始まり
頑張れルーカス
それは、まだルーカスが十歳の時の話である。
「母上、何をされているのですか?」
ルーカスは母親に尋ねた。
「これですか? これは地球儀と言います」
母が眺めているのは地球儀だった。
「ルーカス、貴方もご覧になりなさい」
母に言われてルーカスは地球儀を眺める。
「ルーカス、何が見えますか?」
「たくさんの国が見えます」
地球儀には、大小様々な国が描かれている。
なんの変哲もない普通の地球儀だ。
「そうです。この地球儀には様々な国々が見えます。でもルーカス、本当は、それはいけない事なのです」
母は言った。一体、どういう意味だろう?
「母上、どういう意味です?」
「ルーカス、人間以外の動物は安々と、この国境を越えて行きます。何故、人間だけが国境を越えてはならないのでしょうか」
「それは……」
言われてルーカスは言葉に詰まる。確かに人間だけが国境を越えられない。それは正しい事なのだろうか。
「ルーカス、本来、人間は、世界中の、どこにでも行く自由があります。それは人間が守らなければならない最低限度の自由なのです」
「母上……」
ルーカスは子供だから、まだ母の言っている事は良く分からない。それでも母は続ける。
「ルーカス。国境を無くしましょう。そうすれば世界は、きっと良くなります」
そう言い残して母は病気で旅立ってしまった。
今でもまだ、母の言っていた事は、頭に残っている。
国境を無くす。そんな事が人に出来るのだろうか。
それから七年後。ルーカス、十七歳の時の話である。
「はい。オバァちゃん。お釣りだよ」
「有り難うね〜。王子」
ルーカスは、オバァちゃんにお釣りを手渡した。
ここはメルベール王国にある町の小さな商店街。その小さな商店街にある小さな八百屋、店名は『ハリー』
このハリーは、スーパーが出来てからというものの客足は減ったが、未だに常連客で賑わっていた。
「王子、人参くれ」
「私はみかん!」
「あ、あぁ待ってくれ。私も忙しいんだ」
ルーカスは皆に王子と言われ慕われている。
何故なら彼は、このメルベール王国の十一代目国王、ルドルフ=クラークの息子。
ゆくゆくは、この国の頂点に立つ人物で、正真正銘の王子である。
「はいよ。人参」
そんな彼が何故、この八百屋で働いているかと言うと、彼の親切心からである。
彼は、困っている人は見過ごせない性格で、この八百屋も、オバァちゃんが一人で、切り盛りしているのを見て、思わず手伝いたくなってしまったのである。
「いや〜、いつも助かるよ。王子」
「困っている時はお互い様でしょ。ハリーおばさん」
王子が来ているとあって八百屋、ハリーは大盛況。
しかし、そんな時間は長くは続かず。
「王子、見つけましたぞ!」
彼の執事兼、付き人のビッシュの声が商店街に響く。
不味い。見つかったか。
「や、やぁ、ビッシュ。君も買い物かい?」
「なわけないでしょ! また勝手に王宮を抜け出して、ルドルフ国王陛下に知られたら、私が怒られるんですぞ!」
「ま、まぁ、そう固いこと言うなよ。これも庶民の生活を知る為に必要な事だろ」
「王宮の生活が退屈で抜け出しただけでしょ! 全く何時になったら国王としての自覚が芽生えるのです……」
確かに王宮の生活は退屈で、ルーカスは度々、王宮を抜け出しては、町の仕事を手伝っている。
その度にビッシュに怒られては連れ戻される日々を送っていた。
「ほら。戻りますぞ。王子!」
「あ、あぁ、ちょっと待ってくれ。ビッシュ。ハリーおばさん。店、抜け出して大丈夫?」
「あぁ、後は私一人で大丈夫だよ。行っといで王子」
「また来るよ」
「来ては駄目ですぞ!王子」
ルーカスはビッシュに連れられ渋々といった感じで車に乗った。
このまま王宮に戻る予定である。
「全く、王子は、王子としての自覚を持って少しは持って頂きたいですな」
「はいはい。さっき聞いたよ。それは」
ルーカスは欠伸をしながらビッシュの説教をなんとなく聞いていた。
だって退屈なんだもん。王宮に、ずっと居るの。
「あ、ビッシュ、ちょっと車、停めてくれ」
「ん? なんです? 王子」
ルーカスはビッシュに車を止めさせる。
そして彼は車から降りた。
彼の視線の先には、ビニール袋が破れ、中身が溢れ落ちてしまい、あたふたしている主婦の姿があった。
「大丈夫ですか?」
「あ、王子」
ルーカスは主婦と一緒に、スーパーの中身を拾う。
そして自分が拾った分を主婦に手渡した。
「有り難うございます。王子」
「なんて事はない。じゃあ」
困っている人を助けた王子は車中へと戻る。
「全く、王子はお人好しですな」
「お人好しなのは良い事だろ。ビッシュ」
「まぁ、それは、そうですが……」
再び車は走り出す。
「あぁ、そういえばルドルフ国王陛下が、お呼びですぞ。王子」
「父上が?」
「えぇ、何でも頼みたい事があるそうですぞ」
頼みたい事、一体なんだろうか?
「面倒臭い仕事じゃなきゃ良いけど」
「そういう仕事もやって下さい……」
良かったら登録とかしてね〜




