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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
9/128

episode9「Beginning-4」

 叫んだのは良いが、状況は何も変わっていない。ただでさえ二人がかりで倒せないというのに、今回は武器まで装備している。丸腰で勝てるとは到底思えない。

 何か武器でもあればまた別なのだが、いくら様々な物が流れ着いているとはいえ、武器として使えそうなものはこの砂浜にはなかった。

 木の枝などなら数本あるのだが、こんなものでは剣に対抗するのは不可能だろう。

「親父……一つ、聞いて良いか?」

 チリーの問いに、キリトはコクリと頷く。

「何でそうまでして反対するんだ?」

 チリーの言葉に、キリトは数秒黙り込む。

「親父?」

「約束……だからだ」

「……え?」

 最初の方がうまく聞き取れず、聞き返すがキリトは繰り返さなかった。

「お前達を……島の外に行かせる訳にはいかない」

 スッと。キリトはチリーに剣の刃先を向けた。その刃先を、チリーはキッと睨みつけた。

「引くつもりはねえ。俺は、王様を捜しに行くッ!」

 叫び、チリーはキリト目掛けて駆け出した。

 それに合わせて後方でニシルもキリト目掛けて駆け出している。

「……来いッッ! 二人共!」

 剣を構えたキリトの間合いギリギリまで近づくと、チリーは地面を勢いよく蹴り、高く跳躍した。

「ッ!?」

「おおおおおッ!」

 キリトの頭上で拳を振り上げ、一気にキリト目掛けてチリーは下降する。

 キリトは迫って来るチリーの拳を、剣の刀身で防いだ。チリーがかなりの勢いで下降してきているため、腕では防げないと判断したからだ。

「今だッ!」

 チリーが叫ぶと同時にキリトが振り向くと、後方からニシルがキリトの方へと突っ込んできていた。

「甘いッ!」

 キリトは刀身でチリーの拳を防いだまま上に振り上げた。

「うわッ!」

 そのままチリーは飛ばされ、受け身を取り損ね、キリトの目の前でドサリと倒れる。

 素早くキリトは剣を持ち替え、背後から迫るニシルの顔面に、右腕で裏拳を喰らわせた。

「が……ッ……ッ!」

 モロに喰らい、ニシルはそのまま仰向けに倒れた。

「糞ッ!」

 チリーが身体を起こしたその時だった。

 小気味良い、風を切る音と共に剣が振られ、チリーの顔に剣の刃先が向けられた。

 ピタリと。動かそうとしていた身体を、チリーは止めた。

「いい加減にしろ」

「チリーっ!」

 遠くからミラルの悲鳴が聞こえてくる。

「もうやめにしないか? チリー」

 静かに、キリトが問う。

 向けられた刃先を凝視し、ゴクリと。チリーは唾を飲み込んだ。

「これ以上続けても、お前達が傷つくだけだ……。諦めろ」

 親としての……忠告。チリー達の身を案じての言葉であることは明白であった。

 しばらく沈黙したが、すぐにチリーはニヤリと笑い、舌を出した。

「嫌だね」

「何……?」

 その言葉に、キリトは顔をしかめる。

「俺は絶対外を見に行く……! 大量に土産話持って帰るから、親父は家で待ってろよ!」

「チリィィィィッ!」

 キリトが、剣を勢いよく振り上げた。

 ここまでするとは思っておらず、チリーの表情に驚愕の色が浮かんだ。

「「チリーッ!」」

 起き上がったニシルと、遠くで見つめているミラルが同時に叫ぶ。

 ミラルは我慢しきれずにチリー達の方へ駆け出した。しかしそれでも、キリトは剣を振り下ろした。チリー目掛けて、だ。

 感情の昂りが、キリトの判断を狂わせた。剣を、振り下ろさせたのだ。

 目を閉じ、顔を背け、チリーは拒絶するように両手をキリトに突き出した。


 その時だった。


「な――――ッ!?」

 聞こえてきたのは驚愕するキリトの声と、耳を劈く金属音だった。

「これは……ッ!」

 ニシルもミラルも驚愕し、チリーとキリトを凝視している。

「え……?」

 チリー自身も驚愕の色を隠せず、目の前の光景にただ呆然としている。

「神力……ッ!」

 キリトの剣からチリーを守ったソレは、チリーの身の丈程もある大剣であった。

 その巨大な刀身で、キリトの剣を防いでいる。

 チリーは大剣とキリトとを交互に見、今の状況をチャンスと判断すると大剣を振ってキリトの剣を弾いた。

 大剣は見た目の割に軽いらしく、チリーが片手で振れる程度であった。

「しまった!」

 キリトが気付いた時には既に遅く、キリトの持っていた剣は回転しながら宙を舞い、キリトの後ろで砂浜に突き刺さった。

「形勢……逆転だッ!」

 チリーは素早く立ち上がり、キリトをその場に蹴り倒すと、大剣の刃先をキリトへと向けた。

「――――俺の勝ちだ」

 得意げにそう言ったチリーを一瞥し、キリトは嘆息する。

「その通りだ」



 チリー達とキリトの戦いの翌日、チリーとニシルは意気揚々と城へ向かった。

 門番に、王捜索隊志願の意を伝えると、二人を見て訝しげな顔をしながらも城内の広間まで通された。

 広間には何も置かれておらず、アグライと名乗る初老の男と、目つきの悪い長髪の男と、寡黙そうな角刈りの男が立っていた。

「ふむ。丁度良い人数だ。名前は?」

 アグライの問いに、チリーから順番に名乗っていく。

 長髪の方はアベル、角刈りの方はロタールと名乗った。

「ちょっと待ってくれよ」

 不意に、アベルがチリー達の方へ視線を移した。

「どういうことだ? まさかこんなガキ共を島の外へ捜索隊として出す気か?」

 アグライはコクリと頷いた。

「彼らの実力は試すまでもない。キリトから話は聞いている」

「親父を知ってるのか?」

 チリーが問うと、アグライはコクリと頷いた。

「彼とは古い友人でね。彼がこの島に来る前から私は知っているよ」

 アグライはキリトの実力を高く評価しているらしく、そんな彼に勝利したチリー達の実力を、少しも疑っていない様子であった。

「俺は納得いかねー! こんなガキ共のお守しながら王の捜索なんて出来るかよ! アンタもそうだよな!?」

 アベルが問うと、ロタールはコクリと頷いた。

「子供では多少問題があるのでは?」

 表情一つ変えずに問うロタールに、アグライは少し考え込むような素振りを見せたが、すぐにポンと胸の前で両手を叩いた。

「では試験はこうしましょう。アベルとチリー、ロタールとニシルが戦い、その内勝った二人を捜索隊として出す……。これで、どうかね?」

 アグライの言葉に、アベルはニヤリと笑った。

「余裕だぜ……。ガキ一人倒すだけで良いんだろ?」

 チリーはムッと顔をしかめると、アベルの方へ視線を移した。

「どうかな? アンタじゃ無理かもよ?」

「冗談はやめとけ。俺は冗談が通じないんだ……」

 ギロリと。アベルはチリーを睨みつけた。チリーも負けじとアベルを睨み返す。

「今この場で始めてくれても良いぜ? 俺はお前ごときにゃ負けねえ」

 ニヤリとチリーが笑うと、アベルは背負っている剣を抜いた。

「上等だガキィッ!」

 そんなアベルを、アグライは止めようともせずただジッと二人のやり取りを見ていた。

「来いよ」

 人差し指をクイクイと動かし、チリーが挑発すると、アベルは剣を構えてチリー目掛けて駆け出した。

「僕らも始めちゃおうよ」

 そのすぐ傍で、ニシルがロタールにそう言って笑っていた。

「おらァッ!」

 チリーの眼前まで迫り、アベルは剣を振り降ろす。が、突如出現したチリーの大剣によって防がれ、アベルの剣は弾かれた。

 アベルの剣は宙を舞い、アベルの傍に音を立てて落下した。

「神力使い……」

 驚愕するアベルには一瞥もくれず、アグライは興味深げにチリーを見つめていた。

「アベルさん、まだやる?」

 大剣を構え、ニヤリと笑うチリーに、アベルは嘆息する。

「いや、俺が悪かった……。お前、神力使いだったんだな」

 悔しげに言いつつも、アベルはチリーへ微笑みかけた。


「ロタールさん。力だけじゃ無理があるよ」

 そのすぐ傍では、足元に倒れるロタールを見下ろしながら、ニシルがニヤリと笑っていた。

「アグライさん、これでどうかな?」

 チリーの言葉に、アグライは十分だ、と頷いた。



 チリー達の出発準備は着々と整って行った。

 あくまで隠密にということで、船を出してもらえなかったが、代わりに四人乗り(チリーとニシルの荷物や食料を置く場所も考慮してのこと)の大きなボートを用意してもらった。

 他にも数人、テイテス城から兵士が派遣されたが、チリーの「鬱陶しい」の一言だけで、彼らは別行動となった。二手に分かれた方が効率良いだろうと判断し、アグライはチリーの要求を承諾した。

 このボートで行けばアルモニア大陸本土のアギエナ国へは一週間以内に行けるようだ。幸い、城の占い師によるとここ一週間の間は雨も降らないし嵐も来ないらしい。アギエナ国への入国許可は、アグライが手配してくれたおかげで既に降りている。

 そこから、西へ。それが城の占い師が占った王の居場所であった。



 トランクケースに荷物を詰め、二人はボートに乗せた。

 これから始まる旅のことを想像しながら、チリーとニシルは顔を見合わせて笑った。

「俺達、島の外に出るんだな……」

「そうだね。まさかこんなことになるなんて、少しも予想しなかったよ」

 そんな二人のやり取りを、キリトは黙って見つめていた。

「親父、行って来るよ」

 コクリと。キリトは頷いた。

「ああ。気を付けろよ。それと、目的を忘れるなよ? お前達の目的は旅行じゃなくて――――」

「王様を見つけ出すこと……でしょ?」

 ニシルに先を言われ、キリトは苦笑する。

「そういうことだ。良いか? 危険だと感じたらすぐに帰って来いよ?」

 そう言ったキリトに、チリーは心配すんな、と笑った。

「それじゃ、そろそろ乗るか」

 呟き、チリーがボートへ乗り込もうとした時であった。


「待って!」


 不意に聞こえたのはミラルの声であった。

 重そうなトランクケースを持ち、ハァハァと息を切らしながらキリトの背後に立っていた。

「ミラル……」

「チリー、ニシル……私も……」

 小さな車輪の付いたトランクケースを引きずりながら、チリー達の傍まで歩み寄る。

「私も……連れてって!」

 しばしの沈黙……。

 だが、すぐに泣きそうな顔でミラルが口を開いた。

「私……二人がこのまま行っちゃうって思うと、すごく寂しかった……。ホントは、行ってほしくない。ずっと一緒に、この島にいたい。でも……二人は行くんだよね?」

 ミラルの言葉に答えられず、二人は黙り込む。ミラルは沈黙を肯定と受け取り、そのまま言葉を続けた。

「だったら……私も行く。私も、二人と一緒に外の世界を見たい!」

 そんなミラルの言葉に、二人は微笑んだ。


「来いよ」


 チリーはミラルのトランクケースを中ば強引に受け取ると、ボートへ乗せた。

「だったら、ミラルも一緒に行こう。僕達は全然構わないから」

 ニシルの言葉に、泣きそうな顔をしていたミラルは嬉しそうに微笑んだ。

 ミラルがキリトの方へ視線を移すと、キリトも二コリと微笑んだ。

「ミラルちゃん。アイツらのこと、頼んだぞ」

「……はい!」

 ミラルは嬉しそうに返事をすると、ボートに素早く飛び乗った。

「さ、二人共! 行こう!」

 先程までと態度が一変したミラルに、二人はやれやれ、と嘆息すると、ボートに乗り込んだ。

「じゃあな親父」

「じゃあねおじさん」

「行って来ます。キリトさん」

 三者三様の別れの挨拶にキリトは微笑んだ。

「おう、行って来い!」

 そう言って、笑顔で親指を突き立てた。



 徐々に遠ざかって行くボートを眺めながら、キリトは溜息を吐くと、ポケットから一枚の写真を取り出した。

 赤ん坊を抱いた白髪の美しい女性と、その隣で微笑む今よりちょっとだけ若いキリトの姿が映っている。

「ラウラ……。悪い。約束……破っちまった」

 愛おしげに、写真に写る女性をキリトは見つめた。

「アイツは、お前の望み通りには育たなかったよ」

 大切に、この島でチリーを育てる。それがキリトと妻――――ラウラが交わした約束であった。

「でもまあ、心配すんな」

 苦笑し、キリトは既に小さく見える程遠のいたボートへ視線を移した。

「アイツは、アイツらは――――俺の自慢の息子だ」

 ニッと笑い、アイツらなら心配ない。とキリトはまるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。

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