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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
8/128

episode8「Beginning-3」

 人混みを掻き分け、三人はやっとのことで看板が見える位置まで辿り着く。

「マジか……」

 ボソリと。看板の内容を読み終えた驚愕した表情でチリーが呟く。

 ニシルとミラルの二人も同様に、驚きを隠せない様子だった。

 看板に書かれていた内容を要約すると失踪したアレクサンダー王を捜索するため、兵ではない一般の島民から捜索隊を募集するとのこと。事を他国に悟られぬため(攻め込まれるので)、少人数……二、三人くらいがベストらしい。

 立候補する者は城へ向かい、担当者のアグライの元で試験を受けなければならないようだ。

 見事王を見つけ出し、無事連れ帰ることが出来た者には多額の報酬金が出るらしいが、リスクが高いせいか行こうと言う者は見当たらなかった。

「一般の島民ってことは……」

「俺達でも良いってことだよな……?」

 ゴクリと。二人は唾を飲み込んだ。

 ずっと、外の世界に憧れていた……。島での生活が不満な訳ではない、ただの好奇心だ。外の世界を見てみたいという強い好奇心。少年二人を動かすには十分過ぎる理由だ。

「ニシル」

「ん?」

「俺が、次お前に何て言うかわかるか?」

 ニシルはコクリと頷き、微笑んだ。

「『一緒に王様捜しに行こうぜ』、でしょ?」

「わかってるじゃねえか」

 そう呟き、チリーは看板からニシルの方へ視線を移すと、そのままどこかへ走り出した。

「ちょっと、どこへ……」

 ミラルが言い終わらない内に、ニシルもチリーの後を追いかけ始める。

「ま、待ってよ!」

 訳がわからず困惑しつつも、ミラルはそんな二人を追いかけるのだった。



「駄目だ。お前達にはまだ早い」

 即答であった。チリーとニシルが王捜索隊に立候補する意を父、キリトに伝えてみたところ、腕を組んだまましかめっ面で断られた。

 看板を見た後、チリー達が向かったのは自宅であった。

 ミラルは中に入らず、不安げな表情で二人を外で待っていた。


 チリーとニシルは同じ家で暮らしている。

 親に捨てられ、行き場をなくしていたニシルをキリトが引き取り、まるで我が子のように育てていたため二人は兄弟同然の関係なのだ。

 チリーの母は病弱だったため、チリーが幼い頃、既に亡くなっている。それ故、チリーとニシルは、キリトが男手一つで育てているのだ。


「なんでだよ!? もう俺達は島の外に出られるくらい強いし、もう子供じゃねえ!」

「そうだよ! 僕達だってもう十分外に出られる年齢だよ!」

 必死にそう言う二人へ、キリトは首を左右に振った。

「駄目だ。何度も言わせるな二人共。お前達が外に出たところで野垂れ死ぬだけだ。やめておけ」

 いつもの軽い態度からは想像もつかないような厳格な態度で、キリトは静かに、言葉の中に怒気を込めた。しかし、チリー達は一向に引こうとせず、唸りながらキリトを睨みつけている。

「野垂れ死んだりなんかしねえ! 俺達が十分強いのは、親父だってわかってんだろ!?」

 チリーの言葉に、キリトは静かに首を横に振った。

「いや、弱いな。少なくとも俺に勝てないようじゃ、島の外なんかには出せない」

 キリトがそう言うと同時に、力任せにチリーは右拳で壁を殴った。

「だったら……!」

 相当腹を立てているのか、その声は怒りに震えていた。

「だったら、俺が親父を倒せば行かせてくれるんだな!?」

 キリトが想像した通りの答えであった。拳を震わせ、キリトを睨みつけてくるチリーを見て嘆息すると、キリトはコクリと頷いた。

「良いだろう。俺に勝てるのならな」

「その言葉、絶対忘れんなよ!」

 チリーは再度キッとキリトを睨みつけるとそう吐き捨て、家の外へと飛び出した。

「僕も、本気だから」

 静かに言い残し、ニシルもチリーの後を追った。



 ミラルが家の外で待機していると、ドタドタと足音をさせながら、肩を怒らせてチリーが家から出て来た。続けてニシルもどこか怒っているような雰囲気で出て来た。

「ど、どうだった?」

 二人の態度から察すれば答えはわかったも同然なのだが、ミラルはあえて問う。

「あの糞親父! 俺達のことをまだガキ扱いしてやがる!」

 チリーは地団駄を踏みながら怒り散らしている。

 ニシルの方は黙ったまま、拳をギュッと握りしめている。

「駄目……だったんだ……」

  まるで自分のことのようにガックリと肩を落としたミラルの肩に、ニシルがそっと手を置いた。

「大丈夫だよ。僕とチリーがおじさんを倒せば、許可してくれるみたいだから」

「キリトさんを?」

 ミラルの問いに、ニシルはコクリと頷く。

「ニシル! 絶対勝つぞ!」

「うん!」

 二人は顔を見合わせて頷くと、特訓特訓と騒ぎながら海岸へと向かって行った。



 いつもの砂浜。いつもキリトとチリー達が特訓をするあの砂浜である。

 辺りには波の音が鳴り響き、上空では海鳥達が鳴いている。

 海岸には島の外から流されて来た様々な物が流れ着いており、瓶やら大木やらが所々に転がっている。

「待ってたぜ……親父」

 ギュッと拳を握りしめ、チリーは目の前に立っている男――――キリトを軽く睨んだ。

「いつもの砂浜に来い……ね。チリー、ニシル、お前達はいつから親に対してそんな生意気な文章が書けるようになったんだ?」

 キリトが左手に持っているのは、小さな紙切れだった。

 そこには「いつもの砂浜に来い」とおせじにも綺麗とは言えない字で書き殴られており、隅に小さく「チリー、ニシル」と書かれている。キリトはその紙をビリビリと破くと、海の方へ放った。

「おじさんも、いつから子供相手に武器を使うような大人になったの?」

 ニシルは、キリトの背に背負われている剣の柄部分を睨みつける。

「悪いが、俺は本気でお前達を行かせるつもりがないのでな……。本気でやらせてもらう」

 そっと。キリトは剣の柄に手をかけた。

 それを見て、チリーとニシルも素早く身構える。



「チリー……ニシル……」

 ボソリとそう呟いたのは、チリー達から離れた場所で遠巻きに三人を見ているミラルであった。

 胸の前で両手を組み、祈るようにチリー達を見つめている。

 正直この戦い、ミラルからすればチリー達には勝ってほしくない。

 島の外のことを考えれば、チリー達が危険に晒されるのは目に見えているし、何より――――二人が自分の傍を離れるのが心配で仕方がないのだ。

 ミラルがこの島に来てから今日まで、ずっと三人一緒に過ごして来た。ケンカをするような日もあったが、三人は常に一緒だった。

 その二人が今、島を離れるために戦おうとしている。

 チリー達には、勝ってほしくない。キリトに倒され、説教を受けて、諦めて、それでまた今まで通り三人で過ごしたい。しかしそれでも、チリー達の意思を尊重したい気持ちと、キリトとの戦いで傷ついてほしくないという思いが存在し、ミラルの中でない交ぜになっていた。

 ただ、見ていることしか出来ない。

 それが悔しくて、ミラルは歯噛みした。



 ゆっくりと。キリトは剣を抜いた。小振りな、扱いやすいショートソードだ。

 日光に照らされ、剣の刀身がキラリと光った。

「行くぞ。二人共」

 キリトは剣を片手で持ち、構えると、素早く二人の方へ駆けた。

「来いッ!」

 キリトはチリーの眼前まで迫ると、チリーの肩目掛けて斜めに斬り込んだ。

 チリーが素早くそれをかわすと同時に、キリトの背後からニシルが殴りかかる。

「おおッ!」

 キリトは身を屈めてニシルの拳を避けると、剣の柄でニシルの腹部を強打した。

「ぐ……ッ!」

 呻き、一瞬停止したニシルの身体に、キリトは裏拳を打ち込み、そのまま後方に吹っ飛ばす。

 そのまま数メートル飛び、ドサリとニシルは倒れた。

「ニシルッ!」

 右拳で殴りかかってくるチリーの右拳を、キリトは左手でガッシリと掴んだ。

 チリーは右腕を下に振ってキリトの左手を振り払うと、素早く後退し、キリトから距離を取った。

「どうした? 島の外に出るなら、俺から逃げているようじゃ駄目だな」

「うるせえ……ッ!」

 ギュッと拳を握りしめ、チリーは歯噛みした。

 キリトに近づこうにも、素手と剣では間合いに差があり過ぎる。

 キリトは本気だ。下手をすれば斬られて重傷を負う可能性も高い。

 今のキリトなら、例え相手がチリーとニシルでも、その剣で斬るだろう。我が子と、我が子同然に育てた子であっても。そうまでしてキリトはチリー達を止めたいのだろう。と、チリー自身も薄々わかっていた。反対するのは真に自分達のことを考えてのことなのだと。

 だが、引くつもりはなかった。

 キリトの親心はわかる。が、それでもチリーと、ニシルの好奇心を抑えるには至らない。

 現にチリーは諦めていないし、先程倒れていたニシルも起き上がり、反撃のタイミングを見計らっている。

「親父」

「何だ?」

「俺は……いや、俺達は……」

 チリーとニシルは、真摯な眼差しで真っ直ぐとキリトを見据え、そして同時に叫んだ。

「「絶対に諦めるつもりはないッ!」」

「クソガキ共め……」

 二人の言葉に、キリトはそう呟いたが、その表情にはどこか笑みが浮かんでいた。

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