3月8日(水) ☎3☎
「それだけじゃない。水戸、あんたは昔、私が付き合っていた彼氏にもちょっかい出した事があったね…。まあ、そのおかげで今の結婚相手と出会えた訳だから、何とも言えないけどね…」
「えっ、何それ? 私、初めて聞いたんだけど…」
紫は陽美から聞かされた衝撃の事実にただ驚く…。武下定秋だけでなく、陽美が昔付き合っていた相手にも手を出していたとは…。
もちろん、それだけでなく、他の女性社員も同じような被害にあっている。紫は悪い噂だと思っていたが、どうやら全て事実らしい。
「久留米さんには、この前も話したと思いますが、それについては私だけが責められるのはおかしいと思います。恋愛は一人でできるものではなく、相手がいて初めてできるものですよ。久留米さんの言い方だと、私が一方的にたぶらかしたように聞こえます。確かに私も悪いと思いますけど、誘惑に乗ってきた方も悪いと思います。それと付き合っている男性に隙を作った女性にも非があるのではないでしょうか?」
水戸あおいは何を言っているんだ? そんな主張が曲がり通ったら、この世の浮気は全て正当化されるし、捨てられた方が悪いということになる。そんな馬鹿な話があってたまるものか!
「まだ、そんなことを言い張るわけ? 紫と武下定秋の仲を引き裂いた上、自分だけ昔の彼氏とよりを戻して結婚していいと思っているの?
その結果、武下はポイ捨てされ、武下は紫にストーカーするようになったんだよ。それでも、そんなことを言うのね。何も昔と変わってないね。私から奪った男とよりを戻して、結婚をしても、二人とも幸せになれる訳無いじゃない!」
水戸あおいの結婚相手はかつての陽美の恋人だって? もう、何が何だか訳が分からないし、紫は完全にかやの外であった。
そんな紫におかまいなく、二人で勝手に言い争っている。二人が口ゲンカをするのは勝手だが、紫をケンカのだしに使うのは止めて欲しいものである。結局、どちらも勝手に代理戦争をやっているだけである。当事者にとって、これほど迷惑なものはない。
「もう、止めてよ! 二人とも私を利用して、勝手にケンカしているだけなんでしょう?」
「違うよ、紫…。私は紫のためを思って…」
「もう、いいって…。水戸あおいは、どうせ陽美から奪った浮気男と結婚するんでしょう。ぴったりじゃないの。陽美も結婚してから幸せになるんでしょう。もう、私の事なんか、放っておいてよ。私、帰るから…」
なぜか分からないけど、紫は切れた。本当はこんなつもり全くなかった。ただ、陽美と水戸あおいがあまりにも勝手な言い争いをするので、だんだん腹が立ってきたのだ。
自分たちは高い所から見下ろしながら、同情しているふりをして楽しんでいるだけ…。偽善ほど醜くて憎たらしいものはない。




