序章(じょしょう):未来、現在、そして消えた過去
えへへ……これ、物語の後に出すプロローグみたいになっちゃって、自分ちょっとドジだなあ。
それと、よかったら皆さん助けてください。やっぱりプロローグを一番最初に置きたいんです。
激しい炎が頭上を掠めた。熱の名残りが肌を撫で、まるで無数の魂を刈り取っていくかのようだった。焦げた肉と焼けた髪の匂いが混じり合い、脂っこく鼻を刺す。煙のように喉へまとわりつき、息をするだけで肺の奥まで汚される気がした。
だが、次の瞬間。
その匂いは嘘みたいに消え去った。叫び声も、残骸もない。ただ、乾ききってひび割れた大地だけが広がっている。
遠方に、眩い半透明の炎の巨人が姿を現した。巨人はゆっくりと掌を掲げ、その上に黄金の鎧を纏った屈強な男が立っている。巨人の足元には統制の取れた大軍。先頭には将軍が一人。巨人の掌の男ほど目立ちはしないが、その全身を走る無数の傷は、見た者に恐怖ではなく異様な静けさを思わせた。獣人の象徴である耳も、半分削がれている。
軍は、先ほどの火球が飛び去った軌跡を追って進軍する。火球の通った場所では、余熱だけで草木も獣も焼き尽くされ、人々もまた数え切れぬほど命を落としていた。
炎が平地へ迫り、対峙する集団へ届こうとした、そのとき。
闇紫の裂け目が空間に走り、口のように開いた。裂け目の奥から巨大な顎がせり出す。無数の牙、滴り落ちる涎。異形の巨獣は火球をひと噛みで飲み込み、その直後、死んだ。裂け目は不自然なほど滑らかに閉じていく。
炎の巨人の掌に立つ男は眉を寄せ、低く呟いた。
「……反乱軍の“狂犬隊”か。なら、筋が通る……」
巨人はもう一方の手を持ち上げ、掌に太陽のように灼熱の火球を凝縮させる。だがその瞬間、男のポケットで魔導具が鳴った。円盤状の装置を取り出すと、投影されたのは前線の将軍の姿だった。
『大人! 向こうが使者を寄越しました。通信用の魔導具を携えています!』
「分かった。上げろ」
炎の巨人が掌を下ろし、将軍の前へ。使者はその掌へ踏み込み、“王”を見上げた。目の光がどこか壊れている。だが狂気こそが、彼らの証なのだろう。使者が差し出した魔導具が起動し、褐色の肌をした狂乱の男の像を映し出した。
『太陽。俺の軍の半分を焼いたんだ。そろそろ終いにしようじゃねぇか?』
「狂犬。俺が気づかないとでも?」
太陽と呼ばれた男は薄く笑う。
「軍だと? 怒ると? あれはお前が掻き集めた貧民だろう」
像の男は怒りで目を吊り上げた。だが太陽は声を上げて笑い出す。狂犬は一瞬呆気に取られ、それから同じように笑った。笑いは次第に、壊れたような調子へ変わっていく。
『はははは! そうだろ、太陽! 分かってんだろ!』
狂犬の笑みは歪む。
『その“驚き”でお前が怒ると思ったのによ』
「怒り?」太陽は肩をすくめる。
「なぜ俺が。俺たちは同類だ。焼く、奪う、踏み潰す。それで陣営が強くなる。何を憤る理由がある?」
太陽が嘲るように笑うほど、狂犬の笑いはさらに狂っていった。
『そうそう。驚きはそれだけじゃねぇ』
狂犬は愉快そうに首を傾げる。
『なんで俺がお前らをここに誘い出したか分かるか? その間に、合流部隊が“お前らの糧食”を叩けるからだ』
太陽の表情が凍った。さっきまでの軽さが、瞬時に消える。彼は魔導具を握り潰した。
同時に、使者が左手に爆ぜるような力を凝縮させる。
だが、油と焦げが混じったような不快な匂いがふっと漂い、次の瞬間には消えた。使者の左腕は、いつの間にか根元から失われていた。
太陽は掌の火球を投げ放つ。まるで本物の太陽そのもののような灼熱が、狂犬の一団へ落ちていく。だが命中の直前、彼らの足元から墨を流したような灰色の液体が噴き上がり、一瞬で全員を呑み込んだ。影も形も残らない。
火球はそのまま大地へ叩きつけられ、炎に焼かれた深い穴を穿った。
「……くそ。戻らねぇと」
太陽は別の魔導具を取り出し、軍へ退却命令を出そうとする。だがそこへ、別の通信が割り込んだ。発信者は「愚者」。
投影されたのは一人の女だった。細身の体に、腰の両側には異様な形の短剣。背後では、数人の狂った男たちが、ある女へ目を覆いたくなる行為を続けている。
『太陽様。後方補給にネズミが紛れ込んでいました』
愚者は商談でもするみたいに軽い声で言う。
『私が片付けておきました。もちろん、タダではありません。悪魔から“改造獣”を少し融通してもらってください』
「助かった。手配しよう」
太陽は怒りを飲み込み、声を冷やす。
「ただし『世界』様の命には従え。民は傷つけるな」
通信は切れた。
太陽は力なく、巨人の掌へ腰を落とす。やがて炎の巨人はゆっくり縮み、霧散するように消えていった。地面へ戻ると、太陽は軍の一部へ命じた。
「いつも通り、戦場を整理しろ。捕虜は悪魔のところへ連れて行け。ついでに改造獣も受け取ってこい」
少し離れた場所では、傷だらけの老人が一歩ずつ町へ向かっていた。さらに遠く、家族を乗せた馬車が静かに進む。
そして別の場所。
背の高い男が、人波に紛れて大通りを歩いていた。




