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美穂の日常

「ううう。また、やってしまった」

 リビングの窓を拭きながら、バケツの水を、ゆかりにかけてしまった事を反省する美穂。

「一体、どうやったらドジを踏まなくなるんだろ〜」  

 彼女にとって死活問題ではあるが、答えは出ないでいた 。

「おや。朝からせいがでるね」

 そこに、この屋敷の主人、徹が声をかけて来た。

「徹さん。おはようございます」

「はい。おはよう」

 徹は、いつものようにテーブルの椅子に座る。

 美穂はキッチンに行き、用意していた食パンとスクランブルエッグを乗せた皿を徹の前に出した。

「何時も済まないね」

「いえいえ、これくらいの事は当然です」

 美穂は、たまにドジこそ踏むものの、基本的には料理も掃除も出来る良い娘である。

 その事は徹も良く分かっていた。

「美穂さん。何時も言ってるけど、あなたが働きたくないというのなら、働かなくても良いんだよ」

「いえいえ、お世話になっているのに、なにもしないのは、逆に心苦しいです」

 美穂はリビングのテーブルを拭きながら答えた。

 徹は自分が途方に暮れていた時に拾ってくれた恩人。

 その恩人に恩返しをするのは彼女にとって、なんら特別な事ではなかった。

「ふむ。君は本当に良い娘だね」

「いえいえ」 

 いつものような朝食の団欒。リビングのテレビからニュースが流れて来た。

『たった今、ルーカス王子が日本に到着しました!』

 アナウンサーがルーカス王子の日本到着を告げる。

 テレビには、ルーカスが飛行機から降り羽田空港に降り立つ姿が映されていた。

「おや。ルーカス王子の来日、今日だったっけ?」

 徹はテレビを観ながら、そう言った。  

 一方の美穂はテレビに映るルーカスに見惚れていた。

 彼女がルーカスを初めて見たのは、中学二年生の時。

 ルーカスが、叔父さんの結婚式に参列した時であった。

 そのテレビ中継を日本で見た彼女は、ルーカスに一瞬で心奪われた。

 その容姿を、とても格好良いと思った彼女は、その日以来、彼のファンである。

 今日も彼の来日を心待ちにしていたのであった。

「ルーカス王子の事、好きなのかい?」

 テレビに映るルーカスに見惚れていた美穂。

 その姿が気になった徹は思わず尋ねた。

「い、いえ、いえ、好きだなんてとんでもないです。ファンです。ファンなんです!」

 彼女にとってルーカスは憧れの存在で、好きなどと考えるのは、おこがましい。 

 そう考えていた。

「ふむ。ルーカス王子の泊まるホテルは、ここから近いみたいだね」

「えぇ! そ、そうなんですか?」

「もしかたら会えるかも知れないよ」

「いやいや、会うだなんて、きっとお忙しいだろうし、そんな時間は、ありませんよ」

「分からないじゃないか」

「も、もう!からかわないで下さい。お皿下げますね」

 美穂は空いた皿を下げようと、皿を手に取りキッチンへと向かう。

 ガシャーン!  

 その途中で転けて皿を割ってしまった。

「おや。大分、動揺しているみたいだね」


 日本のメルベール大使館にて。

 ルーカスは公務の為、様々な人達と挨拶をしていた。

「内閣総理大臣、岸峰総理大臣!」

 名前を呼ばれた岸峰総理がルーカスと挨拶を交わす。

「ゆっくりしていって下さい。ルーカス王子」

「はい」  

 正直言って退屈な時間だ。何故日本まで来て、おじさんと握手を交わさないといけないのか。

 早く、観光に行きたい。でも、そんな時間はあるのだろうか?

「続きまして、内村官房長官!」

「我が日メール関係を盤石なものにしましょうぞ。ルーカス王子」

「は、はぁ」

 まぁ、仕事は仕事だ。しっかりやらないと、今後の日メール関係に支障がきたすかも知れない。 

 そう思い、ルーカスは内村官房長官と握手を交わした。

「続きまして、静岡県副知事、安村副知事!」

 静岡県副知事とまで握手を交わす必要があるのだろうか?


「おい!ビッシュ、どういう事だ!?」

 その日の晩、ルーカスは自室のホテルにてビッシュを呼びつけ怒鳴っていた。

「どういう事だと、申されても、どうなさいましたか? 王子」

「朝から晩まで知らないおじさんと握手を交わしてばっかでは無いか! 私は日本観光がしたいのだ!」 

「王子、わがままを申さないで下さい。これも大事な公務ですぞ」

「ええい! 明日はどうなっている?」

「明日は、朝七時から、静岡県副知事との会食が……」

「何故、そんなに私と静岡県副知事を会わせたいのだ!? なんになる?」

 調べて見た所、明日も会食やら挨拶回りやらで日本観光する時間はない

「なんだ。なんなんだ。このスケジュールは……」

 このままでは日本観光する事なく、メールベールに帰らなきゃならない日がやって来る。

 そんなものは絶対に嫌だ。

「日本観光をさせろ。ビッシュ! 私は退屈で死ぬぞ」

「王子、わがままを申さないで下さい……。 これは立派な仕事なんですぞ」

 ルーカスはビッシュに訴えたが、ビッシュは聞く耳を持ってくれそうにない。  

 これは、最後の手段に出るしか無いか。



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