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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
76/128

episode76「Library」

 知識の町、アルケスタ。大陸で……否、世界で最も巨大な図書館を有する街であり、それ故に「知識の町」と呼ばれる。世界中の知識や書物が、この街一つに詰まっているといっても過言ではない程に、アルケスタの大図書館の蔵書量は凄まじかった。

 その大図書館へ、チリー達は訪れていた。

 様々な建物が並ぶ街の中でも、圧倒的存在感を放つ大図書館。恐らく、アルケスタ内にある建物の中では最も巨大と言っても差支えないだろう。

 大図書館は何人もの人間が出入りしており、まだ早朝だというのに既に沢山の人間が入れ替わり立ち替わりに出入りしている。

 そんな大図書館に、チリーは圧倒されていた。

「デケェ……こん中、ほとんど本なんだろ……?」

「はい。アルケスタ大図書館は世界一の蔵書量を誇っており規模も世界最大ですこの大図書館の本を閲覧するためだけに世界各国から研究者達がまるで磁石に吸い寄せられるかの如く集まっていますその上この大図書館は一般人でも入ることが出来る上閲覧禁止や閲覧制限のある本が存在せずこの大図書館にある本は全て読み放題ですしかし残念ながら盗難を防ぐためこの大図書館内の本は借りることが出来ず厳重に警備されていますが問題ありません何故ならこの大図書館にこもり続ければ良いのですそういった研究者のために食事や入浴や宿泊など様々なサービスがあるためこの大図書館に泊まり込みで研究をする研究者が後を絶たず……」

 いつものカンバーからは考えられない程の速度で、カンバーは息継ぎすらせずに大図書館に関する情報を述べ始める。あまりの勢いに圧倒され、いつもは表情を変えないトレイズすら驚愕した様子でカンバーを見つめていた。

「ちょ、ちょっとストップ! カンバー!」

「……更にこの大図書館には考古学的に価値のある古代の文書の複製本が存在しなんとそれを閲覧することすら可能なのです心躍りますね心躍るでしょう正に知識の世界正に本の世界この大図書館こそが世界で最も価値のある建物だといっても問題ないでしょうこの大図書館でなら俺は一生を終えても良いと思っています死ぬまでこの大図書館の中にいても良いと思っていますしかし残念なことに人間の寿命は短くこの大図書館に蔵書される本全てを閲覧することは不可能でありそれを可能にするためには不老不死の法を会得しなければなりませんそうか赤石を使えば良いのか赤石を利用することによって不老不死の法を得ることは恐らく可能あの強大な力を持ってすれば不老不死となり大図書館の本全てを閲覧することが可能になるということで……」

「ストップストップ! 変な方向に行っちゃってるから! このままだとカンバー僕らの敵になっちゃうよ!?」

 ニシルの言葉はまるでカンバーの耳に入っていないらしく、カンバーは減速するどころか更にスピードを増して大図書館について……否、新たな野望について語り続けている。

「もう! 落ち着いて!」

 次の瞬間、ミラルのゲンコツがカンバーの頭上に叩き落とされた。鈍い音がして、カンバーはその場でよろめく。倒れかけたカンバーの身体は、トレイズが慌てて支えた。

「…………ハッ! 俺は一体……何をしていたんでしょうか……」

 正気に戻ったのか、先程の衝撃でずれた眼鏡を直しつつ、カンバーは訝し気な表情で呟いた。

「……戻ったか」

 そんなカンバーを見、トレイズは安堵の溜息を吐いた。

「何だったんだ……」

 チリーは呆気に取られた様子で、呆然とカンバーを見つめている。

「すいません。大図書館を前にして興奮してしまいました」

 興奮というより、暴走に近い。

「あ……」

 カンバーが声を上げると同時に、カンバーの鼻から一筋の血が流れる。


 興奮による、鼻血だった。




 アルケスタ大図書館の中は、正に本の世界だった。

 エントランスで受け付けをし、奥の図書館へ入るとそこにあるのは大量の本棚とそれに収められた本。そして机に大量の本を山積みにした研究者らしき人達だった。

 壁が見えない程に設置された本棚。円筒型のこの部屋は、壁に沿うようにして螺旋階段と本棚が設置されていた。螺旋階段では様々な人々が本棚の前で本を立ち読みしているため、上るのは少し厄介そうだった。恐らく、机が研究者達によって占拠されているため、立ち読みせざるを得ないのだろう。

 この部屋だけでも凄まじい本の数だというのに、ここはまだ「第一図書館」だった。

 どうやらこの大図書館には「第十二図書館」まで存在するらしい。

 一階がエントランスと第一~第五図書館。二階が第六~第十図書館。三階が宿泊施設等と第十一~十二図書館。という風になっているらしい。

 この中からニューピープルに関する本を探すのは非常に困難だと思われた。

 受け付けで聞いてみたところ、研究書や研究者のまとめたレポート等は第一図書館に蔵書されているとのことだった。ニューピープルに関する本があるとすれば、第一図書館だろう。

「こう、本ばっかだと頭痛くなりそーだぜ……」

「チリーは馬鹿だもんね。本は厳しいよね」

「うっせえ小型人種チビ!」

「いっつもそれだよね? 他に何かないの? 語彙だよね、語彙が少ないんだよね? そうだね? チリー?」

「誰だよお前は!? どっかで聞いたようなうぜえ口調で喋んな!」

 怒鳴るチリーの肩を、ミラルがトントンと叩く。

「ねえ、ちょっと」

「あァ?」

「見て」

 ミラルが指差した方向は、研究者達が本を読みふけっている机の方だった。

「げ……」

 ギロリと。いくつもの視線がチリー達を睨みつけていた。殺気すら感じるその視線に、チリーはたじろいだ。

「す、すいませんでした!」

 ふかぶかと、チリー達は頭を下げた。



 第一図書館で本を探し始めること一時間。ニシルは螺旋階段に座り込み、もう無理、と弱音を吐いた。

「大丈夫?」

 本を片手にミラルが問う。

「あんまり。でも僕よりアイツのがヤバいと思う」

 ニシルが指差した方向には、非常に間の抜けた顔でダウンするチリーの姿があった。本を片手に階段の上に倒れ、ピクピクと痙攣している。そんなチリーの上を、本を持った人達が邪魔そうに表情を歪めながらまたいで行く。

「あちゃー……」

 見ていられない、といった様子でミラルは右手で片目を塞ぐ。

「おーい。バカチリ大丈夫かー」

 ニシルの声も届かないのか、チリーは痙攣しながらブツブツと何か呟いている。

「駄目だね。チリーはもう使い物になんないよ……」

 ニシルは溜息を吐くと、チリーの元へ歩み寄り、チリーの持っている本を元の本棚へ戻す。

「おーい、生きてるかー」

「本とかマジ勘弁……」

 呟き、チリーはその場で気を失った。

 そんな彼らとは対照的に、カンバーはチリー達より遥か先で本を閲覧していた。片っぱしから本を手に取っては戻し、ニューピープルに関する本を探している。トレイズも負けず劣らずの速度で、本を探している。



 それから更に数時間後、カンバー以外の四人は三階のレストランで食事を取っていた。

 図書館でのダメージを回復するかのように、チリーは凄まじい勢いで食べ物を口の中へと運んでいる。

 ちなみに、四人はカンバーも誘ったのだが、その時のカンバーの言葉が……

「いえ、お腹いっぱいです。本で」

 という常人からすれば明らかに常軌を逸していると判断出来る一言だったため、そのまま図書館に残してレストランへ向かうことになった。

「カンバーじゃないと無理じゃない? あの中で本を探すのは」

 そう言ったニシルに、トレイズは静かに頷いた。

「かも知れない」

 黙々と作業していたものの、流石にトレイズにとっても厳しかったらしい。

「ふぁんふぉふぁふぁふぃふぁんふぇん! (本とかマジ勘弁!)」

「はいはい、食べ終わってから喋りなさい」

 チリーを適当にあしらいつつ、ミラルは嘆息する。

「ミラル、お前から聞いた話だと、確かアルケスタには研究所がなかったか?」

 トレイズの問いに、ミラルはコクリと頷いた。

「ええ。確かあったわ。あの研究所で事件が起きて以来、お父様は変わってしまって……」

「その研究所、ニューピープルと何か関係があるかも知れないな」

 トレイズの言葉に、ニシルはなるほど、と感嘆の声を上げた。

「調べに行ってみる価値はあるよね」

「確か、閉鎖されているだけでまだ取り壊されてはいないハズよ」

「なら行ってみようよ。本を探すよりマシ……じゃなくて、何か有力な情報があるかも知れないし」

 ニシルがそう言うと、そうだな、とトレイズは頷いた。

「んじゃ、行ってみようぜその研究所。俺はやっぱ本で調べるより、そういうのの方が性に合うしな」

 ニヤリとチリーは笑みを浮かべ、使い終わったフォークとナイフを皿の上へ置いた。

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