2月14日(火) £3
「ねえ、紫、見てよ。ほうれい線が気になってさ…。ほっぺに金の糸を入れたのよ。ほら、いいでしょう? このはりのあるほっぺ…」
「陽美は今でも十分きれいだと思うけどな…。で、あなたの相方さんは何て言ってるの?」
昼休み、社員食堂で久々に陽美と二人で食べる。このところ、総務一班みんなで外の定食屋に行ったり、陽美が結婚相手とランチデートしたりしていたため、二人で食べる機会が無かったのである。
「もちろん、このままでも十分きれいだと言ってくれるよ。でも、もっときれいになるために手を加えたいなら、お前の好きなようにすればいいって…。外見がどうなろうとも、陽美は陽美だからって言ってくれる。私、敬吾を結婚相手に選んで本当によかった」
思わず、言葉を失う。こちらはプチ整形とそれを容認する彼氏に心の拠り所を求めているようである。紫には理解しがたい世界だ。ただ、何かに寄り付くことで自信を取り戻したり、心の安らぎを感じたりできるのであれば、それでいいのではないかとも思う。
紫自身、今までずっと武下定秋を心の拠り所にしてきた。本当は新たな心の拠り所を見つけないといけないのに、未だに見つけられずにいる。
物と違って、人はお互いに意思を持っている。どんなに片方が強く想っていても、もう片方の関心が無ければ意味がない。お互いが想い合ってこそ、人と人が心の拠り所となる。そう言った意味ではどんな形であれ、物に心の拠り所を見いだすことは、人に依存するよりもはるかに簡単に違いない。
分かってはいるけど、紫は全く身動きがとれずにいた。無駄に悩んだり、迷ったりすること無く、さっさと割り切ることができればいいのに…。もし、それができるのであれば、写経だって、整形だって、何だってやるよ。結局、おはらいもワンピースも気休めに過ぎない。
紫は帰りの電車に揺られながら、ぼんやりと思いを巡らせる。




