1月20日(金) 〜その参〜
そうこうしているうちに、陽美の面接の時間がやって来て、陽美は総務課室から消えて行った。陽美の次は紫である。紫はここに来て、さすがに緊張して来た。ところが、陽美が出てすぐにドアが開いた。陽美がもう戻って来たのかと思ったら、水戸あおいが戻って来た。
「仕事の確認のため、営業一課に行っておりました。すぐに仕事に戻ります」
と、ニヤニヤにしながら戻って来たので、総務の連中から軽くひんしゅくを買った。紫はあの立場のときは全く気付かなかったけど、傍から見ると、相当痛いことに今更ながら気付かされた。人のふり見て我がふり直せと言われても、もうふり直せないけど、次の恋愛には必ず生かそうと密かに誓う。
そんなことを考えているうちに、陽美が戻って来たので、紫は小会議室へと向かった。
「失礼します」
紫はおそるおそる小会議室に入った。そこには沢木人事部長と大芝課長がいた。いなければいいのにと思ったけど、いなければいないでそれもまた困る。
「まあ、硬くならずに、そこに座ってください。いつものように気楽に話して頂いて結構ですから…」
課長に言われるがまま、紫は少し遠慮がちにパイプいすに座る。ホワイトボードを背にして座る部長と課長…。課長とはいつも総務課室で会うから、それほど緊張しない。だが、部長とは滅多に会わないから、部長を前にするとさすがに緊張する。
「いつも、業務ご苦労様です。皆さんのおかげで我が社は成り立っていると思います。ただ、長引く出版不況の中、現体制のままでは、我が社はいつか潰れてしまうかもしれません。そこで、現在の企画、制作、編集、営業、人事の五部二二課二五〇人体制を、出版、営業、人事の三部十三課一五〇人体制とすることになりました。まず、全ての部署に先駆けて、人事部から体制変更を行うことになったのです。そこで、大変申し訳ないのですが、桜田さんには残念ながら、出向か退社をお願いしなければなりません…」
私が座るや否や、部長が話し始めた。それは朝、課長が総務課の皆に話したこととほとんど同じである。ただし、次に行った言葉に紫は驚かされた。
「私どもとしましては、桜田さんがリストラ組の中で一番若いと言うこともありまして、桜田さんが希望されるなら、優先的に出向して頂きたいと思っております。そして、我が社の業績が再びよくなった際には戻って来てほしいと考えております」
「まあ、総務課は他の課と違って女性が多いので、どうしても他の課よりも平均年齢が若くなります。そうすると、他の課では残れる年齢でもリストラの対象に入ってしまう。それだと不公平だと言うことを部長は仰っておられるのですよ」




