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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
95/128

episode95「Another princess-7」

「ッもう! 何なんだよさっきから!」

 目の前の兵士を殴り倒し、すぐさま背後のエプロンを付けた中年男性へ目を向け、ニシルは中年男性へ右肘を叩き込む。中年男性が呻き声を上げてその場へ崩れたのとほぼ同時に、剣を持った兵士がニシルへ切りかかってきた。

「くそ……ッ!」

 避けきれない。そう判断したニシルは、神力で高熱を帯びた右手を剣へと突き出した。右腕へ激痛が走ったが、ニシルは歯を食い縛ってそれに耐える。

 兵士の持っていた剣はドロリと融解し、液化して地面へポタポタと落ちていく。そんな光景を前にし、呆気に取られているその兵士の顔面に、ニシルは容赦なく左拳を叩き込んだ。

「何でこんなに……ゲルビア兵達が……!」

「兵士だけじゃありません! 町の人々も混じっています」

 殴りかかってきた青年を殴り倒しつつ、カンバーはニシルへそう言った。

「チリーならともかく……何で僕達まで……?」

「もう長いことあのメンバーで旅をしていますからね……俺達の顔が向こうに割れていても、おかしくはないです」

 最後の一人になった兵士に対して、カンバーは事もなげに裏拳を叩き込み、小さく溜息を吐いた。

「宿屋の人や、町の人達が妙に冷たいのは多分、元々彼らが俺達を『敵』と見なしていたからでしょう。遅かれ速かれ、こうして襲撃をかけるつもりだったのかも知れません」

「ミラル誘拐説……有力かもね。コイツらが襲ってきたのと、ミラルが消えたのが同じくらいってのがどうも引っかかるよ……。もしかするとコイツら……」

「ミラルさんを、俺達に奪還させまいとしている、ということですか?」

 ニシルの言葉を続けるようにしてそう言ったカンバーへ、ニシルはコクリと頷いて見せた。

「とにかく、雑木林へ急ぎましょう。ミラルさんが心配ですし、それに――」

 ――――そこの眼鏡君にどうしても会いたいって奴がいてな……。

 あの時のマリオンの言葉を反芻し、カンバーは顔を強張らせた。

 ――――俺に……会いたい人?

 ふと、昨日の昼間に見た金髪の女性の姿がカンバーの脳裏を過った。

「とにかく、急ぎましょう」

 カンバーの言葉にニシルが頷いたのを、確認すると、カンバーは足元に倒れる兵士や町民を避けつつ、再び走り始めた。



 町外れの雑木林の中に、確かにその建物はあった。歪に見える程綺麗に整った正方形の白い建物で、木々が立ち並ぶその風景と、その建物はあまりにも不釣合いだった。

 そしてその建物の前に、二人の男女が立ちはだかるようにして立っていた。

 ニシルとカンバーは、建物の場所へ辿り着くと同時に、その二人を凝視しつつピタリと足を止めた。

 一人は、長く美しい金髪を持った女性で、踊り子のような露出の多い服装をしている。昨日の昼に、カンバーとミラルが見かけた女性だった。

 そしてもう一人は――

「まさか……貴方……ッ」

 表情に驚愕の色を映すカンバーを見、その青年は小さく口元を釣り上げた。短髪の、あまり特徴のない顔立ちをした青年だった。青年――というよりは、あどけなさの残るその顔はどちらかというと少年に近い。風に短い黒髪を舞わせつつ、青年はカンバーへ視線を向けたまま動かそうとしなかった。

「久しぶりだね。何年ぶりかな」

「カンバー……知り合い?」

 そう問うてきたニシルへ、カンバーは何も答えない。ただひたすらに、青年を凝視している。

「リエイも挨拶しなよ。お前の大好きなヒトだろ?」

 どこか皮肉めいたものが込められた口調でそう言いつつ、青年は隣にいる女性――リエイに対して顎で合図した。

「……カンバー……」

 ボソリと。呟くような声量でそう言ったリエイの表情は、どこか寂しげであった。

「リエイ……」

 お互いの名前を呼び合ったカンバーとリエイを交互に見、青年はフンとつまらなさそうに鼻を鳴らした。

「ねえ、カンバー! どういうことなんだよ! 何でコイツら、カンバーのことを……」

「懐かしいな、昔はこうしてよく三人で会ったよね」

 まるでニシルの存在を無視しているかのような青年の発言に、ニシルは顔をしかめた。

「クルス……」


「ねえ、兄さん」


 そう言って笑みを浮かべる青年――クルスに、ニシルは表情を驚愕に歪めた。





「がッ――――」

 鳩尾に拳を叩き込まれ、呻き声を上げるトレイズに、マリオンはニヤリと笑みを浮かべると、すぐさまトレイズの前から姿を消し――

「またか……!」

 瞬時にその背後へ現れた。

「遅ェ!」

 背後から蹴り飛ばされ、トレイズは前へつんのめる――が、踏み止まると同時に振り向き、マリオンへと右手をかざす。瞬時に形成された氷弾は、マリオン目掛けて発射されたが、その頃には既にマリオンはその場からかき消えていた。

 舌打ちし、トレイズはバックステップで後退すると、その右手に氷の剣を出現させる。

「弾でも剣でも無駄だよバーカ! お前じゃ俺は捕らえられない!」

 トレイズの前方に現れたマリオンは、余裕の表情を浮かべつつ、トレイズへそんな言葉を浴びせた。トレイズはその言葉に答えようともせず、険しい表情を浮かべてマリオンへ剣できりかかる。

「だから意味ないって」

 だが、トレイズの剣がマリオンへ当たる直前で、マリオンはその場から姿を消した。

「ッ――!」

 即座に振り向き、身構えるトレイズだったが、トレイズの予想に反して、そこにマリオンはいなかった。

「なんちゃって」

 おどけた声音が、トレイズの背後から響く。その声にトレイズが振り向いたのとほぼ同時に、トレイズの頬へマリオンの拳が食い込んだ。その強烈な一撃に、トレイズはそのまま吹っ飛び、数メートル先で倒れた。

「やめときなって」

 肩をすくめてそう言ったマリオンを意に介さぬ様子で、トレイズはすぐに立ち上がると同時に、左腕を横に振る。すると、氷弾が数個出現し、マリオン目掛けて飛ばされた――が、やはり氷弾がマリオンへ近づいた時には既に、マリオンはその場から姿を消していた。

「おおおおッ!」

 しかしトレイズは即座に、舞うようにして剣を振り、その場で一回転した。自分の四方のどこかにマリオンが現れて反撃してくると予想したのだろう。しかし、その予想は外れることになる。

「上だ」

「――――ッ!?」

 突如上空から聞こえる声に、トレイズは上を見上げると、そこには右足をこちらへ突き出しつつ急降下してくるマリオンの姿があった。すぐにトレイズは後退し、マリオンの右足を回避する。

 着地したマリオンは、舌打ちをしはしたものの、その表情は悠然としていた。

「……厄介だな」

 呟き、トレイズはマリオンを睨みつけた。

 マリオンの能力は、瞬間移動。どの程度の範囲が有効なのかはわからないが、マリオンは好きなタイミングで、好きな位置に瞬間移動することが可能なようだった。恐らく、テイテスで王――アレクサンダーを、誰にも気付かれることなく城の外に運び出したのはこの男だろう。

 トレイズの瞳に、憎しみの色が映し出された。

「やめとけよ。お前の能力じゃ、俺には太刀打ち出来ない」

「それはどうかな……」

 小さく笑みを浮かべ、トレイズが再び左腕を広げ、神力を使おうとした――その瞬間だった。

「……ッッ……ッ!」

 突如、トレイズの両目に激痛が走った。両目を押さえ、その場で悶え始めるトレイズに、マリオンはクスリと笑みをこぼした。

「何だ……これはッッ……!」

 筆舌し難い苦痛に、トレイズは掠れた声で言葉を紡ぐ。

「拒絶反応」

 ボソリと。呟くようにしてマリオンはそう言った。

「神力とは元々、人体とは相容れない物。その神力が強力であればある程、人体と拒絶反応を起こし、身体機能を奪う可能性が高くなる」

 マリオンの言葉に、トレイズはアルケスタの研究所で見た、ラウラの手記を思い出す。

 ――――神力の力が強ければ強い程、その力は肉体と拒絶反応を起こし、身体機能を奪う可能性があり、最悪の場合死に至る場合すらある。

 あの手記に書かれていた「拒絶反応」とは、このことだったのだ。もしそうなら、ヴィカルドでの戦闘中、ニシルに起こったことにも納得がいく。

 ニシルが激痛を訴えていたのは、拒絶反応のせいだったのだ。考えて見れば、ニシルの神力――熱の能力は非常に強い。ニシルの話によれば、鉄でさえ一瞬で溶かしてしまう程の熱量を発することさえ出来るらしいのだ。ラウラの手記と、マリオンの言葉が本当なら、拒絶反応が起きないわけがない。

 そしてついに、トレイズにも拒絶反応が起こった、ということらしい。

「お前の場合は目か」

 マリオンはそう言いつつ、トレイズへ近寄り――

「がァッ……!」

 トレイズの腹部へアッパー気味に右拳を叩き込んだ。

「目どころか、全機能を停止させてやるよ」

 ニヤリと。マリオンが笑んだ。

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