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【短編小説】飲酒スペースあります

掲載日:2025/12/16

 『飲酒できます』

 通りを歩いていると、珍しくそんな立て看板を出している飲食店があった。

 条例を知らない新参者か、または条例が変わった事を俺が知らないのか。

 とにかく近寄って見ると、そこには「飲酒スペースあります」と書いてあった。

 店の看板は知らない屋号だったので、やはり新しくできた店なのだろう。



 中を覗いてみると混み始めている様だった。

 三角巾と前掛けをした店員と思しき男女が忙しそうに動き回っているのが見える。

 たまには外食も良いかと思いドアを押すと鈴が鳴り、忙しそうにしていた従業員たちが一瞬だけ足を止めてこちらを見た。

 そして満面の笑みで「いらっしゃいませ」と元気よく言った。


 店も従業員の雰囲気も良さそうだ。

 ぺこりと頭を下げて指を一本立て、ひとりである事を伝えると空いているカウンター席を指された。

 俺は再び軽く頭を下げて案内された席に座った。

 改めて店内を見回すと、みな一様に上気した顔で落ち着かない様子だった。


 当然だろう。

 酒類の提供が厳しく制限されてから久しい。

 どんな酒であれ、コンビニやスーパーでは買えなくなってしまったし、屋外での飲酒も厳罰化された。

 最初は喫煙所の様に路上飲酒スペースが設置されたが、人数制限も会話禁止も食事の禁止も守られず、一人ひと缶と言うルールも批判を集めて殆どが撤去された。



 飲食店での酒類提供にしても同じように厳しく制限された。

 店が仕入れる酒類のアルコール量や客単酒量も管理された。

 ひとり何グラムまでと決められており、ハシゴ防止の為に入店時のアルコール検査もされている。

 路上に立て看板を出してはいけないと言う条例まで出され、当然の結果として飲食店の倒産が相次いだ。

 

 俺が知っているのはここまでだったが、条例に何か変化があったのだろうか。

 満面に笑みをたたえた店員が手にビールを持って俺の背後を通り過ぎた。

 どこまで行くのかを見ていると、上気してそわそわしていた会社員風の男に渡す。

 会社員風の男はそれを持って立ち上がり、店の奥へと進んでいった。


 男が向かった先には「飲酒スペース」と書かれた札が突き出ていた。

 その下には同じように酒を片手に持った男たちが並んでいる。

 ガラス戸の向こうには3畳ほどのスペースがあり、男たちがその中で黙って酒を飲んでいるのが見えた。

 並んでいる男たちの手にあるグラスは大汗をかいており、ハイボールを持っている男のグラスは氷がほとんど解けていた。


「おい、いつまで飲んでんだよ」

 列の先頭にいた男が苛立たし気にドアを叩きながら叫んだ。

「お前のハイボール、それほとんど解けた氷の水だろ。そんなもんペロペロ舐めてんじゃねぇよ」

 飲酒スペースの中にいた男は鬱陶しそうに顔を上げると、邪悪な笑みを浮かべて旨そうにその溶けた氷の水を飲み込み、残った氷を噛み砕いた。


 中が見えない色つきグラスなんぞにしたら揉め事が増えそうだな、いや時間制にして砂時計とかが売れるかも知れないなどと考えていたが、俺もあの列に並ぶのかと思うとうんざりした気持ちになった。

 飲食店が増えない理由はこれか。

 注文してみたところで、飲めるのは随分と先になりそうだ。

 俺はメニューを一瞥して手を上げる。

「コーラをください」

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