第二話
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2014/04/22 内容を少し改編しました。
甲斐国の戦国大名【甲斐の虎】【武田信玄】の三男の【武田信之】として転生?憑依?したオレは、目覚めてから半月の間はなるべく事が大きくならないようにひっそりと過ごした。
自分がいるこの世界が自分が17年暮らしてきた世界とは違う異世界なのだと理解し納得するには、必要な時間でもあった。
転生してから4、5日は元の世界と家族、友人が恋しくて夜泣きをしていた所を何度も母親の【三条の方】に添い寝をして貰って、オレは胸に抱かれる事で彼女を“信之の母親”から自分の母親という認識を得る事が出来た。
それからは、三条の方から至れり尽くせりな感じに甘やかされながら。
「おはよう」から「お休み」まで、まるで生まれたての幼児か寝たきりの要介護者、或いは囚人の如く付きまとわれるという形で。
見目麗しい顔立ちに6歳という年齢に相応しい幼児体型、目覚める前に一旦死んでしまったし、夜泣きもしていたから仕方ないモノなのかもしれないが…。
本当は交易をして資金を集めたり、家臣団を形成したり、様々な人物と交友を持ったりと色々動き回りたいんだけど。
――――――本気で何も出来ない。
何たって、歴ヲタであるオレからして「躑躅ヶ崎館パネェェーッ!!!」とあちこち見て妄想して興奮して叫んで悦に浸ろうと、部屋から脱出を試みる前にその企みは失敗に終わる。
目の前は三条の方、周りはそのお付きの侍女の方々、そして部屋の外と屋根裏から、父親である晴信からのだろう監視も受けている気配を感じる。
部屋の外と屋根裏からの監視は鋭くも気配を消そうとしたような雰囲気は多分忍、この甲斐国だと甲州透波かな、気配からしてかなり警戒されているようだし。
多分三条の方が居てくれるから、一応遠巻きからの監視で済んでいるのだろうな…。
三条の方もそれを見越して傍に居てくれているのかもしれないし、戦国時代って怖いんだなぁ…としみじみ感じていた。
せっかく戦国時代に、それもあの戦国最強と言われた武田家の一員として転生したっていうのに、三条の方以外誰にも会えないし、誰も訪ねて来てくれないし…。
ゲーム機のお蔭で色々な情報を知りえているし、技能もスキルだってあるというのに、これでは宝の持ち腐れにも程がある。
隠密のスキルがあるから三条の方や侍女、透波の監視からだって逃れることは出来るんだけど、そんな事したらあっという間に排除される。
困った困ったと部屋でぐうたら寝ころびながら悶々と考え、三条の方(もう打つの面倒だから以後母上と呼びます)から貰ったおかきをポリポリと食べて、1つの妙案を思いついて母上が部屋に来るのを待った。
※※※※※※
「母上、お願いがあるのです」
ある日の朝、部屋にやってきた母上に抱きついて上目使いで話し掛ける。
もちろん目をキラキラと輝かせる事を忘れない。
「あらあら三郎、どうしたのですか?」
母上は少し顔を赤らめながらも嬉しそうに笑って、抱き付いたオレを受け止めてくれた、女の人って柔らかないな~、少年バンザイ。
「私はお会いしたい人がいるのです」
このオレの言葉を母上の顔がほんの一時だけ凍りつき、即座にそれを隠すように朗らかに笑顔を見せた。
「それは一体どなたかしら?」
と笑顔で問いかけてきたが母上の目も声音も笑ってなどなく、冷静に周囲を警戒するモノだった。
つまり母上も父上(こっちも面倒になったのでそう総称します)からオレに監視が付けられている事に気がついている、か…。
オレのいる場所は動物園の見世物以下という訳だね。
それでも戦国時代ってやっぱ怖いわー、こんな女性でもそういう危機管理能力が高くないといけないんだから。
ゲームじゃ、主人公の嫁さんは主人公が忍に襲われても叫び声もあげずに消えて、忍を撃退したら平然と笑顔で出て来られるくらいだからな…。
監視からの視線が強まるのを感じる。
あれだけぐうたらしてたのにまだ一挙手一投足を監視されているとは…、父上も透波もご苦労なことだ。
「はい、甲府の町に居られる恵林寺の僧侶【快川紹喜】(かいせんしょうき)和尚です!」
※※※※※※
快川紹喜に会いたいというオレの願いは、予想よりも簡単に叶う事になった。
正直拍子抜けした、というのがオレが受けた印象だった。
どうしてか、そう母上に訊ねても彼女の方でも分からないらしい。
ともあれ、漸くオレの監禁生活からも解放かと思いきや、そうは問屋が卸してはくれなかった訳で…。
オレと和尚との会談場所は、今オレがぐうたらして監禁されているこの部屋なのだ。
日時は、今日この時。
史実では本来かの名僧である快川紹喜はこの時まだ甲斐国にも甲府の恵林寺にも居はしないのだが、さすがはゲーム世界である。
すでに彼は甲府の町に居る上、近隣諸国にも名を馳せる名僧なのだ。
もちろんこの情報はすべて影が薄くながらも動き続けている【ゲーム機】からである。
そんな有名人に会うお蔭か、今日は母上も侍女も居ないし屋根裏にも透波は居ない。
その分、周囲に超厳重な警備を布かれているのだが。
いつもの3倍?くらいかな…、父上頑張りすぎだよー。
嬉しいには嬉しいのだが、本当に誰も居ない所為かめっちゃ寂しい。
その上本日は正装の為、片っ苦しい事この上ないし。
とかなんとか思いながらソワソワしていると、近侍だと思われる人影が障子の向こうから彼の到着を告げる。
一度深く息を吸い込み、フッと吐き出して意識を切り替える。
ここから、ここから、オレの戦国時代は幕を開ける。
ストックがないので次回更新は未定です。