夜行 その2
濃密な闇に紛れて、硬質な気配が周辺を包んでいた。
「呼び出しに応じるとは珍しいこともあるものだな、シェリル」ビルの屋上で、彼女より一段高いところに居座り男は見下ろすようにして、そう言う。髪に白いものが混じり始めた壮年の男は、そこまで生き延びたという事実が男の実力を現していた。
「やれやれやっかいな男に引っかかったモンだ…」金の髪に手を入れ、頭を掻きつつそう言う。
「減らず口は相変わらずだな、では、始めるとしようか」
「まぁ、待てよ、私は争いなんて望んじゃいないんだ、見逃してはくれないか?」たぶん諦めとほんの少しだけの期待を込めて彼女は男に言った。
「奇遇だな、私も争いなんて望んじゃいない、求めるのは一方的な勝利だよ」銃声が響く、それは男の立ち位置とは別方向から来た。
「本当に君には感謝している。あのシェリルを仕留めたとなれば、わたしの組織内での株も上がるというものだ」人外の化け物を前にして余裕の笑みを男は浮かべる。
「そうそう男の都合良くいくように女はできていないんだよ」言って指の間にはさんだ小石を弾く、ただの石ではあるが彼女の怪力でそれを放てば、それは銃弾と変わりが無い。
しかし男に命中するはずの弾丸は、彼をすり抜けた。「無駄だよ、人間は進化しているんだ。科学の力という奴だ。人より多少能力が優れているだけで、君たちは欠点だらけなんだよ、大人しく、彼らのモノになりたまえ」
その声に答えるように、彼女の周りに人の囲いが作られる。
「現地協力者、稀少生物保存団体の皆さんだ。嫌がらずに踊ってあげてくれたまえ、なにせこの極東の国は、我ら”存在しない教会”の力が及ばなくてね、困ったもんだ」
「では、捕獲を開始する」紹介された団体様は黙々と作業を開始した。
「ああ、世界に存在する存在しないはずの生物を保存するという中々にふざけた組織だが、舐めない方が良いぞ、シェリル」
「ご忠告痛み入る。が、自身の手柄は良いのか」問う彼女に男は含みのある笑いで答えた。




