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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
80/128

episode80「Revenge-1」

 ――――赤石。数百年前、大陸に降り注いだ「赤い雨」の結晶である赤石は、内に強大な神力を秘めており、神力の塊と言っても差し支えない。その力を利用するために、聖杯と呼ばれる杯が存在する。赤石は、聖杯の中へ入れることで初めてその力を自在に操ることが出来るのだ。

 赤石と聖杯。この二つを手中に収めれば、世界を手にすることさえ可能だと言っても過言ではない。


 赤石の伝説「The Legend Of Red Stone」……。





 アルケスタの宿屋に、チリー達は未だ滞在していた。ニューピープルと、究極のニューピープル、いくつかの疑問をアルケスタで解消したチリー達は一度テイテスへと帰った飛行船を待っていた。物資の調達のために帰っただけなので、もう既にアルケスタへ戻ってきていても良い頃なのだが、チリー達がアルケスタを訪れてからもう一週間近く経つというのに、どういうわけか一向に飛行船は戻ってこない。

 チリー達は、暇を持て余していた。

 チリーとニシルは退屈そうにベッドへ寝そべっており、トレイズとミラルは部屋に置いてあるチェスで真剣勝負を繰り広げている。カンバーはたまに部屋に戻っては来るものの、アルケスタに来てからほとんどの時間を大図書館で過ごしている。恐らく、アルケスタで最も時間を有意義に使っているのはカンバーだろう。

「チェックメイトだ」

 コトリと、駒を動かす音がした。トレイズが笑みを浮かべると同時に、ミラルが落胆した表情で小さく溜息を吐いた。

「駄目ね……全然勝てない……」

「いや、ここ数日で随分強くなった。もう少しやれば俺にも勝てるようになるハズだ」

 ガックリと肩を落とすミラルへ、トレイズは柔らかな表情を浮かべた。

 出会って間もない頃は表情の変化が乏しかったトレイズだが、いつの間にか仲間内では笑顔を見せるようになっていた。今の彼に、最初の頃のような近寄り難い雰囲気はないと言っても良いだろう。

「チェスか……暇潰しになるなら僕もやってみよっかなぁ」

「やめとけやめとけ。クソゲーだぜアレ」

 興味深そうにチェス盤へ視線を向けるニシルへ、チリーは呆れたような表情で言い放つ。

「チリーの頭が弱いだけだろ。僕ならもうちょっと上手くやれるね!」

「誰の頭が弱いって……?」

「お前のその白い頭だよ」

「ちっせー分頭に色々詰まってんだな小型人種チビ

「そうだね。頭空っぽにしてまで大きくなりたいとは思わないよ」

「詰まってるモンが脳味噌とは限んねーしな。意味ないものが詰まった頭な上にチビとかやってらんねーよ」

 ギラギラとした視線で睨み合う二人を見、ミラルはまた始まった……と呟いて嘆息する。最近、この二人の喧嘩はレベルが上がっているように感じる。前は少し罵り合った後はすぐに小突き合い、という流れだったのだが、最近は今のように様々な言葉でお互いを罵り合うようになっている。暴力には発展しないものの、ギスギスした空気が非常に心地悪い。

「はいはいそこまで。退屈で苛立ってるからって、イライラを二人でぶつけ合うのはやめなさい」

「だってよォ……」

 不満げに、チリーが言葉を漏らした時だった。

 突如として部屋のドアが乱暴に開けられ、部屋の中へ五人の兵士が入り込む。武装した彼らは銃をこちらへ向け、ピタリと制止した。

「何なのよアンタ達……っ!?」

 ミラルの言葉には答えず、真ん中の兵士がチリーの寝そべっているベッドへと歩み寄り、ギロリとチリーを睨みつけた。

「ンだよ……?」

「チリーだな?」

「だったらどうだってんだよ」

 身体を起こし、負けじと睨み返すチリーへ兵士は銃を向けた。

「ゲルビア帝国国王から直々に殺害命令が出ている」

「な――――ッ!?」

 兵士の言葉に、その場にいた全員が驚愕した。

「嘘でしょ……!?」

 口元に手を当て、ブルブルとミラルは震え始めた。ニシルやトレイズも、表情に驚愕の色を隠せない。

「……上等じゃねェか」

 不意に、チリーは不敵な笑みを浮かべた。

「……何ィ?」

 兵士が言葉を発するのと、チリーの蹴りが兵士の銃を蹴り上げるのはほぼ同時だった。

「――ッ!」

 虚を突かれた兵士が目を丸くしたのを見、チリーは薄らと笑みを浮かべて兵士の腹部へ右拳を叩き込んだ。

「貴様ッ!」

 一斉に、銃口がチリーへと向けられた。

「げ……」

 チリーが呟くと同時に、四つの銃口から同時にチリーへ向けて弾丸が放たれた。

「チリー!」

 ミラルの声は、金属音でかき消された。

「……ッ……神力使い……!」

 兵士の一人が、口惜しそうに舌打ちする。

「危ねぇなコラ」

 咄嗟に大剣を出現させたチリーは、その大剣に身を隠すことで全ての弾丸を防いだのだ。チリーの身の丈程もある大剣は、身を隠すには十分な大きさだった。

「うらァッ!」

 声を上げると同時に剣を消し、チリーはベッドから跳び上がって兵士の一人へ跳び蹴りを喰らわせた。叫び声を上げて昏倒する男の傍では、ニシルとトレイズの手によって他の兵士達が一人、また一人と倒されていく。

 わずか数分の内に、五人の兵士は全滅させられていた。

「直々に殺害命令って……どういうことだよ……!」

「さあな……。だが、これ以上この宿にはいられないな」

 トレイズの言葉に、チリー達は静かに頷いた。



 適当に会計を済ませ、部屋の中に気絶した兵士達を残したままチリー達は宿屋を後にした。

「なるほどね……」

 宿屋を出た後、建物や壁の所々に張られているポスターを見つつニシルは呟いた。

「道理で視線を感じるわけだぜ……」

 指名手配と大きく書かれたポスターに、チリーの顔写真が大きく貼られていた。いつ撮られたのかはわからないが戦闘中に撮られたらしく、写真のチリーは大剣を構えていた。

「見つけた際は殺害、もしくは拘束……穏やかじゃないね」

 静かに呟いたニシルへ、チリーは静かに頷いた。

「とにかく、顔を隠さないと……」

「……そうだな。顔がバレている以上、このまま晒しておくのはまずい」

 ミラルの言葉に頷きつつ、トレイズは静かにそう言った。



 ミラルとトレイズは、チリーの顔を隠すためのローブを買うために雑貨店へ向かった。ニシルは万一のことを考えてチリーと共に店の前で待機していた。

「クソ……何でこんな面倒なことに……」

 悪態を吐きつつ、チリーは嘆息する。

「ライアスって奴がチリーを殺そうとしてたよね?」

「ん、ああ。こないだ返り討ちにしてやったけどな」

「ライアスもハーデンから命令を受けてたみたいだし、ハーデンにとってチリーは相当邪魔みたいだね……」

 強力な神力使いであるライアスを向かわせてまで、チリーを殺そうとしているハーデンはライアスが失敗したのを知り、こうして国中に命令を出したのかも知れない、とニシルは考えた。そしてチリーが邪魔だとされている理由は恐らく――

「究極のニューピープル」

「……」

 体内に小赤石を宿し、膨大な神力をその身に宿す究極の存在。『白き超越者』として力を持つチリーを、ハーデンは脅威だと感じているのだろう。そしてそのハーデンもまた――チリーと同じ究極のニューピープル、『黒き超越者』だった。ライアスにチリー殺害の命令を下したのも、チリーを早い段階で始末しようと考えた結果なのだろう。

「上等だ……ッ! ライアスだろうがクソ兵士共だろうがまとめて相手になってやる……!」

 拳を握り締め、吐き捨てるようにチリーはそう言った。どうやら、恐れも怯えもないらしい。その様子に、ニシルは安堵の溜息を吐いた。

「……ん?」

 ふと、ニシルは歩いている一人の少女に目を奪われた。

 悪く言えば存在感のない、良く言えば儚げな少女だった。背はニシルよりも低く、黒いセミロングの髪が風になびいている。その姿に、ニシルは一瞬見惚れた。

「ニシル?」

 背後から声をかけられ、肩をびくつかせつつ慌てて振り返ると、そこには買い物をすませたミラルとトレイズがいた。手には旅人が身に着けているような、防寒用のローブがあった。フードを被れば顔全体を隠せるような薄茶色のローブだった。

「ほらチリー、これ着て」

「うわ、無茶苦茶暑そう……」

 不満気な表情を見せつつも、チリーはミラルからローブを受け取り、渋々と着込んだ。

「……少し怪しげだが、これで一応顔は隠せるだろう」

 フードを深くかぶったチリーを見、トレイズは静かにそう言った。

「なんかこう、黒魔術とかやってそうな格好だね」

 茶化すようなニシルの言葉に、チリーは何も言い返さず、ただ嘆息するばかりだった。





 とある建物の上から、チリー達を双眼鏡で観察している二人の男がいた。男達の内一人は、中性的な顔立ちで、長い金髪が風になびいている。チリーを見つめるその顔は、尋常ではない憎しみによって醜く歪められていた。そしてもう一人は小柄な男で、仮面をつけているせいでどんな顔をしているのかわからない。しかし彼もまた、チリーへ対して憎しみの視線を向けていることは雰囲気から察するに間違いないだろう。

「君は今随分と怒っている、そうだね? ゲイラ?」

「……答えるまでもないだろう」

 ゲイラと呼ばれた男は、ぶっきらぼうにそう答えた。

「それよりも、そのうざったい喋り方をやめろ、エトラ」

 エトラと呼ばれた仮面の男は、仮面の奥でクスリと笑みをこぼす。

「それは無理な相談だね? そうだね? ゲイラ?」

 エトラの言葉に、ゲイラは舌打ちし、改めて双眼鏡を覗き込み、チリーへ視線を向ける。ローブを着込んでしまったせいでわかりづらくなったが、ローブを着込む前から観察していたゲイラ達にとってはあまり関係のないことだった。

「僕も君も、あの少年を殺したい……そうだね? ゲイラ?」

「……そうだな」

 ニヤリと。ゲイラは笑みを浮かべた。

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