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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第1部 東京編  第1章 発端
8/150

1月20日(金) 〜その壱〜

 金曜日の朝、紫は久々に気持ちよく目覚めることができた。前日、定時で退社して、さっさと帰って、たっぷり寝たのがよかったらしい。新しく自転車も買ったので、いつも通りに目覚めても十分余裕がある。いつも通りに朝の支度をしてから、七時過ぎには家を出る。駅には七時半に着く。それから自転車の鍵を二つかけて、しっかりと二重ロックした。もう、自転車を盗ませるようなマネはさせないぞと紫は固く心に誓った。


 失恋に、リストラと、大きな不幸が二つも続いたと言うのに、紫の心は妙に落ち着いていた。むしろ、腹が座ったとでも言うべきだろう。しかし、電車から見える景色が時々モノクロに見える。昔の白黒テレビのように全ての物から色が奪われた不思議な感覚である。紫はあまりのショックに目までおかしくなったのかとただ驚く。もう、どうでもなれと、焼けくそ気分になる。


 こうなったら、これまで築き上げた物を全て壊してやる。そして、新しく生まれ変わってやれとさえ思える。何が「自然の美に勝る物はない」だ。大嘘つきである。どんなに紫がそう思おうとも、世の男どもは外見でしか女性を判断しないではないか…。だから、武下定秋はレーシック整形美人の水戸あおいを選んだ。やってやろうじゃないか、レーシック…。


 もう、目にメスを入れられるのが怖いなんて言っていられない。陽美だって、レーシックをやってから、以前にも増して明るくなったし、生活が変わったと言っていた。紫は、次は自分の番だと思った。失恋とリストラが彼女を変えたと言っても過言ではない。


 八時前に会社に着くと、既に『人事課および総務課の組織改編についてのお知らせ』と書かれた張り紙が総務課前の掲示板に張り出されていた。そこには大泉班長から聞かされたことが書いてあった。それと四月からの大幅な組織改編に伴い、本日中に総務課の全職員が課長との個人面談をする旨が書かれていた。


 いつもなら、個人面談は一班の班長から名簿順に行われるのだが、今回に限っては、各班の班長から行われ、その後は班に関係なく年齢順である。一人当たり十分で行われ、午前中に七人、昼から八人行う予定らしい。予定時刻の五分前には小会議室へ向かうように書かれていた。どうやら、九時半から二班の上床班長から行われるらしい。紫は午前中最後の十一時三〇分からの予定である。まあ、リストラ・出向組をさっさと終わらせたいのだろう。気持ちは分かるが、あまりにも露骨すぎて腹が立つ。


 八時十五分の始業時間に合わせて、大芝課長から


「張り紙に書いてある通り、本日、全員に個人面談を行うので、時間になったら必ず小会議室へ向かうように!」


と、説明があった。もちろん、大きな組織改編に伴い、不本意なリストラや出向をお願いすることになる方々には大変申し訳なく思うなんて釈明があったが白々しい。


 それから、張り紙を見ていない物はこの後すぐに張り紙を見て、自分の面接時間を確認することと言っていたが、ドアぐらいの大きさの張り紙を見落とす人なんているのか?


 最後に午前中の面接に限って、沢木人事部長が同席されることが告げられた。これにはリストラ・出向組全員が驚いた。全てを伝え終わると、ようやく大芝課長は席に着いた。わずか五分ほどであったが、とても長く感じられた。

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