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終話 「祭りのあとで」③


 翌朝、ヴァインシュトックに帰るために貸し切った早朝便に揺られながら、マルクスは異様な光景だと乾いた笑みを浮かべる。


「う、うおおお……頭がぁぁ」


「割れるぅぅ、ゆっくり走ってくれぇぇ」


「任せろって言ったくせにこの馬鹿どもは……!」


「まあまあお姉ちゃん」


 馬車に乗っているのは昨晩――といより今朝方はしゃぎすぎたらしく体調不良になっているトルステンとトミー、姉妹揃って目の周りを赤くしているアニカとファニー、特に大きな症状はないマルクス。それと、マルクスの隣で同じく死にそうになっているレギナルトだ。彼はトルステンたちの様子+アニカたちの様子のフルコンボらしい。


 後を任せろとカッコつけた割りにトルステンたちが潰れてしまったので、アニカは残るつもりだったらしい。だが、一晩経って対フィデリオ戦で負った腕の怪我が悪化して、目を背けたくなるほど腫れ上がっていたので、ヴァインシュトックの同僚やヴァッサーフォーゲルの猟師たちに追い返されてしまったのだ。結果、この珍道中になったわけだ。


「うう、気持ち悪いっすぅぅ~……」


「初酒で際限なく飲んだらそりゃそうなるっての」


 いつもなら断れるが、傷心だったのもあり酒を口に入れてしまったレギナルトに、マルクスは呆れた顔を向ける。あと二ヶ月としないうちに成人するのでまあ些細な違いではあるのだが。フレーダーマオスの飲酒制限は一応決まっているが結構緩い。


「……そいや指輪渡せたんだな。よかったじゃん」


 ぼそりと呟くとレギナルトは青かった顔に少し朱を差した。


「…………いや、何か流れでっていうか、何にも言わないで渡しちゃったからあんまりっていうか」


「いんだよ。あの色気なしにアクセさせただけで上等。今だってつけてるし、じっくりいけじっくり」


 レギナルトがマルクスにあの指輪を頼んで来たのはいつだっただろうか。もう随分前だ。当時はただ「飾りたい」というだけで頼まれたのだが、いつからかレギナルトの感情が変化し、渡せないまま今に至っていたのだ。作成者としても幼馴染としても友人としても、どうなるかひやひやしていた。なので、今回の件、それだけは安心している。


「ん、何マルクス?」


 ぼんやり視線を向けていたら気付かれた。何でもない、と返そうとすると、その途端に馬車が急停車する。男衆は床に転がり落ち、アニカと、そのアニカに支えられたファニーだけは座席から落ちずに済んだ。馬が怯えていななく声を聞き、異常事態と判断したアニカは御者に大声で何事かを問いかける。


「お、狼の群れが……っ!」


 震えた声で返答がされると、アニカの行動は早い。トルステンたちのライフルを背負い弾の入った袋を手に取ると馬車の窓を蹴り開けてその上へと飛び上がった。


「御者、馬をなるべく抑えておけ!」


 その声を契機に、ライフルの発砲音が響き渡る。本来なら恐れて身を竦ませる場面であるだろう。だが、馬車の中に残った面々は誰一人としてその様子を見せず、むしろ安心しきった様子を見せていた。本来なら加勢に入るべき三馬鹿は、今行っても邪魔になるだけだと理解しているので動こうともしない。


 気を抜きすぎだろうと苦笑するマルクスは、しかし肩を竦めて何事もなかったかのように座席に座り直した。



 それから一時間ほどしてから、ヴァインシュトックにまた名を上げた英雄を乗せた馬車が帰還する。持ち運びが可能な範囲の、(みやげ)と共に。




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