第一話
始まりましたー。
※2014/4/18、一カ月→半月に変更しました。
「―――ん、………?」
目が覚めうっすらと瞼を上げると、何故か見知らぬ人達に囲い込まれていた。
そして皆さん、口々に嘆き悲しんでうなだれているようだった。
何、この状況、マジ意味不明。
ふと気付く。背中に床の、布団らしき感触を受けて…どうやら自分は布団に寝かされているようだなと。
不可解過ぎる状況に目を瞬かせていると、うなだれていた1人と目が合った。
「な!?さ、さ、三郎さまッ―――!!!」
その人は、オレと目を合わせると突然信じられないモノを見たかのように目を見開かせて、大声で誰かの名前を叫んだ。
そんな彼の行動に誰もが驚き、頬に流れる涙を拭いながら何事かと彼を見てから、オレを見た。
―――その後、その場にいた殆どの人が先の彼のように、大声を出して「三郎」と言う名前を叫んだり、驚きおののいて腰を抜かしたり、両の手を必死に摺り合わせて念仏を唱えたりと、大騒ぎになった。
※※※※※※
オレの名前は、西條芳輝。
つい半月前まで歴史好きの、ただの高校生二年生だった。
だったのだ、そう、つい一カ月前まではね…。
半月前の夜、近代的な柔らかなベッドの上であらゆる設定をし尽くしていざゲームスタートだ!と意気込んだのに、何故かゲーム機片手に寝落ち。
気が付けば、中世的な畳に敷かれた薄手の布団の中、場所は甲斐国(現在の山梨県)武田家の根拠地である躑躅ヶ崎館の一室。
オレは、戦国時代に近隣諸国から【甲斐の虎】を恐れられた【武田信玄】と、京の名門で左大臣【三条公頼】の次女【三条の方】との第三子で史実では夭折(※幼くして亡くなる事)した、【武田西保三郎信之】として目を覚ましたのだった。
※※※※※※
それにしても、あの時は大変だった。
その場にいた知らない大人達が、どいつもこいつも大慌てで騒ぎだし…。
目を覚まして状況が理解できず布団から起き上がれば、オレの一番近くにいた美人な女性(この人が母親の三条の方)が号泣しながら抱きついてくるし、家臣達は腰を抜かしたり念仏を唱えたりしてうろたえ、その場に居合わせた医者はオレの脈を何度も取りながら訝しんでいた。
そしてその場で一悶着があった。
狼狽する大人達の中で、黄泉がえり?を果たしたオレを鋭い眼差しで睨み付けてくる人がいた。
その人物は、何も分からず戸惑うオレを見据えながらも腰に差した一振りの太刀を何の躊躇いもなく引き抜いた。
「問おう、おことは何者だ」
その男性は、オレの眉間に切っ先を突き付けながら厳かにそう問い掛けてきたのだ。
突然の連続に戸惑い声が出ないオレと、同じく突然の行動に戸惑う家臣達の中、オレに抱き付いていた三条の方が声を張り上げて反論した。
「剣をお下げください!私達の嘆きを聴いて、三郎が、三郎が今和の際から還ってきてくれたのですよッ!?」
どうして刀を抜く必要がなるのか、と問う三条の方に、男性は動ずる事なく応えた。
「退くのだ、三郎は今し方死んだのだ。にもかかわらず今この場で目を覚めすなどあり得ん。大方我らの悲しみに漬け込もうとした物の怪か化生の類いであろう!」
さぁ、姿を顕せ!と力強く問い詰められるが、声が出せないオレは、身体を抱き締めてその男性から護ろうとしてくれている三条の方に抱き付いて身を竦ませた。
そんな親子の姿に、1人の家臣が男性を止めた。
「お館様!然らば御免!!」
「―――むッ!?離せ、離さぬか昌頼!」
お館様と呼ばれた男性を、昌頼と言う男性が後ろから羽交い締めをして取り押さえたのだ。
「何をしておるか!お前達も早よう、お館様を抑えぬか!」
昌頼の呼び掛けに、正気を取り戻した家臣達がそのまま男性を引き摺ってその場を離れていった。
何とか助かったオレは、とっさに抱き付いていた三条の方から身体を離そうとしたが、彼女は離させてはくれなかった。
彼女がオレに縋り付いて、良かった三郎、良かった…とまた涙を流しながら小さくそう何度も何度も呟いていた。
とそんなこんなでその日を生き残ったオレだが、問題は山積していた。
此処が何処で、今は何時で、彼らは何者だったのか、己が何者なのか、とよくある異世界モノの漫画とかだと子供のフリをして色々と情報収集に励む所なのだが、オレは運良くそれをしなくて済んだ。
その理由は、オレが寝落ちする寸前に手に持っていた携帯ゲーム機があったからだ。
電源ボタンがなく、消すことが出来ず常時点きっぱなしのこのゲーム機、手にした感覚は使い慣れたあのゲーム機であり、操作方法も同じ、慣れた手付きで主人公のデータを選んで閲覧する。
其処には、なかなかにイケメンな少年(6歳)の【武田三郎】、所在地は【躑躅ヶ崎館】、所属は【武田晴信】、西暦1548年1月1日と記載されていた。
能力値も確認する。
あの夜セッティングした通りオール100の超人であり、ゲーム世界内に存在する全てのスキルを網羅してあった。
1つの憶測が頭を過ぎる。
オレはそれを否定するために、他のデータも閲覧していく。
しかし、どのデータを閲覧してもそれを否定する事は出来ず、寧ろその憶測、事実を決定的にしていく。
そうオレは、今オレが居るこの世界は、あの夜にセッティングしていたゲーム世界へとトリップしてしまったのだ。
己が作り出した、この【武田西保三郎信之】として。
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誤字脱字・苦情、お好きに~。
酷いものはスルーしますがね(笑)