17 すごいやつだ 観客目線
三試合終わった時点で、もう腹がよじれていた。
「なあ、おい。これ貴族の戦いだよな?」
隣のトーマスが酒をあおりながら言う。わたしは串肉をくわえたまま、うなずいた。
「貴族の戦いのはずだ。だが、やってることは酔っぱらいの喧嘩だな」
一試合目、二試合目、三試合目――どれも魔法の応酬のはずが、途中から距離が詰まり、杖で殴り合い、砂の上で転げ回る。火は散る、風は暴れる、だが決め手がない。
観客席は最初こそ盛り上がったが、途中から笑いに変わった。似たようなのを三回も見れば飽きるだろう。
「おい、それ魔法大会だろ!」
「殴るなら素手でやれよ!」
庶民席は酒の匂いと汗と笑い声でぐちゃぐちゃだ。上の貴族席を見上げると、王太子の顔がはっきり見える。遠くてもわかる。機嫌が悪い。
「あれ、怒ってるな」
とトーマスが言う。
「当たり前だろ。あんな泥試合見せられて、威厳も何もねえ」
わたしはわざと声を張る。
「貴族様は優雅に炎を飛ばして、きれいに殺し合う予定だったんだろ?」
近くの男が吹き出した。
「ははは! 品のいい殺し合いか? それ見せ物としてどうなんだよ!」
酒がこぼれ、笑いが広がる。誰かが上段に向かって手を振る。
「もっと上手くやれよー!」
三試合とも決着はついたが、どれも泥臭い。砂時計が落ち切るまでだらだら削り合い、最後は焦って突っ込んで自滅。
「ありゃ王太子の胃が荒れるわ」
とトーマス。
「胃どころか権威が削れてるな」
そう言ったところで、四試合目の名が呼ばれた。
ざわり、と空気が変わる。
「来たぞ」
「ジョナサンだ」
一気に酔いが醒める。
相手は――あの、伝説のいきなり降参に勝った男。負けたのか? とにかく勝利者。勝ち上がった男。
「うわ、あいつ、あんなだたか?」
とトーマスが身を乗り出す。
「可哀想にな」
「いや、面白いだろ。あいつ、死にそうだぞ」
観客席の熱が跳ね上がる。さっきまで笑っていた連中が立ち上がる。
「ジョナサン!」
「今度はどうやる!」
砂の上に、細い体の少年が出てくる。
いつものように杖は持っていない。
係から剣を受け取ると、重そうに持つ。
「ほら見ろ、また借り物だ」
とトーマスが笑う。
「伯爵家だろ? 一本くらい買ってやれよな」
わたしは上段をちらりと見る。
「金はあるが、期待はないんだろ」
近くの男が言う。
「生贄ってやつだろ。死ぬ予定の息子に投資はしねえ」
「ああ、貴族様は合理的だな。無駄は省く」
みんなで笑う。
その時、ジョナサンが剣を軽く振った。
歓声が上がる。
「やれー!」
「押し返せ!」
トーマスが肘でわたしを突く。
「今日も返すと思うか?」
「さあな。だがあいつ、困ってる顔するのが上手い」
相手は明らかにやる気になっている。もしかして、もしかして、一杯ひっかけているのか?
テンション高いぞ。
開始の合図。火が飛ぶ。
詠唱はそれなりに速い。
ジョナサンが剣で逸らす。
「おお!」
観客がどよめく。
「まただ!」
「偶然か?」
二発目、三発目。
剣が面で流す。
完全ではない。ローブが焦げる。
「あちち」とか言っているのが聞こえる。
庶民席が爆笑する。
「演技かよ!」
「もっと必死になれ!」
トーマスが叫ぶ。
「焼けるなよ! こっちは賭けてんだ!」
わたしも叫ぶ。
「逃げるな! 逃げるとつまらん!」
上段を見ると、貴族どもは相変わらず静かだ。だが身を乗り出している。
「見ろよ」
とわたしは言う。
「あいつらも楽しんでる」
「だな。表情は涼しいが、目がぎらついてる」
ジョナサンは距離を詰めると相手の杖を落とした。
そしてそれを拾い上げると、構えた。
相手があわてて、逃げる。後ろを向いて逃げる。
その背中に向かって、水の玉が飛んだ。
次々に水をかけられる男。倒れたまま起き上がれない。
おや、観覧席にも水が飛んで来る。
「いいぞぉ」「やれぇ」「濡れる――」
大歓声だ。会場もぬかるみだ。
ジョナサンが、ほんの少しだけ笑った。
それを見て、わたしはぞくりとした。あの時の笑いだ。
火が放たれる!間違いない。
ジョナサンが杖を構えた。気の毒に、自分の武器で焼かれるなんて……
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