表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場帰りの魔法少年  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

17 すごいやつだ 観客目線




三試合終わった時点で、もう腹がよじれていた。


「なあ、おい。これ貴族の戦いだよな?」


隣のトーマスが酒をあおりながら言う。わたしは串肉をくわえたまま、うなずいた。


「貴族の戦いのはずだ。だが、やってることは酔っぱらいの喧嘩だな」


一試合目、二試合目、三試合目――どれも魔法の応酬のはずが、途中から距離が詰まり、杖で殴り合い、砂の上で転げ回る。火は散る、風は暴れる、だが決め手がない。


観客席は最初こそ盛り上がったが、途中から笑いに変わった。似たようなのを三回も見れば飽きるだろう。


「おい、それ魔法大会だろ!」

「殴るなら素手でやれよ!」


庶民席は酒の匂いと汗と笑い声でぐちゃぐちゃだ。上の貴族席を見上げると、王太子の顔がはっきり見える。遠くてもわかる。機嫌が悪い。


「あれ、怒ってるな」

とトーマスが言う。


「当たり前だろ。あんな泥試合見せられて、威厳も何もねえ」


わたしはわざと声を張る。


「貴族様は優雅に炎を飛ばして、きれいに殺し合う予定だったんだろ?」


近くの男が吹き出した。


「ははは! 品のいい殺し合いか? それ見せ物としてどうなんだよ!」


酒がこぼれ、笑いが広がる。誰かが上段に向かって手を振る。


「もっと上手くやれよー!」


三試合とも決着はついたが、どれも泥臭い。砂時計が落ち切るまでだらだら削り合い、最後は焦って突っ込んで自滅。


「ありゃ王太子の胃が荒れるわ」

とトーマス。


「胃どころか権威が削れてるな」


そう言ったところで、四試合目の名が呼ばれた。


ざわり、と空気が変わる。


「来たぞ」


「ジョナサンだ」


一気に酔いが醒める。


相手は――あの、伝説のいきなり降参に勝った男。負けたのか? とにかく勝利者。勝ち上がった男。


「うわ、あいつ、あんなだたか?」

とトーマスが身を乗り出す。


「可哀想にな」


「いや、面白いだろ。あいつ、死にそうだぞ」


観客席の熱が跳ね上がる。さっきまで笑っていた連中が立ち上がる。


「ジョナサン!」

「今度はどうやる!」


砂の上に、細い体の少年が出てくる。


いつものように杖は持っていない。


係から剣を受け取ると、重そうに持つ。


「ほら見ろ、また借り物だ」

とトーマスが笑う。


「伯爵家だろ? 一本くらい買ってやれよな」


わたしは上段をちらりと見る。


「金はあるが、期待はないんだろ」


近くの男が言う。


「生贄ってやつだろ。死ぬ予定の息子に投資はしねえ」


「ああ、貴族様は合理的だな。無駄は省く」


みんなで笑う。



その時、ジョナサンが剣を軽く振った。


歓声が上がる。


「やれー!」

「押し返せ!」


トーマスが肘でわたしを突く。


「今日も返すと思うか?」


「さあな。だがあいつ、困ってる顔するのが上手い」


相手は明らかにやる気になっている。もしかして、もしかして、一杯ひっかけているのか?


テンション高いぞ。


開始の合図。火が飛ぶ。


詠唱はそれなりに速い。


ジョナサンが剣で逸らす。


「おお!」


観客がどよめく。


「まただ!」

「偶然か?」


二発目、三発目。


剣が面で流す。


完全ではない。ローブが焦げる。


「あちち」とか言っているのが聞こえる。


庶民席が爆笑する。


「演技かよ!」

「もっと必死になれ!」


トーマスが叫ぶ。


「焼けるなよ! こっちは賭けてんだ!」


わたしも叫ぶ。


「逃げるな! 逃げるとつまらん!」


上段を見ると、貴族どもは相変わらず静かだ。だが身を乗り出している。


「見ろよ」

とわたしは言う。

「あいつらも楽しんでる」


「だな。表情は涼しいが、目がぎらついてる」


ジョナサンは距離を詰めると相手の杖を落とした。


そしてそれを拾い上げると、構えた。


相手があわてて、逃げる。後ろを向いて逃げる。


その背中に向かって、水の玉が飛んだ。


次々に水をかけられる男。倒れたまま起き上がれない。


おや、観覧席にも水が飛んで来る。


「いいぞぉ」「やれぇ」「濡れる――」


大歓声だ。会場もぬかるみだ。



ジョナサンが、ほんの少しだけ笑った。


それを見て、わたしはぞくりとした。あの時の笑いだ。



火が放たれる!間違いない。


ジョナサンが杖を構えた。気の毒に、自分の武器で焼かれるなんて……



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ