第一章第五段セリア、また会えたね!
「すみません、本来この章は老人とコンティの出会いと始業の話のはずだったのですが、私の考えではそのままではつながりが悪いと思ったので、少し改変しました。」
セリナは腕の中のコンティをそっと離し、落ちた本をかがんで拾った。
窓辺から差し込む陽光が彼女の肩にかかり、柔らかな光の輪を作る。コンティも素直に手を離し、両手でスカートの裾を握りながら、ゆっくりと母の足元に身を寄せる。まるで甘えん坊の子猫のように、頭をひざに押し当てた。
「ママ、物語の中にはまだどんな不思議なものがあるの?」
彼は顔を上げ、輝く瞳で母の、少し人生の痕跡を帯びたけれど優しい顔を見上げた。
セリナは微笑み、指先で彼の髪を優しく撫で、顔の頬からあごへと滑らせる。小さな緊張をなだめるように。
「もちろんあるわよ〜。宝物は何が聞きたい?物語には、とっても悪い神様や、不思議な生き物たちの秘密もいっぱいなの。」
コンティは目をぱちぱちさせ、好奇心いっぱいに顔を近づける。小さな手で母の手の甲を軽く叩き、早く話してほしいと催促するようだった。
「悪い神様?何をするの?どうしてそんなに悪いの?」
セリナは低く笑い、少し神秘的な口調で答える。身体を前に少し傾け、コンティと視線の高さを揃え、指先でページをなぞりながら、彼を別の世界へ導くように。
「その神様ね……とても邪悪なのよ。人も生き物も恐れを抱くような怪物や災いをたくさん作ったの。」
彼女はページをめくった。
そこには、鯨のように巨大な黒い影が絡みつく絵があった。皮膚は漆黒で、全身に鋭い棘がびっしり。口の中には光さえ砕きそうな鋭い牙が並ぶ。墨で描かれた瞳は、まるで紙の奥からこちらをじっと見つめているかのようだった。
空気が固まったように感じられる。コンティは小さな手でスカートの裾をぎゅっと握り、指先は白くなる。
「ママ……こわいよ……見て、この牙……」
セリナは背中をそっと叩き、柔らかく安心させるように言った。「それが悪い神様の作った怪物よ。とっても、とっても怖いんだから。」
コンティは目をぎゅっと閉じ、震える声で言った。「ママ……早くめくって……」
セリナは軽く笑い、「わかった〜。じゃあママがめくるわね。」
彼女がページをめくると、指先が次のページで止まる。ページは微かに震え、まるで何かの力を耐えきれず息をしているかのようだった。絵は狂おしい筆致で描かれ、紙さえも裂けそうに見える。
風が渦巻き、ぼんやりとした体が立ち上がり、紙面から逃れようとしているようだった。
セリナは胸がぎゅっとなり、その瞬間、かすかな風のうなりを耳にしたような気がした。思わず手を引っ込め、指先はわずかに震える。
もう目を向けることができず、すぐにページを閉じた。
しかしその名前だけは、脳裏に深く刻まれた——
——『躯の嵐』。
時は知らぬ間に過ぎていた。
窓の外、風が静かに窓を打つ。陽光はカーテンの隙間から差し込み、母子は本の世界に浸り、時間が止まったかのようだった。
コンティはたくさんの不思議な知識を学び、同時にたくさんの疑問も生まれた。
母セリナに質問はしたものの、母も全知ではなく、自分なりの理解でしか答えられなかった。
幼い彼にとって、その知識は魅力的であり、少し重くもあった。
「もうお昼ね。」セリナは笑いながら立ち上がり、手でページを軽くなぞり、別れを告げるようにし、肩に手を置いた。
「ママはお昼ご飯を用意するわ。コンティ、本を片付けてくれる?」
「うん〜!」
コンティは本を胸に抱え、つま先立ちで一生懸命高い本棚に戻した。
その瞬間、椅子がわずかに揺れ、重心が崩れ、世界が傾く——
——一つの手が、しっかりと彼を支えた。
それは一人の男性の手だった。
コンティは驚く間もなく、その力強くも優しい手に小さな手を握られる。指先は少し震えていた。
顔を上げると、逆光で相手の輪郭しか見えない。
男性はしゃがみ込み、コンティの頬をそっと撫で、その掌の荒々しさの中に滲む温かさを伝える。
コンティは身を引かず、むしろ手を握り返した。
彼は口を開きかけた——「あなたは誰?パパとママは?」——
しかし次の瞬間、台所から母の声がした。
「コンティ〜何してるの?お昼できたよ〜!」
「うん!ママ、すぐ行くね!」
コンティが振り返ると、その男性の姿はすでに消えていた。
温もりさえも、風とともに消え、まるで最初から存在していなかったかのようだった。
彼は数秒呆然とし、頭の中でその出来事を思い返そうとしたが、ますます混乱するばかり。結局、首を振ってため息をついた。
窓の外、風が再び吹き抜ける。
ぼんやりした影が静かに去り、コンティの本は知らぬ間に棚に戻っていた。
誰も、その影がどこに行くのか、また戻ってくるのかは知らない。
時は流れる。
陽光は石畳の街に金色を落とす。コンティは小さな背中にリュックを背負い、一人で街を歩く。小さな足音が石畳に響き、両手には紙片と硬貨を握りしめ、時折辺りを見回す。
街に来てまだ一ヶ月。今日の任務は、母のために食材を買うことだ。
ポケットにはセリナが渡したお金と紙片があり、そこには買う物のリストが書かれている。残ったお金は自由に使っていい、とも書かれていた。
街角の露店の呼び声、馬車の車輪の音が混ざり合い、空気には香辛料と焼き菓子の匂いが漂う。
コンティは歩きながら、母と一緒に通った道を思い返すが、人混みのせいで方向が次第に曖昧になる。
「まっすぐ……それから右……いや左?それともこのまま……?」
つぶやきながら、背中のリュックの紐をぎゅっと握り、身体を少し前に傾け、いつでも方向を変えられるように構える。
胸のあたりが徐々に締め付けられる。喧騒が耳から遠ざかり、周囲の景色がぐるぐると回っているように見える。
その時、細い手がそっと肩に触れた。
「迷子になったの?」
その声は優しく甘く、午後の風のようだった。
コンティは顔を上げ、すぐにその笑顔を認識した。
「あなたは……セリヤお姉さん?」
「コンティくん、いたのね〜」
セリヤは軽くしゃがみ、肩をそっと叩き、安心させるように微笑む。「迷子になっちゃったの?セリナさんはいないの?」
コンティは首を振り、小さな声で答えた。「ママは家にいるけど、僕、買い物に出て……でも迷子になっちゃった……」
話すほどに声は小さくなり、頬も赤くなる。
「じゃあ、私と一緒に市場に行こうか?」
「いいの?お姉さんの迷惑にならない?」
コンティの目は輝いた。
「大丈夫よ、ちょうど私も友達の家の補給を買いに行くところだから。」
「やった!これで迷子にならずに済む!」
コンティは嬉しさのあまり、小さな足でぴょんぴょん跳ね、セリヤの手を握った。急に立ち止まり、顔を赤くして言った。
「ごめんなさい……ママに、人に助けてもらったらありがとうって言うようにって言われたけど、嬉しくて忘れちゃった。」
セリヤは笑いながらしゃがみ、彼の髪をそっと撫でた。
「あ……ごめんね、頭を勝手に触っちゃった。」
「大丈夫!でも早く市場に行こう!」
コンティはにっこり笑った。
陽光が二人に降り注ぎ、肩が軽く触れ合い、手を握る掌はほんのり汗ばむ。街角の風鈴が揺れ、パンの香りが漂う中、二人は歩いた。
「セリヤお姉さん、その老人はお父さん?」
「違うよ〜、友達のお父さん。友達がちょっとした事情で世話ができないから、私が手伝ってるの。」
セリヤの口調は柔らかく、目には微かに複雑な感情が漂う。
「お姉さんの家族は?」
「私の両親?遠くに行ってて、今は会えないけど、いつか必ず会えるよ。」
平然と語る彼女の声には、風に潜む冷たさのような孤独があった。
コンティは聞き間違えたと思い、慌てて謝った。
「ごめん、お姉さん、聞いちゃいけないことだった……」
「大丈夫、もう過ぎたことだし。」セリヤは笑い、彼の手を引き、話題を変えた。「そういえば、コンティくん、何歳?」
「八歳!もうすぐ九歳になる!」とコンティは胸を張る。
「じゃあお姉さんは?」
セリヤは真面目なふりをして腰に手を当て、威厳のあるポーズで言った。「コンティ〜、女の子の年齢を聞くのはタブーよ〜」
「あ!ごめんお姉さん!また間違えた!」
彼女は笑い転げる。
「まあまあ、誠実そうだから許すわ。でも本当にお姉さんの年齢に興味ないの?」
「な、ないよ!全然興味ない!」
コンティはどもりながら答える。
セリヤの目に悪戯っぽい光が宿る。肩に軽く触れ、距離を少し縮めて言った。「コンティ〜、女の子と話したいとき、断っちゃいけないのよ〜」
コンティは驚いて固まる。セリヤは前後に大笑いした。
「はは〜、冗談よ、緊張しないで。」
コンティはほっとして、口を尖らせる。「お姉さん、意地悪すぎる〜!」
「ん〜?コンティくん、今なんて言ったの〜?」
「な、なんでもない!お姉さんは……最高のお姉さん……へへへ……」
セリヤは彼の頭をそっと撫で、優しく言った。「ふふ、コンティかわいいわね。」
彼はため息をつき、微笑んだ。
これが、母以外の女性に手を握られた初めての体験だった。
手のひらに汗をかき、指先を少し絡ませながら、不器用に歩く。
「コンティ、手汗かいてるけど、緊張してるの?」
セリヤは振り返り、手を揺らして問いかける。
コンティは顔を赤らめ、小さく答えた。「ううん……ママ以外の人と手を握るの初めてだから……小さいけど緊張してるんだよ……」
「なるほど〜、コンティくん、意外と考え深いのね〜」
彼女は悪戯っぽく笑い、さらに手をしっかり握る。
コンティはもっと赤くなり、「も、もちろんだよ……」
セリヤはもうからかわずに、手をつなぎ市場へ歩みを進めた。
しばらくすると、前方から女の子の泣き声が聞こえた。
「コンティ、先に市場に行くのはあとにしよう。その子を助けたいの。」
彼女は振り返らず、そっと手を引き、声のする方へ進む。コンティは一瞬戸惑った——ママは家にいるけれど、その泣き声は無視できなかった。
「コンティ、助けなくてもいい。選ぶのは君だから。」
セリヤは優しく言った。「でも覚えてる?あの時、私がアイスを買えなかったのを、君とセリナさんが手伝ってくれたよね。あの時すごく嬉しかったんだよ。」
コンティは一瞬固まり、そして笑った。
選択はどうであれ、誰かが一緒に歩いてくれると、彼は知っていた。
セリヤは振り返ろうとしたが、コンティが自ら手を握り返し、歩幅を早め、少し彼女を引っ張って前へ進んだ。
セリヤは横顔のコンティを見つめ、あの友達、記憶の中だけに存在する少女を思い出す。
「コンティ、ちょっと急いで自分を見せたくなっちゃったの?」
彼女は笑いながら尋ねる。
コンティは赤くなり、口ごもった。「そ、そんなことないよ……」
セリヤは肩を軽く叩き、腕を優しく絡ませながら言った。「じゃあ、行こう。あの子を助けに。」
午後の風がそよぎ、二人の影は並んで伸び、泣き声の方へ向かっていった。
最近は食事制限であまり創作の気力がなくてごめんなさい。多分誰もこの章を読まないかもしれませんが、それでも謝りたくて…」




