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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
94/128

episode94「Another princess-6」

 ミレイユと共に飛び出したチリーを捜して、ニシル達三人は既に日の落ちた町の中を走っていた。既に暗くなっているせいか、外を歩いている人間はニシル達以外には一人もいないようだった。

「アイツ……どこ行ったんだよ……?」

「ミラルさんの靴が落ちていた場所にでも戻ったんでしょうか……」

 メインストリートへ到着したところで一旦足を止め、キョロキョロと周囲を見回しながらそう言ったニシルに、カンバーは眼鏡の位置を人差し指で直しつつそう答える。

「それにしてもこの町……どうにも雰囲気が変だな……」

 訝しげにトレイズがそう言うと、カンバーはそれに対して静かに頷いた。

「宿のこともそうですし、まるで俺達を敵視しているかのような……そんな雰囲気を感じます。今だって、視線を感じますし……」

「そだね……何か嫌な感じだよ、この町」

 ニシルはそう言って嘆息し、額の汗を右手で拭った。

「町全体が敵、ですか」

 カンバーがそう呟いた――その時だった。

「その通りだ」

「――――ッ!?」

 突如、カンバーの目の前に一人の男が出現する。歩いてきたのでも、走ってきたのでもない、無論、上から降ってきたわけでも下から沸いてきたわけでもない、唐突にその男はカンバーの前に姿を現したのだ。

 トレイズより頭一つ分程小さい男だった、面長の顔に笑みを浮かべ、男はカンバーの頭部目掛けて右回し蹴りを放つ。

 カンバーは咄嗟に反応し、左腕でその蹴りを防いで弾き、男からバックステップで距離を取る。

「貴方は……?」

「ん、俺か?」

 悠然とした笑みを浮かべ、自分を指差すその男を、トレイズの鋭い視線が射抜いた。その視線に気付き、男はすぐにトレイズの方へ視線を向ける。

「貴様は……ッ」

「ああ、お前テイテスの……」

 トレイズを指差し、納得したように頷いた男へ右手をかざし、トレイズは容赦なく氷弾を放った――が、氷弾が発射された方向には、既に男の姿はなかった。

「焦るなよ」

「な――ッ!?」

 不意に背後から聞こえる男の声に、トレイズは驚愕の声を上げつつすぐさま振り向いた。男は何もせず、トレイズに対して悠々と笑みを浮かべて見せているだけだった。

「瞬間……移動……ッ!?」

 目を丸くしつつそう言ったニシルに、男はその通り、とおどけた様子で答える。

「俺も一応神力使いでね……瞬動のマリオンとは俺のことさ」

 マリオン、と名乗ったその男に、トレイズは先程よりも一層鋭い視線を向けた。

「やはり貴様……王を攫った二人の内の一人かッ!」

「久しぶりだなぁ、お前何てんだっけ? まあいいか、お前の名前なんかどーでも」

 嘲るように笑みをこぼした後、マリオンはチラリとカンバーへ視線を向けた。

「ここから真っ直ぐ進んでいけば町外れに雑木林がある。そこにちょっとした建物がある……姫さんはそこにいるぜ」

「姫さん――ミラルさんのことですかッ!?」

 カンバーの言葉に、マリオンはああ、とだけ答えて頷く。

「何でそんなこと教えるんだよ!?」

「お前はともかく、そこの眼鏡君にどうしても会いたいって奴がいてな……。そいつがそこで待ってる。それに、いったところでニコラスにぶっ殺されるだけだよ、お前らは」

「ニコラス……アイツがいるのかッ!」

 ――――新人類ニューピープルです。

 東国の地下洞窟で出会ったニューピープル……相手の能力を無効化する能力を持つあの男が、その建物にいる、というのか。

「カンバー……!」

 ニシルに対して、カンバーはコクリと頷いて見せる。

「トレイズさん、ここをお任せしてもよろしいでしょうか?」

 申し訳なさそうにそう言ったカンバーへ、トレイズは微笑を浮かべた。

「元からそのつもりだ……行け」

 二人へ顎で合図すると、すぐにトレイズはマリオンへ視線を戻した。

「ありがとうございます」

「サンキュートレイズ!」

 トレイズへ礼の言葉を告げると、ニシルとカンバーは急いで町外れの雑木林へ向かって走り出した。その背中を見送ることもせず、トレイズはマリオンを睨み続ける。

「テイテスでの借り……返させてもらうぞッ!」

 瞬間、トレイズの手に氷の剣が形成される。冷たく、美しいその透き通った剣に、トレイズの瞳が映り込む。決意に満ちたその瞳は、復讐の色を宿しているようにも見えた。

「行くぞ」

 静かに告げ、トレイズはマリオン目掛けて切りかかった。





 ミラルの靴が落ちていた場所に、チリーとミレイユは辿り着いていた。何か他に手がかりがないかと思い、チリーはこの場所を訪れたのだが、どうやら何もないらしく、チリーは小さく舌打ちをする。

「クソッ……何もねえな……」

 周囲を何度も見渡しつつ、ローブのフードを外し、チリーはそう悪態を吐いた。

「そんなに、大切ですの?」

 不意に、チリーの後ろにいたミレイユが口を開いた。

「あ? 何がだ?」

 そう問い返して、すぐにチリーはそれがミラルのことだと気がついた。

「ミラルのことか……」

 静かに、ミレイユはチリーの言葉に頷いた。

「大切だよ。スッゲー大切だ。俺にとっても、皆にとっても」

 ニッと笑みを浮かべてそう答えたチリーへ、ミレイユは切なげな視線を向けたが、すぐに視線を足元へ落とした。

「……羨ましいですわ」

「ミラルがか?」

 小さく、ミレイユは頷いた。

「私には……私のことをそんな風に思って下さる相手なんて……いませんもの」

 そんなことねえだろ、と言いかけたチリーの言葉を制止するかのように、ミレイユはそのまま言葉を続けた。

「所詮私は偽物。王女ミラルではなく養子ミレイユですわ。偽物なんかが、愛されるハズがありませんもの……。お父様だって、そう……私をミレイユとしてではなく、王女ミラルとしてしか見て下さらないの……」

 私は、代用品。そう呟いて、ミレイユは更に言葉を続ける。

「ミレイユなんてどこにもいませんわ……いるのは本物ミラルと、偽物ミラルだけ……」

 今にも消え入りそうな声音でそう言ったミレイユの頭に、チリーはポンと自分の右手を置いた。そこから感じたチリーの温もりに、ミレイユは少しだけ表情を明るくし、チリーへ視線を少しだけ向けた。

「関係ねえよ。お前はお前だろ」

「私は……私?」

 ミレイユの問いに、チリーはおう、と頷いて見せる。

「本物とか偽物とか、関係ねーだろ。お前はミレイユで、ミラルはミラルだ。大体お前ら別人じゃねーか……お前は代用品ミラルじゃなくて、ミレイユだろ?」

 チリーのその言葉に、ミレイユの頬を涙が伝った。

「そんな……っそんなっ……こと……」

 言われたことありませんわ。チリーには聞こえないような小さな声で、ミレイユはそう呟いた。思わずボロボロとこぼれ落ちる自分の涙を、ミレイユは必死になって袖で拭うが、袖が涙で濡れるばかりで、涙は一向に止まろうとしなかった。

「お、おい……泣くなよ……」

 突然泣き始めたミレイユに、チリーはどうすればわからず困惑した様子を見せた――――が、すぐに表情を一変させ、ミレイユを自分の後ろに追いやって身構える。

「テメエら……」

 チリーがそう呟いたのとほぼ同時に、建物の陰から何人もの兵士や町民達がぞろぞろと現れ、あっという間にチリーとミレイユの周囲を取り囲んでしまった。

「何だ……何なんだテメエらはァッ!?」

 そう問うたチリーへ、チリーの正面にいる兵士は表情一つ変えずに銃口を向けた。

「――――ッ!」

 すると、一斉に他の兵士達も銃を構え、チリーへ銃口を向ける。町人達も、フライパンや斧、様々な鈍器や凶器を構えてチリーへ冷たい視線を向けている。

「チリーだな」

「だったらどうだってんだ!? あァ!? 先にこっちの質問に答えやがれッ! テメエら一体何なんだッ!?」

 チリーの言葉には、誰一人として答えなかった。ただただ冷たい視線を、チリーに浴びせ続けるだけだった。

「ンだよだんまりかよ……ふざけやがって……ッ!」

 神力を発動させて大剣を出現させるべく、チリーは右手を前に伸ばした――

「やめておけ」

 が、それを制止するように正面の兵士はそう言い、銃を構え直した。

「我々の発砲のほうが遥かに早い。貴様は包囲されている」

「テメエら……俺を殺して賞金もらおうって口かい?」

「我々アクタニアの民一同、国王陛下から直々の命を受け――貴様を殺害する」

 兵士の言葉に、チリーはギシリと歯軋りをする。

「道理でおかしいと思ったぜ……最初ハナっからこの町全部――」

 敵だったってことかよ。

 そう呟き、チリーは拳を握り締めた。

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