06 祭りの始まりだ。 平民目線
「うひゃあ、始まったぞ」
隣の男が、歯の隙間から肉を噛みちぎりながら笑う。油で光る指を舐め、肘でわたしの脇をつついた。
「ほら見ろよ、次も剣だけだ」
去年は最初が剣で次が槍だった。そうだ弓が二人いたな。今年は二組とも剣だ。
さっきは番狂わせが起きた。だが、今回はいつも通りだ。
砂煙の向こうで、杖を持った十五人が半円に広がる。剣を渡された連中は、その中央から一目散に距離を取る。ああ、あの配置。もう何度も見た形だ。
魔法組は詠唱に入る。声が重なる。低い声、高い声、震える声、落ち着いた声。観客席は一瞬だけ静まる。次に来るのを、みんな知っているからだ。
火の玉が、ぽん、と生まれた。
最初は小さい。だが杖の先で膨らみ、空気を焼きながら飛ぶ。赤い尾を引いて、剣を持った少年の肩に直撃する。
「うわあああ!」
誰の声だかもわからない悲鳴。布が一瞬で黒く焦げ、炎が走る。
火は服を食うのが早い。あっという間に背中に広がる。
「燃えろ燃えろ!」
後ろの女が立ち上がって叫ぶ。わたしも身を乗り出す。ああ、いい匂いだ。焦げた布と、少し遅れて焦げる皮膚の匂い。あれが混ざると、鼻の奥がじんわりする。
だが魔法組は優しい。次は水だ。
別の杖が光る。青白い輪が広がり、水の塊がぶつかる。ばしゃりと音を立て、炎は消える。蒸気が立ち上る。
「ははは、ちゃんと消してくれるんだな!」
そうだ。すぐに死なれちゃ困る。長く動いてもらわなきゃ、賭けが盛り上がらない。
水で火が消えた直後、今度は風だ。
杖を掲げた少女の髪がふわりと舞う。次の瞬間、空気が裂けた。
目には見えないが、砂が線を引く。細かい刃だ。風の刃が、連続で飛ぶ。
剣組の一人の頬がぱっくりと開く。血が遅れて噴き出す。腕、太腿、首筋。浅く、何本も。一本では死なない。だが、数が多い。
「刻め刻め!」
誰かが笑いながら叫ぶ。
剣を持った少年たちは逃げる。走る。だが、どこへ? 円形の闘技場だ。逃げ場なんてない。
魔法組は順番だ。十五人が、交代で詠唱する。最初に撃った者は、すでに次の詠唱に入っている。詠唱が途切れない。火、水、風、火、風、水。
炎で焼き、冷やして、裂く。
まるで料理だ。
「ほら、あいつもう足止まってるぞ!」
剣を握ったまま、膝から崩れる少年がいる。剣が砂に落ちる音は、ここまで届かない。代わりに、観客の笑い声が波のように押し寄せる。
「やった、当たった!」と言う声が聞こえた。
運のいいやつっているんだな。
わたしは賭け札を握りしめる。あの右端の細いのに賭けた。すぐに倒れると思ったのだが……
思ったより動きがいいな。だけどそれだけだ。足に風の刃が集中している。太腿が裂け、血が砂を濡らす。
「動け動けよ!」
動けなきゃ、もっと面白くないだろうが。
火がまた飛ぶ。今度は三つ同時だ。服が燃える。髪が燃える。焦げ臭さが強くなる。誰かが吐く。だが目は逸らさない。
魔法組の連中は、顔色ひとつ変えない。淡々と詠唱し、杖を振る。
仲間が詠唱している間は、少し息を整え、また次に入る。
完璧な連携だ。
剣組は、もう反撃すらできない。剣を振るう距離まで近づけない。近づこうとすれば火で焼かれ、水で足を取られ、風で裂かれる。
十五人が順に攻撃する。
途切れない。
叫び声は次第に小さくなる。最初は大声で助けを求めていた少年も、今は口を開くだけだ。声が出ないのだろう。喉が焼けている。
「もう立ってるの三人になった!」
観客席がざわめく。立っているのは、ふらふらと揺れる影が三つ。だがそれも時間の問題だ。
風の刃が一斉に走る。
ひとりが倒れる。砂に顔から突っ込む。動かない。
残り二人。片方は剣を杖の方へ投げようとするが、腕が上がらない。肩が裂けている。剣は途中で落ちる。
火が、最後の少年の胸を直撃する。
服が燃え、皮膚が縮み、匂いが強くなる。
観客席が総立ちになる。
「終わりだ!」「やった――最後だ――」
誰かが叫ぶ。賭けが当たったのか。いいな。
前の試合は賭けは成立したのだろうか? まぁいい俺はどちらもダメだった。
水が降る。蒸気が立つ。だが、もう立ち上がらない。
最後に残った剣組も、膝から崩れ、横に倒れる。砂が赤く染まる。
一瞬、静寂。
そして――爆発するような歓声。
わたしは笑った。腹の底から、声が出る。
ああ、やっぱりこれだ。
残酷? そうかもしれない。だが、あの連中は貴族だ。生まれただけで上にいるやつらだ。そのうちの何人かが、ああやって無様に焼かれ、裂かれ、転がる。
それを見て、わたしたちは酒を飲み、笑い、賭ける。
今日もいい見世物だった。
次は誰が燃えるんだ? 明日もお祭りだ。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




