいを直す。
「構わん、お通ししろ」
沈黙した空気を切り裂くように声を出す。
転生してからこれまで猫なで声でしか喋っていなかったので、自分がこういった声も出せる事に少し驚いたりもする。
一瞬近侍に戸惑いを感じたが、彼はオレの声に応えるように障子戸を開く。
開かれた障子戸の向こうに、細身ながら黒い僧衣を見事に着こなした年若く眉目秀麗な僧侶がいた。
「どうぞ、中へ」
「ありがとう、失礼します」
彼は近侍に礼を言うと、オレに動じる事なく部屋の中に入った。
【快川紹喜】(かいせんしょうき)。
戦国時代、美濃国の生まれの臨済宗の僧。
俗称は土岐氏、妙心寺の仁岫宗寿の法を継いだ。
美濃国の寺院を経て妙心寺の43世に就任し、美濃の崇福寺住職となる。
1564年には甲斐国の武田信玄に招かれて恵林寺に入寺し、武田氏と美濃斎藤氏との外交僧も務めるなど多才を見せ、そして父上の法名に【機山】の号を授けたりもしている。
しかしその終末は、織田家の武田家残党狩りにあっていた者を寺に匿って、引き渡しを断って寺のある山ごと織田家に燃やされ焼死した。
その時「心頭滅却すれば火もまた涼し」という辞世の句を詠んだとの事だ、最近じゃあ、それ人のネター!とか言われてるらしいけど…。
オレがゲーム内で知る彼は、確かにイケメンだったが口元に髭が生えていた。
そして彼はゲームのシステム上、寺から出てくる事はなかった。
その彼が今、オレの目の前にいる。
逸る心を抑えて目の前の人物を対峙する。
ここだ、ここでしくじればオレはもう、父上が死ぬまでは外の土も空も見て知る事も出来なくなる。
※※※※※※
「ようこそ、この度は不躾なお呼び立てしました事をお詫び申し上げます」
オレは部屋に快川紹喜を招き入れるとまず深々と頭を下げて、礼をした。
「お招き頂き有難く思います」
彼もオレと同じように頭を下げて礼をする。
こうしてお互い面と向かって座り合ったけれど、話題が無い。
オレの妙案は「彼に会ってこの現状をどうにかしよう」というモノで、逢えれば何とかなるかもという具体的な内容は何一つない行き当たりばったり作戦だったのだ。
だって自分元々のスペックが少し歴史好きのただの高校2年生に何が出来るか。
こんな危機的状況じゃあそれ以上は何も思い付きませんでした。
今更自分で突っ込むのもなんだけど、ノーセーフティバンジー感がスゴくする…。
どうしたもんかなーハハハ…と、背汗で着物がビッショリとしながらどーしたもんかと黙っていると向こうが口を開いた。
しかし、何か何か話さないと、と思えば思うほど何も思いつかず頭は真っ白、ただただ時間が過ぎていく。
「…若君から御呼びを受け、一体何事かと思っていたのですが、私は見つめられているだけの為に呼び出されたのですか?」
空白の数分後、ついに口を開いた彼の声には険があった。
やばい、なんとかしないと…。
「御用が済んだのなら帰らせて頂きもらいましょう」
そう言った彼は顔に落胆の色を浮かべて立ち上がろうとした。
何か何かないか、ーーー真っ白なオレの頭はある1人の事を思い出した。
「…駒井昌頼という武士がいます」
声を震わせないように、しかしながら堅くなり過ぎないように、芯を持った声で話し掛ける。
「存じています」
そう応えた彼はオレを値踏みするように、冷たい視線で見つめる。
その視線はとても怖かったけど、オレはこんな所で囲われて生きていくのは嫌なのだ、と心を叱咤しながら彼の視線を正面から受け止めて言葉を続けた。
「彼の者は、先日父上が病の淵から快復した私を疑った際に、私を父上から庇い立てし、自宅にて謹慎を命じられています」
和尚は、無言のままこちらを見つめてオレの話を促す。
「しかし彼の者をこのまま謹慎させておくのは、武田家の損失です」
「では、それを私からご当主に取り成せと?」
「はい、駒井昌頼は有能な士です」
「……………ふむ」
立ったままオレを見下ろしていた和尚は、少しだけ好意的な表情を見せて肯いた。
「まだまだですが、いいでしょう」
と言った彼は再びオレの前に座った。
彼の言葉に不思議に思っていると、和尚は穏やかな表情を浮かべてオレに声を掛けた。
「ご当主より貴方の見極めを頼まれましてね」
と言った彼はどこかおどけた風にほほ笑みを浮かべていた。
※※※※※※
あの後、和尚から事のあらましを聞いた。
なんでも今回の会談は父上と母上が色々と裏で動いていたらしい。
どちらからも付け届けが「何卒宜しく」という言付と共に届けられたのだと。
………何卒ってなんぞや?
父上からはオレの正体を見極めて欲しいとのこと…。
母上からはオレが三郎であることの証明をして欲しいとのこと…。
そしてそれを知ったそれぞれがそれぞれに牽制しあって、かなり険悪な夫婦関係になってしまっているのだとか…。
2人の夫婦仲が悪くなるのは史実通りだが、まず時間的に早過ぎるし、オレの所為で家庭崩壊とかそれは困る。
そんな責任背負いきれんし、このままだといずれにしても武田家が滅びる。
そこでオレは和尚にそれぞれのフォローを頼んでみたら、彼はその端正な顔に意地の悪い笑みを浮かべて「これで貸し2つだ」と言った。
こんなか弱い美少年にと、横暴だと訴えたのだが彼から甘えるなと言われた。
「君はこれから戦国の世を生きるのだ。横暴だ等と言うのであれば、他人に貸しを作る隙を与えないようにする事だな、か弱い少年」
彼は冷徹な顔でそう言って、オレの言葉を一蹴してくれました。
※※※※※※
…誰だ、あんな意地の悪い男を名僧と言った奴は。勝ち誇ったあの顔を思い出すだけで腹が立つ。
とまぁそんな流れで会談はお開きとなったが、武田家でのオレの立場は幾分かマシになった。
一重に和尚がオレの事を取り成してくれたからだろう。
未だに監視の目は在るものの屋根裏からの監視はなくなり、オレへの目通りも許可される事となった。
そして今日オレを訊ねてきたのは3人。
まず1人目は悪僧快川紹喜だ。
また意地の悪い笑みを端正な顔に張り付けている。
その顔はオレ仕様ですか?
2人目は、意地の悪い男に父上への取り成しを頼んだ【駒井昌頼】。
彼は史実には存在するものの、オレが知るゲーム内には存在しない武将であり、つまり彼はオレが登録した武将である。
武田家譜代家老衆の1人で、祖父の武田信虎・父晴信の武田家用務日誌を基に成立したとされる『高白斎記(甲陽日記)』原本の作者と考えられている人物。
また彼は父上の直臣で、その役割は父上側から家臣団への上位通達、家臣側から申請報告を行う取次立場にあり、偏諱授与や家臣団や国衆、他国への贈答品の仲介など多方面において活動が見られ、内政面では諸役免許や知行宛行、所領安堵などの各種文書発給を行っているほか、天文16年(1547年)5月30日には武田領国における分国法である甲州法度次第の起草を行い、信玄に提出したという。このような内外両面における多様な活動は武田家中においても特例であり、その政治的立場の高さが見れる。
彼の顔はオレが登録した通りの渋めのおっさん顔だが、頭の方は綺麗サッパリと丸めてあり、名前も【駒井高白斎】と改めていた。
なんでも和尚から取り成しの代わりに出家を勧められたので剃髪して出家し、躑躅ヶ崎館に参上し謝罪したら謹慎を解かれ赦されたのだそうだ、詳しい事は割愛する…皆濁して話すからわかんね―んだよ(泣)。
オレに取り成して欲しいと言われた事を、和尚が彼に伝えた為に本日訪問して感謝しにきてくれたのだ。
あと和尚と高白斎とが、オレの守役に就任したとか…。
これからたびたびオレの聖域にやってきては、政経・文歴・礼算などなどの勉強とか武芸の鍛錬を教えに来るんだって。
じゃあこれからよろしく、そう流してオレは最後に控えている人に視線を向けると、高白斎から紹介を受ける。
彼の名前は、【吹武 清虎】(ふきたけ きよとら)という。
先に言っておくと、彼はゲーム内も史実にも存在しない、オレが登録したオリジナルの武将である。
甲斐国の国人であり、1540年祖父信虎に仕官し信濃国の今井信元の浦城攻めに参加し活躍、その功があって信虎から名前に【虎】の一文字を与えられ清虎と称するようになった。
その後も信虎に目を掛けられ祖父と共に駿河へ赴いた所為で、父上の甲斐追放に遇い一度武田家を出奔する羽目になるが、駒井高白斎の取り成しで彼の陪臣として武田家に仕える事となる。
高白斎が紹介した彼の経歴は、全てオレがこの世界に来る前に作ったテキスト通りである。
その彼が今この場に居る理由は、高白斎が謹慎している間にその噂を聞いた彼から訪問を受け、会って話をしている内に意気投合しなんだかんだで、彼を陪臣として迎え入れる事にしたのだとか。
※アバウトな濁し方はご愛嬌、今は打つのが面倒なので詳しくは外伝とかにでも…書ければね(笑)
とまぁこんな感じで、オレの監禁生活から軟禁生活へと少し改善される事になったのである。
Q次回はいつになる事でしょうか?
A知るか、分かるか、カケタラネ




