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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
90/128

episode90「Another princess-2」

「結局、どこも空いてなかったわね……」

 溜息を吐きつつ、ミラルはベンチへ座り込んだ。ミラルとカンバーは、空いている宿を探していたのだが、どこも同じで「どの部屋もいっぱいだ」とぶっきらぼうに答えられてしまった。

 探し疲れたミラル達は、一旦待ち合わせ場所の広場で休むことにしていた。野宿続きな上に宿が見つからないせいで、ミラルとカンバーの表情には疲労の色が伺える。

「まるで口裏を合わせているかのようですね……」

 ミラルと同じように溜息を吐きつつ、カンバーはミラルの隣へ座った。

「ねえカンバー……アレ」

 不意に、広場の中央にある噴水の方へ視線を向けたミラルが、隣に座っているカンバーの右肩を叩く。

「何です?」

「あの人……すごく綺麗」

 ミラルの指差した先には、一人の女性がいた。彼女は踊り子のような露出の多い服装をしており、両手には扇子を持っていた。

「――ッ!」

 その彼女の姿に、カンバーは眼鏡の奥の瞳を驚愕の色に染めた。そんなカンバーの様子には気付かず、ミラルは女性をうっとりとした表情で見つめている。

 彼女は背中まで伸ばした長い金髪を舞わせながらクルリと回転し、両手の扇子を開く。そしてそのまま華麗に、彼女は舞い始めた。

 軽やかな動きでステップを踏み、扇子と金髪を舞わす彼女の姿は、同じ女性であるミラルから見ても魅力的な程に、美しかった。

 広げられた扇子は、まるで翼を開いた孔雀の如き美しさだった。

 足。腕。足首。手首。首。腰。彼女のどの部分の動きも、軽やかで美しく、見るものを魅了する。いつの間にか、彼女の周りには人が集まっていた。

「すごい……」

 驚嘆の声を上げるミラルの隣で、カンバーは目を見開き、舞い続ける女性を凝視していた。

「リエイ……」

 ボソリと。呟くように、カンバーはそう言った。

「あ、終わっちゃった……」

 舞い終えた女性は扇子を閉じると、ペコリと一礼した。そんな彼女へ、集まっていた人々が盛大な拍手を送っている。カンバーの隣では、ミラルも彼女に対して惜しみない拍手を送っていた。

「間違いありません……」

 勢いよく、カンバーは立ち上がる。すると、女性はカンバーに気がついたのか、チラリとカンバーの方へ視線を向け――一瞬、驚いたように顔を少しだけ歪めた。

「リエイッ!」

 カンバーが、彼女の元へ駆け寄ろうとした時だった。

「おーい! ミラル! カンバー!」

 二人の方へ、チリーとニシルが駆け寄ってくる。が、チリーとニシルの二人だけではなく、彼らの後ろには一人の少女がいた。

「チリーさん、ニシルさん……」

 二人の方へ目をやり、彼らの後ろにいる少女に、カンバーは訝しげな視線を向けた。が、すぐにカンバーは先程の女性がいた方向へ視線を向ける。

 しかし、そこには既に彼女の姿はなかった。集まっていた人々も、少しずつ散り散りになっていく。どうやら彼女は、もうこの広場を立ち去ったようだった。

 小さく溜息を吐き、カンバーは再びチリー達の方へ視線を向けた。

「スゲー奴にあったんだよ!」

 興奮気味の様子で、チリーは後ろにいる少女を指差した。

「スゲー奴って、その後ろにいる女の子のこと?」

 ミラルのその問いには、ニシルがチリーの代わりにうん、と答えた。

「あの、わたくし……」

 少女はそう言いつつ、チリー達の前に出て来る。そんな彼女の顔を見、ミラルはえっ、と声を上げた。

「ミレイユ、と申します」

 鏡を見ているかのような錯覚に、ミラルは襲われた。ミレイユと名乗った目の前の少女は、髪型こそ少し違うものの、それ以外はミラルと瓜二つだったからだ。目元も、鼻も、口元も、寸分違わず同じ顔であるように見える程、彼女はミラルとソックリだった。ミラルが毎朝手鏡で見ている顔と、何ら変わりがないのだ。

「私、チリー様にお会いするためにこの町へ来たんですのっ!」

 そう言って頬を赤らめると、ミレイユはすぐさまチリーへと抱きついた。

「ちょ、お、うわッ」

 そう声を上げてはいるものの、チリーはまんざらでもなさそうに口元を釣り上げている。

「ちょ、ちょっとアンタ! 何してんのよ!」

「スキンシップですわっ」

 怒りの声を上げるミラルに対して、しれっとそう答えたミレイユは、チリーの胸に顔を埋めると幸せそうに言葉にならない声を上げた。

「す、スキンシップって……いいから離れなさいよ!」

 ミラルの言葉には答えず、ミレイユはひたすらチリーの胸へ頬ずりを続ける。

「アンタも……デレーっとした顔してないで、何とかしなさいよっ!」

「え、何を?」

 呆けた顔でそう答えたチリーの右足を、ミラルは立ち上がるのとほぼ同時に踏みつける。

「痛ェッ! 何すんだよッ」

「アンタこそ何してんのよっ!」

 そんな三人の様子を眺めつつ、カンバーはわけがわからない、とでも言わんばかりの表情で嘆息する。

「ニシルさん……どういうことなんですか?」

 カンバーの問いに、ニシルはさあ、と肩をすくめて見せる。

「僕にも何が何だか……」

 ミレイユ、と名乗った素性不明の彼女は、チリーのことを知っているらしく、出会ってすぐにチリーへ抱きついた。何でも、チリーに会うためにこのアクタニアへ来たらしいのだが……彼女は何故チリーがアクタニアへ来ていることを知っているのか、そもそも彼女は何故、チリーのことを知っているのか。わからないことだらけだというのに、彼女はニシルがいくら質問しても答えず、ただひたすらにチリーへ擦り寄っているのだった。

「クソ……なんかすごい腹立つなぁ、あの光景」

 チリーに抱きつくミレイユ、それを見て顔を真っ赤にして怒るミラル、そしてまんざらでもなさそうなチリー。ニシルは無意識の内に、眉間にしわが寄っていた。

「わけがわかりませんね……」

 リエイのことも。と付け足し、カンバーは再びベンチへ座り込んだ。

「あ、トレイズだ」

 そうこうしている内に、彼らの元へトレイズが歩いてくる。

「宿が見つかったぞ」

「え、ホントに!?」

 嬉しそうにそう言ったニシルに、トレイズはああ、と小さく答えた。

「町の隅にあるボロ宿だが、まあ野宿よりはマシだろう」

「うん、マシ! かなりマシ! じゃあ、ベッドで寝れるんだよね!?」

 興奮気味のニシルに、トレイズは微笑しつつ小さいがな、と答えた。

「それより……」

 訝しげな表情をし、トレイズはチリーとミレイユの方へ視線を向けた。相変わらず先程と同じようなやり取りが繰り広げられており、チリーは痛がったり嬉しがったりと、表情が目まぐるしく変わっていっている。

「うぅん……とりあえず説明は宿に行きながらで良いかな……?」

「……ああ」





 確かにその宿は、トレイズの言う通り「ボロ宿」だった。アクタニアの隅の方にある宿で、泊まっている客はチリー達を除けばゼロ。建物自体があまり大きくなく、部屋の数も少ないようだった。ある程度手入れはされているものの、やはり所々老朽化しているように見える。そんな宿の中に、五人用の部屋があるというのだから、少し驚きだった。てっきり、ニ、三人しか入れない部屋が何部屋もあるだけなのかと、チリー達は思っていたのだが、この宿は五人部屋や八人部屋など、大人数で泊まれる部屋ばかりだった。

「で、この五人部屋にしたのね」

 綺麗にしてはあるものの、お世辞にもフカフカとは言えないベッドの上に腰掛け、ミラルはそう言った。

「ああ。それよりも……」

 チラリと。トレイズはミレイユの方へ視線を向けた。

「一緒に泊まるつもりか?」

 トレイズの問いに、ミレイユは当然ですわ、としたり顔で答えた。

「ここ、五人部屋なんだけど」

 冷たく言い放ったミラルには反応しようともせず、ミレイユは別のベッドに腰掛けているチリーへ再び抱きついた。

「って人の話聞きなさいよ!」

「チリー様もふもふ」

「もふもふじゃないわよ! そうやってすぐチリーに抱きつくのやめなさい!」

 怒鳴るミラルとは裏腹に、チリーはデレーっとした表情で天井を見つめている。

「もふもふかぁ」

「アンタも……ふざけたこと言ってないでその子から離れなさいっ!」

 再び繰り広げられるチリー争奪戦に、ニシルは呆れ顔で、今日何度目ともわからない溜息を吐いた。

「チリー、僕らからの話は聞いてくれそうにないから、チリーからその子に色々聞いてみてよ」

「ん、ああ。それもそーだな」

 ニシルの言葉にそう答えると、チリーは抱きついてくるミレイユを一旦身体から離した。

「なぁ、お前一体何者なんだ? 何で俺のこと知ってんだ?」

「私ですか?」

 キョトンとした表情でそう問い返すミレイユに、他に誰がいるのよ、とミラルが悪態を吐く。

「チリー様のことは、お父様からお聞きしましたの。我がゲルビア帝国にあだなす不届きな輩だと、お父様は仰いました」

「その、お父様ってまさか……!」

 ニシルの言葉に、ミレイユはコクリと頷いた。


「はい、私の父……お父様は、ゲルビア帝国国王、ハーデンですわ」


 その瞬間、その場にいた全員が驚愕に表情を歪めた。

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