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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第1部 東京編  第1章 発端
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1月20日(金) 〜その弐〜

 午前中は仕事が全く手に付かなかった。本当はどうにかして、溜まりにたまった仕事をさばかないといけないのだが、このような状態で仕事に集中しろと言う方がどうかしている。そこで営業一課に関する仕事を全て水戸あおいに押し付けることにした。


 ただ、紫が直接押し付けると、醜い仕返しにしかならないので陽美に一枚かんでもらう。紫は陽美がトイレに行くのを見計らって、一緒について行った。トイレに行く途中、陽美に話したところ、陽美はすっかり乗り気である。それどころか、


「ついでに私のも一緒に押し付けてやろう!」


と言う始末である。まあ、会社に残る人にはせいぜい頑張ってもらおう。


 トイレから戻ると大泉班長がいなくなっていた。どうやら、面接中らしい。まず、紫の営業一課に関する仕事をこっそりと陽美に託した。それから、陽美が大泉に対して、


「急ぎの仕事を営業一課の武下さんから頼まれたのですが、私は今、他の仕事に手が一杯でさばけそうにありません」


と言うのだ。そう言うと、班長は必ずと言っていいほど、


「それなら、水戸君に任せなさい。水戸君は昨日も急ぎの仕事をうまくさばいていたし、任せても大丈夫だろう。な、水戸君」


の様なことを言う。それを言われたら、水戸あおいはこれがでっち上げだと分かっていても、仕事を口実に武下定秋と会うことができるので断ることができない。ここで班長を経由させることがポイントである。


 昔、紫もこの手でよく仕事を押し付けられたものである。かつて、大泉班長には


「これで仕事を多く抱えている人が楽になるし、社内恋愛している連中は相手に会う口実ができるから、お互い様だろう」


なんて言われていた。その時、紫は少しムカッと来たが、今となってはむしろありがたい話である。班長の中で一番若い大泉が面談から戻って来た。大泉が落ち着いたところで、例の作戦は実行された。作戦は思いの他、うまくいった。班長から言われた通り、水戸あおいに仕事を押し付けると、陽美はニヤニヤしながら戻って来る。紫はそれに目配せで応える。


 その後、すぐに水戸あおいは席を外した。武下定秋の所に確認へ行ったのだろう。ただ、彼もなかなかしたたかで、そう言う時は


「君の所へ行くつもりだったけど、行く途中で○○さんとばったり会ったので、そのまま渡してしまったんだよ。さすがに仕事中、手ぶらで君の所へは行けないだろう…」


などと言って切り返すのだ。紫もかつてはうまくだまされていたほどだ。どうやら、エスペランサ出版には昔から課をまたいで、そのような悪しき伝統があって、うまいこと若手に仕事を押し付ける体制があるようだ。紫がそのことに気付いたのは三十を過ぎてからだった。その頃になると、後輩もそれなりに増えて、押し付けられる側から押し付ける側に変化するからだろう。

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