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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
86/128

episode86「Deathscythe-3」

「閉鎖された研究所があるだろ、そこに来いィ……」

 突如聞こえた声に気がついて青蘭は目を覚ました。しばらく誰かとクリストが話していたが、やがてクリストは部屋の外へ出ようとした。呼び止めようとしたが、そう思った時には既にクリストは部屋の外に出てしまっていた。

 あの慌て方は普通じゃない。そう感じた青蘭はすぐに着替えると、年のために刀を腰に差した。光秀を起こすかどうか少し迷ったが、自分だけで十分だろうと判断し、光秀を起こさずに青蘭は部屋を出た。





 美しい、三日月だった。まるで鋭利な刃物を思わせるようなその形に、伊織は少しの間見とれていた。静かに輝くその美しさとは裏腹に、狂気も感じられる。美しさと狂気、その二つが絶妙に絡まり合い、月は幻想的な雰囲気を醸し出す。そんな風に考えた後、伊織はクスリと笑みをこぼした。

「いつもはこんなこと、考えないのにな……」

 気持ちが昂ぶっているのだろうか。やはり眠れなかったのは、気持ちが昂ぶり過ぎていたせいなのかも知れない。

 ベッドで眠りにつこうと目を閉じても、中々寝付けなかった伊織は、気分転換をするために外に出て月を眺めていた。昨日からずっとこんな感じで、昨日なんかはベッドに入ってから一時間近く眠れずにいた。

 今日も眠れそうになかったため、伊織は図書館の入り口付近で静かに月を眺めながら夜風に当たっていた。

 ――――助かった。本当に。伊織がいなきゃ、今頃俺はまだ宿で沈んでたよ。

 昨日聞いた青蘭の言葉が、伊織の頭の中から片時も離れない。

 伊織がいなきゃ。他の誰でもなく、伊織自身を青蘭が必要としてくれていたのが、伊織にとってはたまらなく嬉しかった。ニューピープルがどうだとか、疑似聖杯がどうだとか言う話がどうでも良く感じてしまう程、伊織の頭の中ではその時の青蘭のことばかりを繰り返し反芻していた。

 あの時伝えるべきだったのか、それとも伝えなくて正解だったのか。恋愛感情は今自分達に必要ない、必ずそれはこの旅の中で邪魔になる。頭では理解出来ていても、どうしても抑えきれずにいる自分がもどかしかった。

 いや、もしかすると旅の邪魔になることよりも、今の関係を壊してしまうことを恐れているのかも知れない。

 三日月のように欠けたまま、満たされることのない関係。

 ――――何がしたいんだろ、私。

 内心そんなことを呟き、伊織は小さく嘆息した――その時だった。

「え……っ?」

 勢いよく図書館入り口のドアが開かれ、血相を変えたクリストが伊織の隣を走り去って行った。声をかけようとしたが、声をかける暇もなく、クリストは猛スピードで駆けて行った。

「クリスト……さん?」

 唖然とする伊織の後ろで、もう一度ドアの開く音がした。

「伊織!」

「せ、青蘭君っ!?」

 振り返ると、クリストと同じように血相を変えた青蘭の姿があった。

「クリストさん、通らなかったか!?」

「クリストさんなら、今血相を変えて……」

「どっちへ行った!?」

 そう問われ、伊織がクリストの走って行った方向を指差すと、青蘭はありがとう、とだけ言い残してすぐにその方向へ走り出した。

「あ、ちょっと待って! 私も行く!」

 凄まじいスピードで駆けて行く青蘭の背中を、伊織は必死に追いかけた。





 立ち入り禁止を示すロープが張られている研究所の前で、ジェノは目を閉じて待っていた。極秘の研究をしていたためか、研究所は林の奥に存在するため、研究所の周りは木々で囲まれている。研究所の周りには塀があり、その周囲にロープが張られている。研究所の前は伐採されたのか木々がなく、開けた土地になっていた。ジェノはロープの先の、塀に寄り掛かるようにして立っている。

「来たぞ……」

 クリストがそう言うと、ジェノは目を開き、前髪をかき分けてクリストへ視線を向け、クリストの姿を確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。が、すぐにその表情から笑みは消える。

「あァ……?」

 ジェノは短く声を上げ、キョロキョロとクリストの周囲を見回す。

「おいィ……アイツはどうしたァ……」

「お前の目的は私の持つ疑似聖杯だけのハズだ。彼は関係ない」

「あァ……?」

 ギロリと。ジェノは長い前髪の隙間からクリストを睨みつけた。怯み、クリストは少しだけ後ずさる。

「テメェ……」

 呟くように、ジェノがそう言った瞬間、彼の手には大鎌が握られていた。回避しようとクリストが動くよりも先に、ジェノが大鎌を振る。振られた大鎌は伸び、刃先をクリストの首筋ギリギリまで接近させたところでピタリと止まった。

「連れて来いっつったろうがよォ……ふざけんじゃねえぞォ……!」

 怒気の込められたその言葉に、クリストは委縮した。それにも構わず、ジェノは大鎌の刃先をクリストに近づけたまま、ギロリといっそう強くクリストを睨みつけた。

「覚悟は出来てんだろォなァ……」

「良いのか? 疑似聖杯ごと私が死んでも……!」

「知るかよォ……ッ!」

 大鎌を一度クリストから離し、勢いをつけてクリストの首目がけてジェノが大鎌を振った――その瞬間だった。

 金属音と共にジェノの大鎌は防がれる。

「君……ッ」

「クリストさんっ!」

 クリストの背後から駆けよってくる少女の――伊織の声が聞こえる。

「ッハァッ! 待ったぞ小僧ォッ!」

 大鎌を元の長さに戻すと、ジェノはニヤリと笑みを浮かべ、先程大鎌を防いだ青年へ視線を向けた。

「クリストさん、大丈夫ですかッ!?」

 刀を構え直し、青蘭がそう問うた。

「な、何故ここに……!」

「それは俺達の台詞です! 何で勝手にジェノの所なんかに……ッ!」

 すまない、と謝罪の言葉を述べ、クリストはうつむいた。

「伊織、クリストさんを頼む」

 青蘭の言葉に、伊織はコクリと頷くと、クリストと共に青蘭より後方へと駆けて行った。

「楽しませろよォ……小僧ォッ!」

 心底嬉しそうな声音で、ジェノは声を上げると大鎌を青蘭の首目がけて振った。青蘭はすぐに刀で受け、弾くと同時に、青蘭は神力を発動させた。

 身体中に力のみなぎる感覚に、青蘭は思わず笑みを浮かべた。能力は、一時的な戦闘力の強化。神力によって強化された足で、青蘭はジェノの元へ駆けた。

「面白ェぞォォッ!」

 狂った笑い声を上げながら、ジェノは大鎌を今度は逆方向から青蘭の首目がけて振った。青蘭は前進しつつも即座に跳躍し、大鎌を回避する。

「――ッ!」

 青蘭の跳躍力に、流石のジェノも少しだけ驚愕の表情を浮かべる。

 青蘭は大鎌の上に一度着地すると、それを台にして前進しつつ更に跳躍する。

「おおおおおッ!」

 上空からジェノへ刀の刃先を向け、青蘭は勢いよく降下する。

「ッハァ!」

 ジェノはどういうわけか歓喜の声を上げると、降下してくる青蘭とその刀の刃先を右に身をかわして回避する。

「ッ!」

 ザクリと。青蘭の刀が地面に突き刺さった。

「良いぞ小僧ォ……! 面白ェ!」

 青蘭が地面に突き刺さった刀を素早く抜くのと、ジェノが大鎌を元の長さに戻すのはほぼ同時だった。

「おおおおァァッ!」

 声を上げつつ、ジェノ目がけて横に振られた青蘭の刀は、元の長さに戻ったジェノの大鎌によって防がれる。

「来いィ……来いィ……!」

 ニヤニヤと笑みを浮かべたままそう呟くジェノ目がけて、青蘭は何度も何度も刀を振る。右、左、上、下、様々な方向からジェノ目がけて振られる刀を、ジェノは凄まじい反応速度によって大鎌で防ぐ。

 ――――能力で強化した速度に、ついてきている……!?

 今までチリー以外に、武器と武器での戦いで青蘭の動きにまともについてきた人間は、一人もいなかったため、青蘭は表情に驚きの色を見せた。

 驚愕する青蘭とは裏腹に、ジェノは笑みを浮かべたままだった。

「ニューピープルか……ッ!?」

「違ェよォ……!」

 そう言うと同時に、ジェノは大鎌を大きく振って青蘭の刀を弾いた。刀を弾かれ、がら空きになった青蘭の腹部に、ジェノは前蹴りを繰り出す。

「ぐッ……!」

 呻き声と共に、青蘭は後退するが、すぐに刀を構えなおす。

「良いなお前ェ……名前はァ……」

「……青蘭」

 呟くように青蘭が答えると、ジェノはニヤリと笑みを浮かべた。

「覚えとくぜェ……今までで一番、うま手練えさだったってなァ……!」

 そう言った時のジェノの瞳に、青蘭は戦慄した。

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