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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
75/128

episode75「Stratagem」

 いつもより広い部屋だった。

 東国を出、アルケスタへと到着したチリー達だったが、到着した頃には既に日が落ちており、アルケスタの大図書館の閉館時刻がとっくに過ぎてしまっていたため、宿で一泊してから翌日、大図書館で調べ物をすることになった。

 一度テイテスに帰る前までは、資金不足故に安い宿しか借りれなかったが、テイテスから旅の費用として資金を与えられたため、今までより遥かに良い宿を借りることが出来た。

 二人で一部屋ずつ(ミラルは一部屋)、部屋一つにベッドが二つ設置されているため、チリー達男性陣は初めて宿のベッドを一人一つずつ与えられたことになる。このことに関して、チリーとニシルは大はしゃぎであった。

 部屋も今までより広い物で、シャワールームまで設置してある。今まで安宿で耐えてきたチリー達にとっては至れり尽くせりだった。

 そして今、明日の予定について一度全員で話し合うために、トレイズとカンバーの部屋へとチリー達は集まっていた。

「アルケスタ大図書館の開館時刻に合わせて、明日は出発しましょう」

 静かに、ベッドに腰掛けたカンバーは皆に聞こえるようにそう告げた。

「ニューピープル……か」

 ボソリと。トレイズが静かに呟いた。

「あのドリルの大男と、もう一人のヒョロい奴のことだよね」

 ニシルの言葉に、チリーはコクリと頷いた。

 ――――新人類ニューピープルです。

 チリーの脳裏に、ニコラスの言葉と姿が鮮明に蘇る。人を越えた身体能力を持ち、相手の神力を無効化する能力を持った男。チリーの大剣を、トレイズの氷を、光秀の斬撃を一瞬にして無効化したあの能力。現段階では、対策方法はない。その事実に、チリーは歯噛みする。

「赤石は奪われましたが、まだ俺達に希望がないわけではありません」

 そう言って、カンバーはそうですね? とミラルへ視線を向けた。

「……うん」

 頷いて、ミラルはそっと自分の胸へ触れた。

「ミラルの中に……聖杯……。ゲルビアに気付かれれば、確実にお前は狙われることになる」

 トレイズの言葉に、ミラルは不安げな表情を見せる。が、それをかき消すように、チリーは快活な表情で言い放った。

「だったら、守りゃ良い。難しいことじゃねーよ」

 チリーの言葉に、トレイズはそうだな、と微笑した。

「……ありがと」

 胸に手を当てたまま、ミラルはニコリと微笑んだ。

 ――聖杯。東国戦争の際、一度死にかけたミラルを救った杯。白蘭の体内へ宿されていた聖杯は、白蘭の能力によってミラルの体内へと移された。聖杯については、あらかじめカンバーが調べていたらしく、ある程度は把握出来た。

 聖杯保持者は、外的要因では死ぬことが出来ない。つまり、ミラルは聖杯をその身に宿している限り、寿命以外で死ぬことが出来ないのだ。

 それを聞いたチリーは、東国の地下洞窟での一件をやっと理解した。偽の青蘭に殴られ、頭部を負傷したハズのミラルは、目を覚ました頃には傷痕一つなかった。それはつまり、聖杯保持者故なのだろう。

「僕らは聖杯。ゲルビアは赤石。とりあえず五分五分だよね」

「ああ。後は俺らがゲルビアから赤石ぶん取りゃ勝ちってことだ!」

 チリーとニシルに、カンバーはそうですね、と静かに同意する。

「ですが、国としてのゲルビアは強大。それに、ニューピープルと呼ばれる人を越えた存在。今までのように、ただの神力使いが相手……とは考えない方が良いでしょう」

 青蘭や麗を軽くあしらうニコラスの姿が、ミラル以外の全員の脳裏を過った。

「ニューピープルに関しては謎な部分が多過ぎますね……。まあ、それを明日調べるのですが……」

 ニューピープルに関してわかっていることは、あまりにも少な過ぎた。

 人間以上の身体能力を持つこと、そしてニコラスとあの大男以外にも存在するということ。

「そして恐らく、ニューピープルと呼ばれる奴らは全員神力使いだろう」

「だろうね……。ねえ、トレイズが攫われて研究対象にされたことがあったよね?」

「ああ」

「もしかすると、ゲルビアの行っている神力研究って、ニューピープルと関係あるんじゃないかな……」

 ニシルがそう言うと、トレイズはかも知れないな、と静かに答えた。

「神力使いを、生み出す研究……?」

 ニシルの一言に、その場にいた全員が――話についていけていなかったチリーですら戦慄した。

「そう言えば、飛行船はどこ行ったんだ?」

 しばらくの沈黙の後、不意にチリーが思い出したように問うた。

「……降りる時に説明したハズなんだが……。アイツらは一度テイテスへ戻って報告がてら物資の調達だ」

「だから降りる時荷物も一緒だったのか」

 納得した表情でそう呟いたチリーを、全員が呆れ顔で見つめた。



 チリー達を乗せていた飛行船は、テイテスへと向かっていた。テイテスからイレオーネ大陸、そしてそこから更に東国、そして東国からゲルビアへ……当初の予定以上の長旅だったため、物資は勿論燃料も不足した状態に陥っていた。

「ふぅ……」

 暗い海の上を飛ぶ飛行船の操縦席、操縦士の男、エーベルは嘆息した。腕時計を見、交代まで後一時間だということを確認すると、エーベルは自分に渇を入れるかのようによし、と呟いた。

 交代前にたっぷりと眠ったハズなのだが、やはり夜は少し眠い。これだから夜間は……と悪態を吐いたところで、どうにもならない。眠気に抗いつつ、欠伸をしながら操縦するしかないのだ。

「眠てぇ……」

 呟き、大きく欠伸をした時だった。

「エーベルさん!」

 勢いよく、操縦席のドアが開かれる。突然のことに、エーベルの眠気は途端に吹っ飛んだ。

「どうした……?」

「敵機です!」

「敵機だと……?」

 狼狽した表情でエーベルが問うと、男は焦った様子でコクリと頷いた。

 非常事態。敵機に襲われることなど、エーベルはおろか、アグライ達ですら想定していなかった。テイテスの経済的な問題上、万が一という不確定な要素で飛行船を武装させることは出来なかった。故に、敵機への対策は――

「降参か、退避……」

 だが、この飛行船はそれ程速く移動出来るわけではない。退避は不可能に等しいだろう。

「何機だ?」

「一機です……それも、戦闘機」

「戦闘機……ッ!」

 男の言葉に、エーベルは表情を驚愕に歪めた。

「向こうは戦闘する気満々じゃないか……ッ!」

「ど、どうします……?」

 男が問うた、その時だった。

 轟音と共に飛行船本体は激しく揺れた。

「ッ!?」

 エーベルと男はよろめき、壁に手をつく。揺れが収まると同時に二人が嘆息すると、続けざまにもう一発撃たれたのか、飛行船は轟音と共にもう一度激しく揺れた。

「攻撃……されている……ッ!」

 エーベルが驚愕している間にも、次々と飛行船は衝撃を受け、揺れ続ける。

「落ちるぞッ!」

 エーベルが船が下降していることに気付いた頃には、既に遅かった。

 既にこの飛行船は、破壊されていた。

 エーベルが時刻を確認してから三十分程度経った頃には、既に飛行船は海へと沈んでいた。

 海へ沈んだ飛行船を確認するかのように、飛行船を撃ち落とした戦闘機は周囲を旋回していたが、やがてゲルビア帝国の方角へと飛び去って行った。





 とある場所で、一人の男が立っていた。金髪の、男だった。

 男はポケットから、ノイズのような音を鳴らし始めたトランシーバーのような通信機器を取り出し、耳に当てる。

『ディルク様、指示通り、撃ち落としました』

 通信機器から聞こえるその言葉に、ディルクと呼ばれた金髪の男はニヤリと笑みを浮かべた。

「そうか。よくやってくれた」

 それだけ答えると、ディルクは通信機器の電源を切った。

 全て、計画通り。

 テイテスの飛行船が東国を発つ際、乗組員の一人に化けたディルクは人知れず船内に乗り込む。その後アルケスタで降り、飛行船の移動先を予め戦闘機で待機させておいた仲間へ連絡。そして飛行船を撃ち落とすことで、テイテスの連中の機動力を奪う。

 まんまと、ディルクの計画通りに進んだのだ。

「そして、聖杯」

 船内で耳にした情報。

「奴らの中に――聖杯保持者が存在する……!」

 ニヤリと。ディルクは笑みを浮かべた。

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