睡魔と夢想
淡くて青い夏の日。まだ涼しい夏だったころ。晴弥は、気動車を何本か乗り継ぎながら、沿岸部を移動していた。
晴弥は、とにかく脱力している感じの人で、気が付いたら1日が終わっていたということはかなりよくあることであった。しかし、そんな、茫漠な毎日を過ごしていることに晴弥は嫌気がさした。だから、少し休日にお出かけをしてみることにした。目的は特になく、ただ気動車に乗って、降りたくなったら、降りるというだけだ。ただ、この気動車はすごく不思議な気動車だった。
今はまだ沿岸部を走っているのだが、もう少ししたら、どこまで続いているのか分からない砂漠地帯に突入しそうだった。しかも、その砂漠地帯には、無人駅が一つあって、そこには、現代中国語(普通話)で書かれた看板がいくつも建てられていた。そして、その駅のホームには、日傘をさし、青い目をした、茶色い髪の、若い女性が立っていた。
気動車が、その駅のホームに着いた時、その若い女性は乗車してきた。そして、偶然にも、晴弥と向かい合う席に座り、無表情で古びた本を読み始めた。ただ、無表情ではあったものの、その青い目の存在感は凄まじく、時折、晴弥はちらちらと見てしまった。
おそらく、人生で観た中で一番きれいな天の川銀河を見た後、翌朝になった。あの若い女性は居なくなっていた。この茫漠とした砂漠の中のどこかにオアシスがあったのだろうかと晴弥は思った。
その後、晴弥は、時折、停車する駅の風景を眺めながら、基本的には、新聞を隅から隅まで読んでいた。晴弥は、この雄大な砂漠を眺めながら、ゆっくりと現を生きている自分が、まるで夢の中の自分であるかのように感じた。
晴弥は段々と眠くなってきた。まるで海の中に落ちていくかのように、彼は睡魔に襲われた。
晴弥は、千歳の年月、いや八百万の年月が過ぎたかのような、遥か彼方の空にまで続く高層ビルが林立する、未来都市で悠々と浮かんでいた。この都市は一体、どこの国の都市なのだろうか。いや、八百万年も経ったならば、人類は、国境も民族も文化も全てが溶け合った時代を生きているのだろうか。地球を統一する政府が樹立されているのだろうか。
そんなことを思いながら、晴弥は、どこまで下に続くのか分からない、幾重にも折り重なった、高速道路のジャンクションの方に落ちていった。
眠りから覚めた後、晴弥は、しばらく、地球から遠く離れた月を、窓から眺めていた。未だ見たことのない、月の世界は、これまで私が見たことのないくらいに純朴な世界なのだろうとずっと思っていた。
やがて列車は、草原地帯に入った。しかし、そこは本当に何もない原野なのではなく、線路沿いに所々、バラック小屋が集まっているところがあって、そこで自転車が売られていたり、居酒屋が運営されていたりした。また、それらの居酒屋では、どこから来たのか分からないが、スーツ姿の会社員らしき何人かが利用していた。
夜になった。列車は、まだ走り続けている。やがて、前に夢でみた、あの未来都市の姿が、前方に浮かび上がってきた。そこで列車は汽笛を鳴らした。その汽笛は、まるで魂を死後の世界にいざなうような、とても透き通った、美しい音色だった。




