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薄暮

 意外な事に彼女の拘束はあっさり解かれ、あまつさえ、血液ごはんも提供された。保存物パックであったし、いささか彼の血液しんせんなあじに興味を覚えないではなかったが、そこは自重した。彼女は確かに化け物と呼ばれるモノではあるが、彼女を追い回す敵のように卑怯者では無いのだ。


 意外な事にシェリルと名乗ったバンパイアは、この生活に順応していた。しかし一向に出て行く気配が見えないのだ。件の彼女は予定の屋根の修繕が終わっても、しっかりとここに居座っていた。で、何をしているかと言うと、日がな一日、といっても彼女の活動時間の夜にだが、ひたすらにゲームというていたらくである。


 その姿を見た彼女のマスターであるところの源十郎は特に不満を言うでもなく、一言「一度、拾った野良猫すてねこの面倒を見るのは道理だろう」と委細構わないのだ。いや、確かに自身のマスターであるところの青年は、いささかというか、いろいろな物事を自分を含めてぞんざいに扱う傾向はあるが、さすがにコレはチョット、行き過ぎだ。

 

 何せ相手は素性のわからぬ吸血鬼ヴァンパイア、いや、素性が知れていれば良いというものではないが…、必ず良からぬモノを連れてくるハズなのだ。この手の輩は、だから不慮の事故が起こる前に源十郎様を護るのが、従者たるモノの勤めである。


 そう決心すると少女は、相変わらず目の前でパックの血液を下品にも音を立てて吸いながら、ゲームに熱中する彼女の前に立ちはだかると少女は言い放った「勝負ですっ!!」と

 

 *

 

「…なんと言うことだ」その光景を目の当たりにして男は呟いた。それはあってはならない光景だった。人と化け物がともに生活するなど、それは冒涜にも等しい光景だった。男はようやく見つけたソレを凝視すると、諦めにも似たため息を一つ、その場を後にした。


 それは、平穏な時間の終わり、夜に生きるモノ達の時間が始まる合図だった。そう、少女の予想通りにやっかい事は彼らのすぐ側にやって来ていた。


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